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サングリーズ・チョッパーズ! パート1:撃てないジェシーと撃ちまくるレネ  作者: フリッカー
フライト4:『アライド・ウェーブ』演習、開幕!
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セクション03:塗り替え作業

 ローターを折り畳んだアパッチを乗せ、エレベーターが、ゆっくりと下がっていく。

 その脇に、フライトを終えたレネとジェシーの姿があった。

「本当にごめんレネ、また君を怖がらせる事しちゃって――」

「そんなに謝らなくてもいいわよジェシー。もう怒ってないから、くよくよしないで」

 ジェシーは未だに申し訳ない気持ちで頭がいっぱいだったが、レネは対照的にけろっとした表情をしている。

 レネは、一度怒ると見境がなくなるものの、根には持たないタイプで長続きしない。

 それはそれで幸運ではあるのだが、ジェシーは自分自身を許す事ができずにいる。

 怒って欲しい訳でも許して欲しい訳でもなく、ただただ自分の情けなさに己を責めてしまう。

「やっぱり俺は、アパッチのパイロット失格なのかな……?」

「考えすぎないの。戻ったら一緒にお菓子でも食べよ? ね?」

 そんな会話をしている内に、エレベーターが止まった。

 目の前に広がるのは、冷たい雰囲気の格納庫。

 艦載機の保管場所にして、メンテナンス施設でもある場所だ。

 飛行甲板の下の狭いエリアに、所狭しと艦載機が並ぶ。

 狭いスペースを有効活用するべく、ローターなどをコンパクトに折り畳まれたヘリコプター達の周りで、整備士達が各々の作業を進めている。

 そこはパイロット候補生であるジェシー達にとって、ある種の異世界である。

 横で整備士達がアパッチを押し始めた中で、ジェシーとレネは邪魔にならないように気を付けて格納庫へ踏み込んだ。

 レネは整備士達が作業する様子を興味深そうに見回しながら歩いていたが、ジェシーにはそんな余裕などなく、顔をうつむけて歩いていく。

「あ、ジェシーあれ!」

 ふと、レネが珍しいものを見つけたように声を上げた。

 何かと思って、ジェシーは重い頭をゆっくり上げる。

「何かチヌーク、色変わってる!」

 レネが指差す先。

 そこには奇妙な装いをした、たった1機のチヌークがいた。

 格納庫に入れるためにローターが外されているチヌークは、正面のキャノピーや機体各部の注意書きなどが白いシールで覆われ、ボディの前半分が以前の緑と茶の迷彩から砂色一色に変わっている。

 ただ、後ろ半分は未だ迷彩のままだった。

 見れば、整備士が迷彩の部分にスプレーを吹きかけており、見る見る内に砂色に塗り潰されていく。

「塗装を塗り直してるんだね」

「そんなのはあたしにもわかるわよ。茶色に変わっちゃうんなんて意外って思わない? なんで茶色なんだろ?」

「なんで茶色って……」

 レネには、その衣替えが不思議に見えたらしい。

 普通に考えれば、理由なんてすぐわかるはずなのに。

 ジェシーは、あまり話したい気分ではなかったが、説明せずにはいられなくなる。

「だってもうすぐ――」

「サハラ砂漠を飛ぶ事になりますから、当然ですよ」

 だが。

 背後から聞こえた穏やかな声に、遮られてしまった。

 振り返ると、ジェシーの背後にいたのは。

「エリシア先輩」

 チヌークの乗り手である、エリシアだった。

「アパッチやマーリンの塗装は汎用性が高い塗装ですけど、チヌークの迷彩は、森林地帯向けに特化したウッドランド迷彩ですからね。そのままで砂漠を飛んだら目立ってしまいます。ですから砂漠に溶け込めるようにデザートイエローに塗り直している訳です」

 説明しつつカメラをチヌークへ向けたエリシアは、言い終わると同時にシャッターを押した。

 迷彩塗装とは、地形にカモフラージュさせるための塗装だ。

 そのために、地形に合った色が選ばれるのは当然の事で、迷彩塗装はその機体が活動する場所を示していると言える。

 森林地帯を飛ぶなら、森林用の迷彩。砂漠を飛ぶなら砂漠用の迷彩。中には洋上用の迷彩まである。

 故に飛ぶ場所に応じて、塗装は柔軟に変えていかなければならないのである。

「何だかワクワクしますよね、ヘリコプターの衣替えって」

 エリシアは、満足そうに微笑む。

 彼女にとってチヌークの塗装の塗り直しは、それだけ貴重なものだったのだろう。

 だが、ジェシーにとっては違う。

 塗装を砂漠用に塗り替える理由を、知っているから。

「そっか、もうすぐ着くんだったよね、ラーズグリーズ島に」

 レネが、思い出したようにつぶやく。

「はい。着けばいよいよ、『アライド・ウェーブ』演習の始まりです。整備士の皆さんも、そのためにがんばっています。ですから私達もがんばらないと、ですね!」

「うーん、もうすぐカイラン軍との合同演習かあ……何か燃えてくるっ」

 レネとエリシアは、あたかもスポーツの祭典にでも出場するかのように、高揚した会話をしている。

 それがジェシーにとっては、あまりにも間違いなものに聞こえた。

 だからか。

「ジェシーちゃんも」

「……俺は、がんばれる自信、ないです」

 エリシアに話を振られたジェシーは、再び顔をうつむけて、そう答えた。

 レネとエリシアの不思議そうな視線が、ジェシーに集まる。

 それを感じ取ったジェシーは、さらに言葉を続け、

「『アライド・ウェーブ』は、お祭りじゃないですから……人殺しをしない戦争ですから……」

 とぼとぼと重く歩き出し、2人の前を後にした。

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