白鳥 真冬、立つ!
正門の前に到着し、白鳥 真冬は胸を張り、フンッと鼻を鳴らした。
「全く何の変化もない、つまらない学校ね!」
悪態をつくように吐き捨てると、見下す様に校舎全体を眺めた。
しかし、平均身長よりも随分と低い真冬の背丈を差し引いても、校舎全体を見下ろすのは無理な話である。
自然と真冬の視線は校舎の壁面から屋上、雲の流れる空へと移った。
「春休みは短いから、当たり前だよー」
「ふぇ!?」
突然声を掛けられると、どうしても変な声が出てしまう真冬である。
「な、なーんだ桜子か、驚かせないでよね」
春野 桜子は、真冬の同級生である。
真冬としてはうざい娘だなー等と思っている訳だが、当の桜子は意に介さない様子で、真冬を一番の仲良しだと思っている。
「おはよー真冬ちゃん、風が強いねー、雲が逃げ出してくよ」
桜子は妙に詩的というか、真冬には理解できない物言いをする事が多々ある。
そんな時真冬は考えるのを止める。
「行くよ桜子、遅くなっちゃう」
「えー? 遅刻かなー? まだ時間あるよねー?」
「余裕を見せておかないとなめられるでしょ! もう、すっとろいんだから!」
「えへへ」
「何笑ってんのキモ……」
そんな無遠慮な物言いを物ともしない桜子を嫌いになれない真冬であった。
始業式が終わった。
いつになってもくだらない、長い話を座って聞くだけの退屈で無駄な時間が流れた。
「校歌とかさー、行事の度に歌わされるから嫌でも覚えちゃうよね」
誰にともなく毒付くが、もちろん隣に駆け寄ってきた桜子の返答を期待しての事である。
「えー私は好きだよー?良い歌だと思うけどなー」
真冬はそうだったかと頭に歌詞を思い浮かべようとするが、伴奏がないと思い出せない事に至って「ふうん」と、同意とも疑問とも、ただの相槌ともとれる反応を示しておく。
「ねえねえそんな事より私たち、また同じクラスだよ、やったね!」
クラス分け発表のプリントが配られてからご機嫌だったのは、そういう理由かららしい。
「うっわマジかよ面倒くせえ……」と真冬は思ったが、口にも出している事には気付かなかった。
その地区では割と有名な、名門と言って差し支えない中学校。
白戸 真冬と、春野 桜子は、中学二年生になった。
初の悪役令嬢モノに挑戦
一話につき千文字前後の短編集みたいにする予定です