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サングリーズ・チョッパーズ! パート1:撃てないジェシーと撃ちまくるレネ  作者: フリッカー
フライト4:『アライド・ウェーブ』演習、開幕!
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セクション11:ジェシーの不安とレネの答え

『スルーズとカイランの両軍がチームとなって戦うためには、調和が必要です。そのためには、互いに同じ目的を共有する必要があります。即ち、「来たるべき脅威」への備え――それに向けた連携を、今回の演習は確かめる舞台となるでしょう』

 サングリーズの食堂にあるテレビで流れているニュース映像が、エドワーズ大将の記者会見の様子を映している。

 それを見ていたのは、ジェシーとレネの2人だった。

 食堂で暴れる騒動を起こした事によるペナルティを課せられていた2人は、ラーズグリーズ島への上陸を許可されず、滅茶苦茶になった食堂の掃除をしていたのである。

 だがその手も、ニュース映像を前にすっかり止まってしまっている。

「もうすぐ、始まるんだ……」

 ジェシーは、ぽつりとつぶやいた。

 いよいよ、『アライド・ウェーブ』演習の開催が明日に迫っている。

 それを前に、ジェシーは若干の不安と恐怖を感じていた。

「明日からかあ……何か燃えてくるっ!」

 だが、それも知らぬかの如く、レネはまるでスポーツ大会が始まるかのように、ぐっと拳を作っていた。

 ジェシーには、そんな事が言えるレネが羨ましかった。

 レネは、それだけ強いのだから。

「……ねえ、レネ」

 ジェシーは、うつむいたままレネに呼びかけた。

「何?」

「俺と組んで演習に挑むのに、何か不安な事って、ない?」

「不安? なんでそんな事聞くの?」

「俺、正直言って怖いんだ……いろんなものが破壊されるこれからの演習に、最後までやり遂げられるのかどうか……そんな俺の事、不安だったり、しない?」

 きょとんとした様子で、レネはじっとジェシーの話を聞いている。

 気が付くと、ジェシーはぐっと手に拳を作っていた。

 不安でも、言葉にする力を、作り出そうとするかのように。

「こんな俺だけど、どこまでできるか自信ないけど――俺は艦長に言われたみたいに、パイロットとしての使命を果たしたいんだ。怖くても、レネを独り残して逃げるみたいな真似は、したくないんだ……そんな俺の事――」

「何今更な事聞いてるの」

 すると。

 レネがそんな事を言ったと思うと、ジェシーは急に腕を掴まれて引き寄せられた。

 えっ、と驚いている内に、ジェシーの体は一瞬でレネに抱き寄せられていた。

 レネの頭が、すぐ真横にある。

「大丈夫、怖くない怖くない。いつもそう言ってるのはジェシーでしょ」

 優しくジェシーの頭をなでるレネ。

 そうされると、ジェシーは暖かさを感じつつも複雑な気持ちになる。

「あたしは、どんなに弱虫だって、ジェシーの事怖くないよ。それを教えてくれたのは、ジェシーじゃない。思い出させて、あげよっか?」

 レネはおもむろに、ジェシーの左腕を口元へ持っていく。

 そして、あろう事かその手に噛みついた。

「う――っ!?」

 普段の甘噛みとは全く異なる、明らかに強い噛みつき。

 左手から血が滲み出てくるほど、その噛む力は強かった。

 だが。

 その痛みが、ジェシーに自然とある出来事の記憶を蘇らせた。

 レネが、ジェシーに心を開いた時の出来事の――


     * * *


 それは、レネが少年院から釈放されて間もない頃の話。

 もう何度目かわからないアプローチのために花束を持ってレネに会いに行った時、ジェシーは偶然レネが転んで怪我をしてしまった光景を目撃した。

 ジェシーは思わず、花束を投げ捨てて、レネの元へ歩み寄った。

 だが。


「来ないでっ!」


 レネは、唸る猛犬のごとき目でジェシーをにらみつつ、離れようとした。

 でも、足の傷がそれを許さず、動く事もままならない。

 見るに堪えなかったジェシーは、すぐさま動かないで、とレネの両肩に触れた。

 初めてレネに触れられた瞬間。

 だが、レネはあろう事か、ジェシーの左手に猛犬のごとく噛みついた。


「――っ!」


 猛烈な痛み。

 噛みつかれた先から血が出てくるほど、レネの噛む力は強かった。

 だが、ジェシーはレネを離さず、抵抗もしなかった。

 これでもか、これでもかとばかりに噛む力を強めてくる痛みに耐えながら、レネに訴える。


「大丈夫……怖くないよ……! 俺は、レネの事が好きなんだ……仲良くなりたいんだ……何も、悪い事なんてする気ないよ……! だから、泣かないで……!」


 ジェシーは、気付いていた。

 自分をにらむレネの目に、涙が溜まっていた事を。

 それが、たまらなく嫌だった。

 だから、空いた右手を、自然とレネの頬に伸ばしていた。

 流れている涙を、拭くために。


「――!」


 触れた途端、レネの噛む力が、僅かに弱まった。

 そして、見る見る内に涙を溜めた目が、とろけていく。

 噛む力は次第に弱まっていき、レネはそっと血を流すジェシーの左腕から口を離す。


「じぇ、しぃ……?」


 初めて呼んだ、自分の名。

 それは、猫の鳴き声ように甘ったるいものだった。

 それを見て、ジェシーは確信した。

 レネは、本当に怯えていただけなんだと。

 そして、ようやく彼女が心を開いてくれた事を、嬉しく感じた。


     * * *


「……こんな事しても逃げる気すら見せなかったから、あたしはジェシーの気持ちが本物だって受け入れられたんだからね」

 血が滲み出るジェシーの左手を、レネはそっと舐める。

「だから、怖くてもついて来てくれるんでしょ? あたしが暴走したら、何が遭っても止めてくれるジェシーなんだから、そう信じられるの」

「レネ……」

 レネの暖かなほほ笑みに、ジェシーは何も言えなくなってしまう。

 ダメだ。

 壁にぶつかる度に弱音を吐いてしまう自分が、情けなくなる。

 レネは、自分の事を受け入れてくれているというのに。

 それは、ずっと前から知っていたというのに。

「だから、側にいる限りは、守ってあげるからね……」

 レネは、母親のようにジェシーを優しく抱き寄せる。

 その唇が、ゆっくりとジェシーの顔に迫ってくる。

 瞳を閉じたのを見たジェシーは、自らも目を閉じ、その唇を受け入れる準備をする。

 そして、2人の唇がそっと重なり合う――


「あ、あの……」

 と思われた瞬間。

 恐る恐るながらも入ってきた第三者の声で、2人ははっと現実に引き戻された。

 揃って、振り返る。

 そこには、赤い制服を着た1人の少女が立っていた。

 軍人の候補生らしからぬおとなしそうな顔立ちと、小柄かつ華奢な体格の持ち主で、まるで小動物のような印象を与えるボブヘアーの少女だった。

「邪魔、だった?」

 しばし目を泳がせた後、申し訳なさそうに上目遣いでレネとジェシーを見つめる少女。

 その姿に、レネもジェシーも驚いた。

 彼女は本来なら、このサングリーズにいる事などあり得ない存在だったから。

 故に。

「ニ、ニーナ!?」

 2人は、彼女の名を揃って呼んでしまった。

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