インフライト4
『ピース・アイよりカレントチームへ。空中給油の後戦闘空中哨戒に当たってください』
「了解。給油機の位置は?」
『はい、ちょっとボイジャーの方は手が空いていないので、ハークが代わりに洋上で待機しています。位置データを送りますので、そちらを参照してくださいね』
「了解、これより給油機と合流する。通信終了」
シーハリアーの暗いコックピットの中で、シーザーは無線を終了した。
夜空の中、暗視ゴーグルを付けなければ視界が確保できない状況の中、シーザーらカレントチームは対空兵器の破壊を無事に成し遂げた。
だが、彼らの任務はこれで終わりではない。
これから空中給油を受け、敵の戦闘機を警戒する戦闘空中哨戒に入るのだ。
ふう、と酸素マスクの中で大きく息を吐く。
暗視ゴーグルに隠れた目は、計器を見ているにも関わらず、頭上に広がる星空を見るかのような、遠い目をしていた。
『ロック、大丈夫なんか?』
ふと、隣に並ぶもう1機のシーハリアーから通信が入る。
シーザーの相棒にして恋人たる、リューリの声だ。今はコックピットの中にいるせいか、声が普段より荒っぽい。
『姫様が参加しないって聞いてから、ずっとそんな調子やないか』
「……」
シーザーはうつむいたまま黙り続けている。
ただ呼吸をする音だけを、マスク内蔵のマイクが拾っている。
『参加できなかった理由と、何か関係あるんか? なあ、教えて――』
「いや、まさかあんな呆気なく飛べなくなるとは、思ってなかっただけさ」
ようやく重い口を開いたシーザーは、それだけ口にすると。
「行くぞ。燃料切れで落ちたくはない」
いつになく真剣な声で、シーザーは指示を出した。
彼の心理は、複雑だった。
ある理由で、姉であるフローラ・メイ・スルーズは今回の演習参加を見合わせた。
それだけなら、自分の独壇場だと喜んだだろう。
だが、それだけではなかった。
姉は、もう二度と空に姿を現さないかもしれないと、彼女の知り合いから教えられたのだ。
『ミラージュ姫』とまで呼ばれながらも、そんな状態になってしまった理由。
それは――
『どうもぉー。今回は私、コマンドーが給油を務めさせていただきますぅー。王子様ぁー、よろしくお願いしますねぇー』
無線で、のんびりした声がシーザーを出迎える。
目の前にいるKC-130Jのパイロットだろう。
だが、シーザーはあくまでも事務的な対応しかせず、主翼から伸びたホースに向かっていく。
(あいつはもう来ない……喜ぶべきなのに、何なんだこの気持ちは……)
そんな事を思いつつ、訓練通りにホース先の漏斗型バスケットをシーハリアーのプローブに差し込む。
夜間という視界不十分な状況でも、カレントチームは昼間と同じように空中給油を成功させ、再び夜の闇へと消えていった。
だが、シーザーの乗るリーダー機だけ、まるで見えない何かを背負っているかのように、動きが若干鈍かった。




