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セクション10:飛行停止の危機!?

「シエラの機体がトラブルって、本当なの?」

「はい。メインローターのトラブルで推力を失ったようです。とはいっても、かなり強引なものでしたけど……」

 エリシアは、艦橋に駆け付けたロメアに事情を説明していた。

「で、シエラは大丈夫なの?」

「電話しようと思いましたが、携帯には全く繋がりません。きっと電源を切りっぱなしにしているのだと思います。でも大丈夫です、無線ではちゃんと声が聞こえましたから」

「そう、よかったあ……」

 ロメアは、ほっと胸を撫で下ろす。

「見た所、大きな損壊はなさそうね」

 一方ルビーは、双眼鏡を使ってオルルーンのヘリコプター甲板を観察している。

 そこでは、緊急着艦していたマーリンの周囲で、作業員が行き来しているのが見える。

「よかったわ。もし甲板を踏み外していたら、海へ落ちていたかもしれない」

 ルビーの冷静な言葉は決して非現実的な事ではない。

 軍艦の狭い空間への着艦は、見た目以上に難しい。

 下手に足を踏み外すと、すぐさま海への転落に繋がってしまう。

 通常の軍艦への着艦は、かなりの慎重さが要求されるのだ。その事は、ゲイラヴォルから離着艦を繰り返しているロメアとルビーが一番知っている事だろう。

 そういう意味では、シエラの着艦はまさに奇跡だった。

 貨物を受け取るために減速していた事が幸運して、うまく着艦できたのだから。

 そんな時、エリシア達の元へ歩み寄ってくる人物がいた。

「何事かね」

「あ、艦長!」

 冷静に声をかけたのは、サングリーズの艦長ウォーロックだった。

「マーリンがトラブルでオルルーンへ緊急着艦しました」

「そんな事はわかっている!」

 エリシアの報告を一蹴したのは、ウォーロックの隣に立つシーザーだった。

「僕が知りたいのは、なぜあのような事が起きたのかという事だ!」

「落ち着きなさい、王子」

 怒鳴るシーザーを、ウォーロックがなだめる。

 どうやらこのトラブルは、王子の機嫌を損ねてしまったらしい。

「うわ、王子が怒ってる……」

「大丈夫ですよ」

 怯んでいるフィリップにそう一声かけた後、エリシアは説明する。

「無線を聞いていた限りでは、メインローターの異常らしいです」

「メインローターの異常!? なんて事だ、こんな時に欠陥でも見つかったら、揚陸戦力たるマーリンが大事な時に全部飛行停止になってしまうぞ!」

 シーザーが嘆きの声を上げる。

 機体にトラブルが起きた時、その原因が機体構造の欠陥である事がわかった場合、当然ながら他の機体でも同じトラブルが起きる可能性がある事になる。

 そうなれば、同型機全機の安全の確認と対策をする必要があり、それまで飛ばす事ができなくなる。

 これが、飛行停止というものである。

「もしそうなればきっと、SHマーリンも飛行停止になるでしょうね」

「ええー!?」

 さらにエリシアが続けた言葉に、ロメアが声を裏返す。

「同じマーリンだから、当然そうなるか……」

 冷静なルビーのつぶやき通り。

 バージョン違いに過ぎない以上、CHマーリンで起きたトラブルがSHマーリンで起こらないとは言い切れない。

 艦隊の重要な役割を担うヘリが、まとめて使用不可能になってしまう事になる。

「ああもう、チヌークの次はマーリンかよ……っ! 艦隊が全滅するようなものじゃないか!」

 頭を掻きむしるシーザー。

 エリシアにとっては、期待外れの返答。

 指導者なら、こういう時に解決手段を考えるべきだろうが、シーザーは現状を嘆いてばかり。

 王子ならば、今こそ手腕を発揮してほしいと、エリシアは思わずにいられなかった。

「詳しい原因は、これから調べる必要があるな」

 代わりにウォーロックが、話を聞いて判断した。

「でも、どうやって? オルルーンはマーリンの整備に対応してないだろう?」

 だがシーザーが、一番の問題点を指摘する。

 オルルーンが搭載できるのは、小型のヘリだけだ。大型のマーリンは艦内に収容する事ができない。

 整備士達も、マーリンの整備には慣れていないだろう。

 よって、マーリンの本格的な整備作業をオルルーンで行う事は不可能だ。それではトラブルの原因調査も難しいだろう。

「こちらの整備士をヘリで向かわせようにも、今のオルルーンにヘリは着陸できない。降ろす事はできないだろうな。最悪、ラーズグリーズ島に到着するまで待たなければならないかもしれんな」

「それまで、マーリンは全部飛行停止にするのか?」

「原因がわからない以上、止むを得ないでしょう、王子。とはいえ、短くて数日です。影響は最小限にできるでしょう」

「くっそ、こんな時にレッカー車みたいなのであれを運ぶ事ができれば……!」

 レッカー車。

 その単語を聞いた途端、エリシアの脳裏に稲妻が閃いた。

「そうです、それです! なぜ今まで思いつかなかったのでしょう……!」

 思わず、エリシアは声を上げていた。

 その声に、一同の視線が集まる。

「せ、先輩? どうしたんですか?」

 心配するフィリップをよそに、エリシアは早速呼びかけた。

「……レッカー車なら、ありますよ。1機だけですが世界一のものです」

 エリシアは、ゆっくりと顔を上げた。

 確かな自信をたたえた眼差しが、ウォーロックとシーザーに向く。

 そして、こんな提案をした。

「艦長。私達を、出撃させてください」

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