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サングリーズ・チョッパーズ! パート1:撃てないジェシーと撃ちまくるレネ  作者: フリッカー
フライト4:『アライド・ウェーブ』演習、開幕!
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セクション02:ジェシー達の射撃訓練

 一方、サングリーズから少し離れた洋上でも、射撃は行われていた。

 凪いだ洋上をぷかぷかと、オレンジ色の大きな風船が浮いている。

 その周囲に、突如として複数の水柱が立つ。

 そして、頭上を羽音と共に通り過ぎる黒い影。

 海には全く似合わない地味な体色を持つその正体は、アパッチであった。

『いい感じだったわよ、ハルカちゃん。さ、次はジェシー君達の番よ』

 聞こえてくるのは、乗り込むアンバーの声。

 通り過ぎたアパッチの遠く後方には、さらにもう1機別のアパッチがいて、続けて風船へと向かってきている。

「りょ、了解」

 そのコックピットに乗り込んでいたジェシーは、おっかなそうに返事をした。

「了解!」

 一方、前席に座るレネは、とても期限がよさそうに元気な返事をしていた。

 ジェシーは、兵装の安全装置を解除するボタンを確認。

『ARM』という表示が光っているのがわかる。安全装置が解除されている証拠。

 つまり、自機はいつでも射撃ができる。

 これが、ジェシーが落ち着かない最大の理由であった。

 ジェシーらのアパッチは、射撃訓練の真っ最中である。

 これから風船――浮かんでいる標的を狙って、機関砲で射撃するのだ。

「――」

 目の前の標的は、機関銃で狙って当てられるほど大きくはない。アパッチのチェーンガンはあくまで対装甲車用であり、人を狙撃できるようにはできていない。

 だからハルカも外している。これが普通だ。

 とはいえ、当たってしまえば木端微塵になる事に変わりはない。

 傷付ける事が嫌いなジェシーにとって、それほど恐ろしい事はない。

 かつて見た事がある映像を思い出す。

 アパッチのチェーンガンの直撃を運悪く受けてしまった人間は、木端微塵になる。

 白黒でもその惨劇を思い出してしまうと、とてもトリガーなんて引けない。

 例え、軍人には必要な訓練であったとしても。

 だが、実際にトリガーを引くのはガンナーであるレネである。

 自分では、止める事ができない――

「発射!」

 レネは、迷わずに引き金を引く。

 その瞬間、ジェシーは反射的に目を閉じた。

 真下から聞こえてくる、射撃音。

 その音は、ほんの数秒で途絶えた。

 その弾丸は、狙い通り風船の周囲に着弾しただろう。

『レネちゃんもいい感じじゃない』

「うーん、でもちゃんと当てたかったなあ――って」

 レネがアンバーと言葉を交わす。

 レネはこの射撃訓練を、単なる射的としか見ていないようだ。

 そういう性格なのはジェシーもわかっているので、否定するつもりはない。

 思うのは、やっぱり俺は弱いな、という事だけ。

 だから、どうしても考えてしまう。

 自分は、本当にここにいていい存在なのかと――

「ちょ、ちょっとジェシー! ジェシーッ!」

 急に、レネが騒ぎ始めた。

 何かと思って、ジェシーは目を開ける。

 すると、すぐその理由に気付いた。

「姿勢姿勢姿勢!」

 機体が、大きく左に傾いている。

 そして目の前に広がるのは、青い海面。

 つまり、落ちている。

「――っ!?」

 甲高い警告音が鳴り響いたのと、ジェシーがレバーを引いたのは、ほぼ同時だった。

 アパッチは急激に機首を上げ、上昇に転じようとする。

 だが、いくら体が座席にめり込むほど急激な姿勢転換をしても、急には止まれないのが乗り物の常である。

 減速が間に合わない。

 機首を上げても尚、重力に逆らえないアパッチは、海面へと吸い込まれていく。

「きゃああああああっ!」

 らしくないレネの悲鳴。

 自分の最期を、悟ったかのように。

(まずい、墜落する……!)

 ジェシーも、間に合わないと直感で悟った。

 このまま、腹を叩きつける形で海に落ちる。

 死ぬと決まった訳ではないが、海に投げ出されるというだけでも怖い。

 間もなく来るであろう衝撃を覚悟して、ジェシーは目を閉じる。


 だが。

 ざぶん、と海面に触れた音はしたが、強い衝撃は来ない。

「……あれ?」

 レネも、間が抜けた声を出している。

 ジェシーが再度目を開けると、アパッチはゆっくりとだが上昇に転じていた。

 どうやら、ぎりぎり間に合ったらしい。

 機体は車輪が一部海面に触れてしまったものの、何とか上昇に転じる事ができたのだ。

「はあ、よかったあ……」

 ほっ、と大きく息を吐くジェシー。

 これで一安心、と思ったのも束の間。

「危ないじゃない! 何やってたのジェシーッ!」

 振り返ったレネに、すぐさま文句を言われる羽目になった。

 耳元でスピーカーを壊さんほど響く声の大きさに、ジェシーは怯んでしまう。

『大方、また射撃の時に目を閉じてたんじゃないでしょうね?』

 弱り目に祟り目。

 無線からも、ハルカの鋭い指摘が飛んでくる。

『どんな天才パイロットでも、目を瞑ったまま操縦しようなんてバカはいないわよ! もう、オートホバリングしてないと安心して射撃もさせてくれないの?』

『もう、しっかりしてよジェシー君! そんなんじゃレネちゃんを守れないわよ!』

 さらにアンバーまで加わってくる。

 ジェシーは反論できず、ただごめん、と謝る事しかできなかった。

 銃声に怯えてしまったせいで、危うく墜落しそうになるなんて。

 自分がレネを怖がらせるような思いをさせてしまったと思うと、罪悪感で気持ちはどんどん沈んでいった。

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