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サングリーズ・チョッパーズ! パート1:撃てないジェシーと撃ちまくるレネ  作者: フリッカー
フライト4:『アライド・ウェーブ』演習、開幕!
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セクション06:軍人の誰もが通る道

「……そうか。君は壊す事が嫌いなのか」

「……はい」

 飛行甲板では、冷たい風の音と波を切り裂く音をBGMに、暗くなっていく海を眺めながら、ジェシーとウォーロックが会話していた。

「だから、俺は軍隊にはいちゃいけない人間なんだと思うんです。人命救助なんて理由で、入る所じゃなかったんです。アパッチのパイロット候補生に無理矢理されたのも、神様がここから出て行けって言う警告だったのかもしれません……俺は、どうしもようもないくらい、弱いから――」

「つまり君は、弱い自分が許せないという事か」

「……え?」

 思いの外優しい声。

 てっきり非難されると思っていたジェシーは、はたとウォーロックに顔を向ける。

「まずはそこからだ。弱い自分を受け入れて、許す事。いつまでも自分が許せずに自分を責めてばかりいても、前には進めない」

「でも、許すなんて、どうやって――」

「人を撃ちたくない、人を撃てるのか、という思いは軍人の誰もが通る道だ。別に君自身に限った話じゃない。私もかつてはシーハリアーのエビエーターだったが、実戦になったら訓練通りに敵を撃てるのかと、不安に思った事はある」

「それで、どうしたんですか?」

 ウォーロックは、そこでしばし考えるように間を置いた末、再び口を開いた。

「『怪物と戦う者は、その過程で自らが怪物と化さぬよう心せよ。お前が深淵を長く覗けば、深淵もまた等しくお前を見返すのだ』……」

「何ですか、それ?」

「私が胸に刻み込んでいる言葉でね。軍隊は、いくら国防、国益のためとはいえ、暴力装置という闇を抱えている組織だ。そんな軍隊の深淵は、体に毒だからあまり覗きすぎない方がいい」

「つまり、考えるな、という事ですか? 怪物になるから……」

「そうだ。闇を知らないのは問題だが、かと言って見すぎると自分も闇に染まって、大切なものを見失ってしまう事になる。軍隊の世界ではとても難しい事だが、足元に闇が広がる世界だからこそ、うっかり呑まれないように注意して歩かないといけない。私はそう教わった」

「……」

 再び顔がうつむくジェシー。

 足元に闇が広がる世界、か。

 そんな闇と隣り合わせの世界に、自分はいられるのだろうか。

 そんな疑問が、ジェシーの脳裏に過る。

 自信は、はっきり言ってない。

 答えがすんなりと出てしまった事に、自然とため息が出る。

「そういう意味では、君の優しさは闇と向き合う大きな武器になると私は思うよ、ジェシー・ガザード君」

「……!」

 だが。

 ウォーロックが自分の名を呼んだ事で、その不安が一気に吹き飛んでしまった。

「ど、どうして俺の名前を――!?」

「知っているとも。スルーズの航空業界を一手に担うスルーズ航空工廠・現CEOの一人息子……スルーズ騎士団・スクルド家の一人娘、レネと縁談を結んだ事もね」

 ウォーロックは、ジェシーの経歴をすんなりと当てて見せた。

 しかも、レネと婚約している事も知っている。

 呆気に取られて、ジェシーは何も言い返せない。

「驚いたよ。乱暴者で有名なあのスクルド家の娘と婚約したのが、君のような優しい子だったなんてね。しかも仲がいいそうじゃないか」

「は、はい、まあ……」

 目を泳がせながら、何とか言葉を絞り出すジェシー。

「壊すのが嫌いなほど優しい君が、乱暴者を婚約相手に選んで仲良くできるなんて、普通なら考えられない事だ。君はなぜ、彼女の事を受け入れられたのかね?」

 試すように、ウォーロックは問いかける。

 ジェシーは、言葉に迷った。

 一体何から説明すればいいのかと。

 なぜなら――

「どうして、そんな事を聞くんですか?」

 故に、ジェシーは逆に問い返していた。

「端的に言えば、そこに悩みを解決するヒントがありそうな気がしてね」

 ウォーロックは、ジェシーのある一転を見据えながら、答えた。

 そして、さらに問いかける。

「君は、彼女に暴力を振るわれた事はないのかい?」

「え、そ、それは……」

 ジェシーは、答えに迷う。

 すると、

「その額の傷は、彼女に付けられたものではないのかい?」

「……!」

 ウォーロックにストレートに指摘され、はっと額に手を当てる。

 額にかかっている前髪が、風でまくり上がっている。

 そのため、普段は隠している額が、露わになってしまっていた。

 そこには、縫った傷跡がある。

 人に見せても気分がいいものではないからと、隠していたものだ。

「図星のようだね。それだけの傷があるという事は、余程ひどい目に遭ったという事ではないのかい?」

「……」

 ジェシーは黙り込む。

 その言葉が、間違ってはいないからだ。

 このまだ消えていない傷を負わせたのは、他の誰でもなくレネなのだ。

 それを、まさか見抜かれるなんて。

 ジェシーは、この人相手に隠し事はできないと感じ取った。

「その上で、私は聞きたい。君が、いかに彼女と絆を結んだのかを」

「……その、説明すると結構とんでもない話とか出てきますけど、いいですか?」

「構わんさ」

「わかりました」

 そうして、ジェシーは語る事にした。

 海を見ながらゆっくりと息を吸い、気持ちを整えてから口を開く。

「俺は、レネに一度殺されかけた事があるんです」

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