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セクション14:吊り上げ開始

「では、第二段階――機体の回収に移ります!」

 エリシアが機内に呼びかけると、チヌークはゆったりと左に機首を向けていく。

 若干速度の低下はあるものの、オルルーンのヘリコプター甲板上からずれる事ない方向転換。

 そして、機体の位置は駐機されているマーリンの真上に来る。マーリンの上には、既に数人の作業員が吊り下げに向けて待機していた。

『よーし、いい位置だ』

 チヌークの胴体の下には、中央が開かれて大きなフックが姿を見せており、そこからレイが顔を出している。

 このフックは機内の床を開く形で使用するため、このように内部から人が顔を出す事ができるのである。

 レイが真下の様子を確認しながら、エリシアは横向きにしたまま高度を下げていく。

『え……!? 横向きで、回収するの!?』

『そりゃそうだ! チヌークは縦幅がありすぎるからな!』

『先輩……大丈夫なの、かな?』

『心配するな! エリシアならやってくれる!』

 シエラの疑問に、レイが答えている。

 傍から見れば、横向きに飛びながらの降下。

 胴体を若干右に傾けている事が、横方向へ飛んでいる何よりの証拠。

 この状態を一定時間維持しなければならないという事は、当然パイロットであるエリシアに高いテクニックが要求されるのは言うまでもない。

 フィリップも、それを知ってか何も声をかけず固唾を呑んで見守っている。

『オーライ、オーライ――よーし、ストップ!』

 胴体の底がマーリンにぶつかりそうになった所まで落とした所で、降下を止める。

 そこで作業員が、マーリンの前後にくくりつけたロープの接続作業に入った。

 チヌークには、通常のヘリと異なり、吊り下げ用のフックを3つ備えている。

 中央のがレイが顔を出している部分のものだが、今回使うのはその前後にあるフック2つ。

 ここへ2本のロープを素早く繋げると、作業員は急いでマーリンから降りていった。

 数十秒かかったそれを見届けてから、レイが合図を送った。

『上昇、いいぞ! ゆっくりだ!』

「はい!」

 エリシアは、コレクティブレバーをゆっくり引いて、機体を上昇に転じさせる。

 マーリンからゆっくり離れていくチヌーク。

 チヌークに繋げられた2本のロープが、慎重に、ゆっくりと伸びていく。

 それと連動して、エリシアの胸も高鳴った。

 緊張によるものなのか、それとも高揚なのかは今のエリシアには判断できない。どちらにせよ、理由を探るのは後回しだ。

 オルルーンの煙突やマストの高さよりも長いそれのたるみが、次第に抜けていく。

 いよいよ、持ち上がる時だ。

『さあ、そろそろ持ち上げるぞ。8(エイト)7(セブン)6(シックス)5(ファイブ)――』

 見張るレイが、カウントダウンを始めた。

 人が重いものを持ち上げる時と同じように、カウントゼロの合図で持ち上げるのだ。

4(フォー)3(スリー)2(ツー)1(ワン)――今!』

 その時、マーリンの車輪が甲板からゆっくりと離れた。

 マーリンが、持ち上がったのだ。

 エリシアも、機体に重みがかかった事を、レバー越しに感じ取った。

「おやっさん、異常はありませんか?」

『異常なしだ! そのままゆっくり持ち上げてけ!』

 念のため、確認を取る。

 よし、とエリシアは慎重さを保ったままの操作でマーリンを持ち上げていく。

 速度が遅くなった事で、オルルーンから置いて行かれる形でゆっくりと離れていく。

 下は当然ながら海。ここで落としてしまうと、大変な事になる。

『うわーっ! 本当に持ち上がってる!』

『おい、危ないからあんまり顔を出すんじゃない!』

 シエラがマーリンの様子を中央フックから覗き込んでいるのか、そんなやり取りが聞こえる。

「ふうーっ。これでとりあえずは一安心ですね」

「そうですね。では、サングリーズへ行きましょう」

 チヌークが、ゆっくりと右へ方向転換していく。

 狙うは、母艦のサングリーズだ。

 今はゆっくりと距離が離れていっているが、こうする事で調整できる距離を稼ぎ、アプローチの余裕を作るのだ。

 機首がサングリーズに向いた。

 そこで、チヌークはゆっくりと機首を下に倒し前進を再開。

 僅かに揺れるマーリンをいたわるような、ゆっくりした加速で、サングリーズを追いかけていく。

 その間、エリシアは自分の胸が今尚大きく高鳴っているのを感じ取っていた。

「先輩。最後尾の6番スポットに降ろせとの事です」

「了解。6番スポットですね。このまま行きましょう」

 本来、飛行甲板には横から進入するものだが、今回エリシアは直接後部から進入する方法を選んだ。

 横移動という余計な手順を減らして、楽に進入するためだ。余計な移動で吊り下げているマーリンに何か遭ったら、元も子もない。

 ゆっくりと、サングリーズへ追いついていくチヌーク。

 甲板を見れば、チヌークの様子を固唾を呑んで見守っている作業員達の姿が見える。

「さあ、あともう少しですよ……!」

 自然と、エリシアはそう言っていた。

 自分自身に対してなのか、乗っている仲間達へなのかはわからない。

 マーリン帰還の時が迫っている。

 エリシアの胸の高鳴りは、最高潮に達しようとしていた。

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