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サングリーズ・チョッパーズ! パート1:撃てないジェシーと撃ちまくるレネ  作者: フリッカー
フライト4:『アライド・ウェーブ』演習、開幕!
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セクション13:オール・フォー・ワン

 その夜、いよいよ出撃の時がやってきた。

 格納庫では、出撃に備えて整備達が慌ただしく動き回っている。

 最後部のエレベーターは、出撃に使われるシーハリアー1機を乗せて、ゆっくりと甲板へ上がっていく。

 その近くにはフライトスーツ姿のシーザーとリューリの姿もあったが。

「シーザー様、大丈夫? 何だか様子が変やで?」

 リューリがそう問いかけるほど、シーザーの表情は何か重いものを心に抱えているような複雑な色を帯びていた。


 一方、中央のエレベーターには、ジェシーとレネ、そしてエリシアらチヌークのパイロットが集まっていた。

 そこに今、もう1人のメンバーが加わる。

 ニーナだ。

 台座に乗った奇妙な航空機を引っ張りながらの登場である。

 胴体に装着された翼からは、2本の細いブームが伸び、それらは後ろで1枚の尾翼で繋がっている。いわゆる双ブーム式と呼ばれるスタイルだ。

 人の背より若干大きい程度の全長しかないため、コックピットはないが、代わりに機首には丸いセンサーターレットが付いている。

 これこそ、今回の演習に当たって

「それが、陸軍の新型UAV?」

「あ、はい。インテグレーターって言うの。この子はガブリエル」

 フィリップが問うと、ニーナは少しおどおどしながらも答えた。

 すると、そこへレイが割り込んできた。

「アメリカではRQ-21ブラックジャックとして採用されている奴だな」

「おやっさん」

「アメリカでもまだ配備されたばかりの新型を持ち出してくるとは、スルーズもかなり気合入っとるなあ! がーっはっはっは!」

 レイの高笑いが響く中、エレベーターがぴーぽーぴーぽー、とサイレンを響かせながらゆっくりと動き出した。

 真上に見えるのは、暗闇に覆われた空。

 格納庫の明かりのせいで星は見えないが、天候は良好だという。

 それをしばし見上げた後、ジェシーは隣にやってきたニーナに声をかけた。

「緊張してない?」

「……うん、してる。だって、試験運用も兼ねてるから――」

 ニーナは、うつむいたまま答える。

 実はインテグレーターは、スルーズ陸軍に配備されて間もないためまだ実戦投入可能な状態ではない。今回の演習参加は、あくまでも試験運用を兼ねたものになっている。

「そっか。俺も、緊張してる」

 ジェシーは本心でそう答えると。

「ダメよジェシーったら。そういう時は、『それでも充分心強い』って言ってあげなきゃ」

 不意に、レネが間に入ってくる。

 すると、ニーナが僅かに顔を上げ、レネに顔を向けた。

「レネ、心強いって、本当?」

「もっちろん。だってインテグレーターはアパッチの『目』になってくれる新兵器だもん。これからだって、あたし達をレーダー陣地まで誘導してくれるんでしょ? 期待してるんだから!」

 レネは、にっこりと微笑んで見せた。

 すると、緊張が少し和らいだのか、ニーナの表情が若干だが緩まっていく。

「よろしくね、天使さん?」

「……うん、がんばる」

 ニーナは、小さくだがはっきりと頷いて見せた。

「あ、そうだ」

 ふと、ニーナは何かを思い出したように懐を探り始めた。

 取り出したのは、何やら薄くて丸いもの。

 フライトスーツの肩に貼る、パッチだった。

「これ。ハルカさんやアンバー教官にも、あげて」

 そこには、アパッチとインテグレーターのシルエットが並んで描かれており、上下にはそれぞれ『ALLIED WAVE』『ALL FOR ONE』という英文が誇らしげに書かれていた。

「もしかして、ニーナが作ったの?」

「うん。迷惑、かな?」

 ニーナは、出来を気にしているのか、上目遣いでジェシーを見つめる。

 ジェシーは、自然と表情を緩めて、答えた。

「そんな事ないよ。いつも通りのいい出来。さすがだよ」

「こんなスペシャルなパッチ付けたら、テンション上がるに決まってるでしょ!」

 レネも、満足げに手に取り、続けて感想を言う。

 そしてレネは、早速右肩にもらったパッチを付ける。

 ジェシーもそれに倣って、続けてパッチを自分の右肩に貼った。

「ありがとう……ジェシーも、レネも」

 ニーナは笑みを見せると、不意にジェシーとレネの手を取った。

 ちょうど3人で、輪ができるような形。

 ジェシーもレネも少し驚いたが、自然と笑みがこぼれてしまう。

 長く付き合っている仲だ。

 ニーナはジェシーの幼馴染であり、婚約者となったレネともジェシーの計らいで打ち解け長い付き合いになっている。

 学園に入ってからは3人そろう機会が減ってしまったが、こんな場所で3人揃うと、不思議と心強くなる。ジェシーは、そう感じていた。

「その、がんばって。オール・フォー・ワン、だよ」

「うん、そうだね」

 ジェシーは、レネと共にニーナの手をそっと握り返したのだった。


     * * *


 夜の闇に包まれた、サングリーズの飛行甲板。

 大きな明かりは何もなく、ただ艦橋の明かりと飛行甲板のラインに沿って点くランプだけが、その存在を主張している。

 それでも、左側には3機のヘリコプターが並び、レネとジェシー、ハルカとアンバー、そしてエリシアとフィリップが乗り込んでいく。

 艦橋の後ろでは、シーハリアーが2機斜めに並び、出撃に向けた点検が進んでいる。

 そして、スキージャンプ台の左側には、斜めに伸びた小さなカタパルトがあった。

 そこに、整備士2人がかりでインテグレーターが1機乗せられる。

 このカタパルトは、インテグレーター専用のものだ。コンパクトで移動が簡単であるため、甲板のスペースも広く取らずに済むのである。

 インテグレーターがセットされる様子を、闇の中でじっと見つめるニーナ。

 ちょうどその頃、飛行甲板にてエンジン音の合唱が始まった。

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