セクション13:ルビー降下
「えー、こちらブルーバード。オルルーン、聞こえますか?」
フィリップが無線の周波数を調整し、オルルーンと連絡を取り始めた。
『こちらオルルーン。ブルーバード、どうぞ』
「予告した通り、レッカー車を持ってきましたよ。えっと――マーリンの燃料は抜いてますか?」
『燃料を抜く作業は既に終了した。いつでも吊り下げ可能だ』
「了解、これから作業に入ります」
確認を終えて無線を切るフィリップ。
オルルーンのヘリコプター甲板では、ローターとテイルブームを折り畳んだマーリンが、艦に対して横向きになるように置かれていた。
伝えた通りに配置していますね。
エリシアは、事前に告げた自分の言葉がオルルーンにしっかり伝わった事を確認できた。
「先輩、向こうはもう準備が整っているようです」
「わかりました。では始めましょう。まずはクルーの回収です。おやっさんとルビーちゃんも準備をお願いします」
チヌークが、オルルーンの背後にゆっくりと回り込む。
その間に、機内ではルビーとレイが担架の用意を始める。
機体を回収する前に、まずはマーリンのクルー全員を回収するのだ。
『嬢ちゃん、本番で人を助けに行くのは初めてなんじゃないかい?』
『そうですね』
『緊張してないかい?』
『救難員もできるよう心身を鍛えられた身です。小さい頃――いえ、訓練の時に比べたら簡単ですよ』
『がーっはっはっは! よく言った! なら任せたぞ!』
その間、レイとルビーがそんなやり取りを交わしていた。
あの様子だと、心配する事はなさそうですね。
エリシアはそう確信し、操縦に意識を集中する。
オルルーンの後方から、ヘリコプター甲板へ真っ直ぐ進入する。
着艦する訳ではないので、高度は高く保ったまま。
甲板に近づけるに連れ、ゆっくりと速度を同調させていく。
見下ろせば、甲板上にシエラ達の姿が見える。
ローターが拭き下ろす風に、他の作業員共々身を低くしている。
チヌークのローターが拭き下ろす風は、他のヘリに比べて結構強烈だ。
故に、これから行う事にはあまり向いていない部分はあるのだが――
「今です! 行ってください、ルビーちゃん!」
速度同調。
エリシアは、迷わずに告げた。
『了解』
すると、チヌークの右側のドアが開く。
そこから、担架を抱えたルビーが姿を現す。
彼女は体を真上にあるホイストというクレーンに繋げると、ドアから身を乗り出す。
『よーし、行けっ!』
レイが体を押し出すと、ルビーは降下を開始。
ゆっくりと伸びていくホイストにぶら下がり、若干前後に揺られながらもオルルーンの甲板を目指す。
そして、危なげなく甲板へと着地した。
彼女は早速、行動を開始する。
『ルビー!? ルビーなの!?』
『そうよ! 上には先輩もいる! で、けが人は!』
『あ、うん!』
ヘリの真下故に、駆け寄ってきたシエラと大声で会話をするルビー。
シエラはスコットをルビーの元へ連れてくる。
するとルビーは、慣れた様子でスコットを担架へと乗せ、体を固定。
『上げてください!』
ルビーが合図すると、レイがホイストを巻き上げる。
宙に浮く担架。
その先からは別のロープが伸びており、ルビーがしっかりと引っ張り担架が真っ直ぐになるように支えている。
数十秒で、担架はチヌークの元へ到達し、レイの手によって収容された。
『収容完了! チヌークへようこそ、マスター・スコット』
『おい、なんでオレがマスターって呼ばれてるの知ってるんだ』
スコットのレイへの口答えを聞く限り、まだ元気なようだ。
これで、救助では最優先となるけが人の収容は完了した。
『さ、次!』
残るは2人。
続けてホイストが降ろされ、今度は担架の代わりにスリングという浮き輪を降ろす。
まずはロジャーがそれを自力で身に着け、ホイストで回収されていく。
残るはシエラだけ。
『さ、後はシエラだけよ!』
『ええっ!? つ、吊り上げなんて、何か、怖いよ……!』
『私も一緒に行くから!』
慣れない状況に怖気づくシエラに、ルビーが降ろされたスリングを身に着けさせる。
もちろん、ルビーも一緒だ。
『上げてください!』
『う、うわああっ!?』
合図と共に、ルビーに抱きかかえられたシエラはホイストに吊り下げられた。
体がロープ一本でぶら下がった事で、シエラの体は硬直してしまっている。
『高い所には慣れてるんじゃないの? エビエーター候補生でしょ!』
『だって、自分で、操縦できないじゃなーい!』
そんやり取りが聞こえたものの、シエラの収容も無事に完了。
ルビーも、無事にチヌークへと帰ってきた。
『収容完了!』
レイの宣言と共に、ドアが絞められる。
『はあ、はあ、怖かったあ……』
『なんだシエラ、怖かったのか?』
『はい、マスター……』
『ま、レスキューヘリの世話にはならないようにしないとな。その方が平和でいい』
『そうですね、マスター……あんなのは、こりごりです……』
一方、機内の席に座り込んだシエラが、スコットとそんな会話をしている。
ふふふ、とエリシアは思わず笑んでいた。
ともあれ、これで全員の回収が完了した。
「さて、これで第一段階は終了ですね……」
だが、問題はここからである。
次こそ本題――マーリンの回収作業を行わなければならない。




