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セクション11:マーリンを回収せよ

「ううっ、ううっ、うぐっ……」

 オルルーンのヘリコプター甲板。

 マーリンの片隅で、シエラはうずくまって泣きじゃくっていた。

「ごめんなさい、マスタァ――っ、私の、私の、せいで――」

「大げさな事言うな。軽く腕折ったくらいで別に死んだ訳じゃねえんだ」

 その隣には、居心地が悪そうに顔をしかめるスコットが立っている。

 右腕は包帯が巻かれ、三角巾で首から吊るされている痛々しい姿になっている。

「でも、突然の、事で、頭が、真っ白に――これじゃ、エビエーター失格です――ううっ……」

「っ、わかった、わかったからもう泣かなくてもいいだろ……?」

 スコットがそう言っても、シエラは泣き止まない。

 困ったとばかりに、左手を額に当てるスコット。

 そんな彼を、ロジャーが肩を叩いてからかってくる。

「全く、不器用だなあスコットも、そんなだからシエラちゃんとの距離が縮まらないんだぜ?」

「距離が縮まないって、どういう事だ」

「別に、言葉通りの意味だよ」

「つまり、お前の言葉には悪意があると解釈していいんだな?」

「ほう? じゃあシエラちゃんがどれだけ泣こうと知った事じゃない、って事なんだな?」

「おい、なんでそういう話になる?」

 普段通りの口論を展開するスコットとロジャー。

 そんな彼らの元に、1人の作業員がやってきた。

「少尉殿。お取り込み中すみませんが、サングリーズから入電がありました」

「サングリーズから入電? 何だ?」

「これから少尉達とマーリンを回収しに向かう、との事です」

「回収? どうやってだ? ここは海のど真ん中だぞ? マーリンを運べるクレーンなんてどこにもない」

 回収という言葉に、耳を疑うスコット。

 乗員の回収ならまだしも、飛行不能になった航空機の回収は、簡単な事ではない。

 ましてや軍艦にはそのための装備などない。サングリーズには一応前部にクレーンがあるものの、これは船との間で使うものではないし、給油中の現在はそもそも位置的に使えない。

「多分、あれじゃねえのか?」

 するとロジャーが、左側――サングリーズを見てある一転を指差す。

 スコットは釣られて彼の指先を追う。

 見ると、後部のエレベーターから1機のヘリが姿を現していた。

「チヌーク……?」


     * * *


 サングリーズのブリーフィングルーム。

 そこに、エリシアがフィリップとレイを集めていた。

「エリシア、本当にマーリンの回収を引き受けたのかい?」

「はい、今の状況でマーリンをオルルーンから回収できるのは、チヌーク以外に存在しませんから」

 レイの問いに、エリシアは迷いなく答えた。

 さらに、フィリップも問いかける。

「でも先輩、できるんですか?」

「マーリンの自重は10.5トンですよ。11.7トン程度まで吊り下げられるチヌークならば充分可能です」

「いや、チヌークのスペックの話じゃなくて、先輩自身ですよ」

「え、私、ですか?」

「先輩、10トン近い重量物運んだ事、あるんですか?」

「ないです」

 やはり迷いないエリシアの否定に、フィリップもレイも唖然とした。

「ええ!? そ、そんなんで大丈夫なんですか!?」

「大丈夫です。私はできると確信していますから」

「その自信は、何を根拠に?」

 心配そうに問うフィリップ。

 しかしエリシアの迷いない表情が、変わる事はなかった。

「チヌークにできる事が、私にできないはずはありません。私は、チヌークを信じます。チヌークは世界一のヘリですから」

 それは、全くの本心だった。

 すると、レイが何を思ったか急に笑い出した。

「がーっはっはっは! よく言った! そこまで言うならワシは止めない! ついて行こう!」

「お、おやっさん!」

「何だ、エリシアはできると言った事ができなかった事が1回でもあったか?」

 思わず止めるフィリップだったが、レイに問い返されて戸惑ってしまう。

「いや、ないです、けど……」

「なら信じてやれ。エリシアはヘリコプター科始まって以来の逸材だ。間違いなくやってくれるさ」

「た、確かに、そうですけど……」

 戸惑うフィリップを見て、エリシアの表情が思わず緩んだ。

 フィリップが不安になる理由を、エリシアは察していたからだ。

「ありがとうございます、おやっさん。それに、フィリップ君も」

「え? 僕、まだ賛成って言ってないけど……」

「フィリップ君は、心配してくれているのですよね」

「え、心配って、そんな……」

 途端、頬を僅かに赤らめ、視線を逸らすフィリップ。

「無茶な志願なのはわかっています。ですから、フィリップ君が嫌なら降りても構いません」

「え……?」

「嫌がる人を無理やり連れて行くくらいなら、1人で操縦する方がいいですから」

 途端、黙り込んでしまうフィリップ。

 そして、少し悩むように、顔をうつむけた後。

「い、行きます! 先輩をコックピットに1人にするなんて、できないです!」

 真っ直ぐエリシアを見据えて、宣言した。

 これで、普段の3人が揃った。

 やはり普段のメンバーでフライトができるのは、心強い。

「ありがとうございます。では、普段通りの3人で――」

「いいえ、4人ですよ。先輩」

 と。

 突然、別の声が割り込んできた。

 見ると、ブリーフィングルームには、いつの間にか褐色肌の少女がいた。

「ルビーちゃん。どうして――?」

「けが人が出たと聞きましたから。なら、ちゃんとけが人を扱える人がいた方がいいでしょう?」

 その少女――後輩のルビーは、自信を持って提案する。

 そういえば、とエリシアは思い出した。

 スコットが、緊急着艦の衝撃でけがをしたらしい事を。

 ルビーは、SHマーリンのセンサーオペレーターを担当している。

 とは言っても、単に対潜用のセンサーを操作できればいいという訳ではない。

 SHマーリンは対潜任務以外の用途にも使用されるため、センサーオペレーターは多岐に渡る仕事ができる『何でも屋』でなければならない。

 例えば救難任務も務める事があるため、時に救難員(メディック)として要救助者の救助・手当も行う。

 ルビーは、そのための能力を当然身に着けている。

 なら――

「アルバコア大尉の許可はもらっています。私も連れて行ってください、先輩」

「……わかりました。ありがとうございます、ルビーちゃん」

 これだけ心強い人はいない。

 エリシアは、ルビーの参加を快諾した。

 その言葉を受けて、ルビーはフィリップとレイの間に混ざる。

 どうぞよろしく、と挨拶した彼女に、レイとフィリップもこちらこそ、と答えた。

「では、回収の手順を説明しますね」

 こうして参加者全員が揃った所で、エリシアは早速詳しい手順についての説明を始めたのだった。

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