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サングリーズ・チョッパーズ! パート1:撃てないジェシーと撃ちまくるレネ  作者: フリッカー
フライト4:『アライド・ウェーブ』演習、開幕!
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セクション14:幸運を

 インテグレーターも、エンジンを始動する。

 ヘリの合唱にほぼかき消されてしまうが、動力付きの芝刈り機のような音を立てて後部のプロペラが回り始める。

 一通りのチェックが終わった後、ニーナに四角いコントローラーが手渡された。

 そのスイッチに、そっと手をかけたニーナは、

「さあ、飛び立って!」

 そう言って、スイッチを押した。

 がしゅん、と軽い音を立てて、インテグレーターが空へ弾き出される。

 圧縮空気で飛び立ったインテグレーターは、そのまま夜の闇へと消えていく。

 それからしばらくして、アパッチとチヌークのローターが回り始めた。

 開いたチヌークの後部カーゴドアから、黒ずくめの兵士達が乗り込んでいく。

 そしてアパッチも、装備した兵装のチェックを整備士達が行っていた。

『私達は先に離陸します。ジェシーちゃん達も、気を付けて』

「はい先輩、幸運を(グッドラック)

幸運を(グッドラック)

 エリシアとのそんなやり取りを交わした後、チヌークが甲板から浮かび上がった。

 スティック型の誘導灯を振る誘導員の誘導で、チヌークは機体を左へ傾け艦から離れていく。

 ジェシーはそれを、片眼鏡レンズ越しに見送っていた。

 見えるのは、緑一色のモノクロ世界。

 アパッチの機首にある暗視センサー越しに見るもので、真夜中でもチヌークが飛び去って行くのがはっきりと見える。

『えー、こちらリザード1。ジェシー君、異常はない? あと、眠気は大丈夫……?』

 と。

 アンバーの毛だるい声が、無線で入ってきた。

 どうやらまた、船酔い状態になっているらしい。

「はい、異常ありません。教官こそ、大丈夫ですか?」

『酔い止めが切れちゃってねえ……まあ、ハルカちゃんがうまくやってくれるから、平気よ』

 直後、ハルカのものと思われるため息が、聞こえてきた。

 アンバーがこんな状態だからか、正面にいるアパッチは今、ハルカがパイロットを、アンバーがガンナーを担当している。

『飛び立ったら手筈通り、天使ちゃん――ニーナちゃんのUAVが誘導してくれるわ……無人機とのリンクはしっかり確認しておきなさい……ああ気持ち悪……』

「は、はい、大丈夫です。レネもいいよね?」

「もちろん! 教官が不調な分はしっかりカバーしないとね!」

『あんたが言うと、逆に不安になるわ……』

 気合十分なレネに対し、不満そうにつぶやくハルカ。

 何はともあれ、発進準備は整った。

 甲板の誘導員が、誘導灯を振り上げた。

『リザードチーム、行くわよ!』

 ハルカの合図で、アパッチ2機が一斉に浮かび上がる。

 一糸乱れぬ動きで、左旋回し甲板から離れていく。

『リザードチーム、発艦完了(エアボーン)

 2機のアパッチは、小さくなっていくサングリーズを見届けながら、飛んで行った。


     * * *


 夜のフライトというものは、どんなパイロットでも不安になるものである。

 視界が塞がれて不安にならない人間など、いないからだ。

 飛行状態は計器を見る事で確認できるとはいえ、計器も機械だ。故障する事だってある。よって、視界を得られるに越した事はない。

 敵からの発見を避けるために機内の明かりも最低限となれば、さらに不安は増す。

 そういう意味で、海面を低く飛ぶチヌークは、かなり危険なフライトをしているのだ。

「エリシア先輩。今、敵国の領空に入りました」

「はい、ありがとうございます」

 薄暗いコックピットの中に座るエリシアとフィリップは、ヘルメットから下げた双眼鏡を覗く形で操縦を行っていた。

 これはただの双眼鏡ではなく、夜間飛行用の暗視ゴーグルである。

 星明かり程度の光でさえも増幅し、夜間の視界を確保するものだ。

 だがそれは、普通の明かりでは眩しくなりすぎる事も意味するため、コックピットのディスプレイは、やや光度を落としてある。

「やっぱり夜のフライトって、不安になりますよね……暗視ゴーグルで視界が狭いですし」

 フィリップが、自然と心情を口に出す。

 だがエリシアは、

「大丈夫ですよ。これでもSD型は夜間飛行の装備が充実している方ですから。ゴーグル以外にも、気象レーダーだってあります」

「それは、わかってますけど……」

「ですから、こうやって特殊部隊も送り込める訳です」

 エリシアが、後方へ振り返る。

 機内には、黒ずくめの兵士が8人、無言で座っており、出番を待っている。

 彼らは、一般の兵士ではなく、特殊部隊だ。

 特殊な訓練を受けているエリート兵士がいるという事は、これからエリシア達が挑むのは普通ではない任務という事を意味する。

 フィリップの顔に浮かぶ緊張は、恐らくそれから来るものだろう。

「フィリップ君も、そんなチヌークを信じてください」

「はあ、エリシア先輩って、凄いや……」

「いえ、私も実は緊張していますよ?」

 余裕そうに見えるエリシアも、謙遜するようにフィリップへ苦笑してみせた。

「ですからフィリップ君、ナビゲートをしっかりお願いしますね?」

 少し頬を赤くしたように見えたエリシアの表情を見て、フィリップは一瞬動揺したものの、

「は、はい!」

 はっきりと返事をし、計器に視線を戻したのだった。

「もうすぐ目標地点です。減速してください」

「了解。減速します」

 チヌークが速度を落とし始める。

 目標地点が迫っているのだ。

 だが、未だ陸地は見えない。暗視ゴーグルをもってしても。

 そう。

 チヌークが目指している地点は、洋上に存在するのである。

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