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セクション06:シエラ出撃

 ジェシー達が退屈な単純作業をしていた頃。

 飛行甲板では、フライトの準備が始められていた。

 3番スポットに用意された、1機のCHマーリン。ローターとテイルブームが折り畳まれている。

 そして、艦橋の前でまさにフライトスーツ姿でいたのは、シエラであった。

 フライトはしないのか制服姿のままのエリシアと、何やら話をしている。

「エリシア先輩、カーゴスリングのコツって何ですか?」

「カーゴスリングのコツ、ですか……そうですね、とにかく慎重に、ですかね」

「慎重にやる事はわかりますけど、操縦感覚が変わって思うように動けなくなるじゃないですか……」

「ですから、そういう時こそ慎重に、ですよ。慌てて急な操作をしたら、それこそ吊り下げた物資に振り回されて墜落する事になりますよ。大きな荷物を持った時に、走る事なんてできないでしょう? それと同じです。冷静さを失ってはいけませんよ」

「うーん……」

 にこやかにアドバイスをするエリシアに対し、シエラはどうも不安を拭いえない表情を浮かべてうつむいている。

「こういう時、エリシア先輩が代わりにやってくれたらなあ……」

「ダメですよ。チヌークは垂直補給に使うにはオーバースペックですから」

「ヘリのスペック的な話じゃなくて、エリシア先輩そのものの実力って意味ですよ」

「とにかく、乗っているマーリンを信じてみてください。自分の体の一部だと思えば、怖くなくなりますよ。大丈夫、これまで重ねた実習だと思ってやればいいのです」

 エリシアは、そっとシエラの肩に手を置く。

 シエラの表情はうつむいたままであったが、がんばれー、という声が不意に聞こえてくる。

 艦橋に顔を向けると、そこには手を振るロメアとルビーの姿があった。

 ロメアは笑顔で、ルビーはそっと見守る眼差しで。

「なあ、お前本当にシエラだよな?」

 そんな時。

 不意に現れたスコットが、シエラに問いかけてきた。

「マ、マスター! 何言ってるんですか! 私は本物のシエラですよ!」

 予期せぬ問いに動揺するシエラ。

 そんな彼女に助け舟を出すように、ルビーが補足する。

「大丈夫ですよ、そのシエラは本物です」

 なぜかスコットの元へ向かおうとするロメアの襟元を掴んで止めながら。

「ルビー、お前迷わずに区別できるよな……どうしてそんな事できるんだ?」

「まあ、雰囲気でわかりますから」

「雰囲気、って言われてもなあ……」

 スコットは首を傾げたが、考えても仕方がないとばかりにシエラに向き直る。

「まあいいや。すまん、何度もロメアと入れ替わられているから、疑心暗鬼になっちまったみたいなんだ……大事なフライトの前だって言うのに、許してくれ」

「あっ、いえっ、私は、そんな――」

 急に謝られた事に、ますます戸惑ってしまうシエラ。

 それを見たエリシアは、くくく、と小さくだが笑っていた。

「エ、エリシア先輩! 何笑ってるんですか!」

「いえ、いつも通りって思っただけです。その調子なら、きっと大丈夫ですね」

「え……」

 ぽかんと目を丸くするシエラ。

「とにかく、行こう。あんまり時間はないぞ」

 そんなシエラに、スコットはそう言って先にマーリンへと向かっていく。

 シエラは戸惑いながらも、後を追いかけようとする。

 そんな時。

「がんばってくださいね」

 エリシアが呼び止める。

 シエラが振り返ると、エリシアは肘を横に伸ばして敬礼をした。

 ロメアとルビーも、合わせるように脇を閉めた海軍式の敬礼をする。

「……はい! 行ってきます!」

 シエラも、すぐさま姿勢を正し、敬礼をして3人に答えたのだった。


 マーリンのローターとテイルブームが展開する。

 コックピット内には既にシエラとスコットが座っており、離陸前の点検を行っていた。

「マスター。点検、終わりました」

「よし、エンジン始動に入る。準備はいいか、シエラ?」

「え、はい」

「今日のフライト、ミスしたら大変だからな。無理そうだったら、すぐ言えよ」

 スコットが、シエラの顔を見ながら忠告する。

 シエラの表情には、未だ緊張が抜けていなかったが、

「はい。できる限り、やってみます!」

 シエラはできるだけ、力強く答えたのだった。

 自分達を見送ってくれたエリシア達の事を、思い浮かべながら。


 マーリンのローターが回転を始める。

 回転に異常はない。

 作業員達が、機体に繋がれたチェーンを外す。

 発艦の準備は整った。

 機体の機能が正常に機能してくれた事に、シエラはほっと胸を撫で下ろす。

「飛んでる途中に故障しないといいけどなあ……」

 ふと、口からそんな言葉が出た。

 ミスができないフライトが待っているせいだろうか。

「何言ってる。マーリンは3発機だ。何か遭ってもすぐには落ちないだろ」

「そうでしたよね……ごめんなさい」

 だがスコットの言葉で、考えすぎている自分に気付く。

 飛び立つ前に不安になっても、仕方がない。

 さあ、気を引き締めて、いよいよ発艦だ。

 シエラはスコットと共に、正面に立つ黄色いジャケットの誘導員と敬礼を交わす。

 そして、誘導員が両手を高く上げ、上昇の合図を送った。

「サーペント3、発艦します!」

 ゆっくりとコレクティブレバーを引くシエラ。

 回転するローターが、僅かに上へとしなる。

 背伸びする車輪(ギア)

 そのまま、機体がふわり、と宙へ浮かび上がった。

 誘導員が何度も両腕を上に振るのに合わせて、高度を上げていく。

 ある程度上昇すると、誘導員が腕を左側に向けて振り、左旋回の合図を送る。

 それに合わせて、マーリンは機体を左に傾け旋回、サングリーズから離れていく。

「サーペント3、発艦完了(エアボーン)!」

 そしてシエラの言葉に合わせて、マーリンは車輪(ギア)を収納し力強く上昇していったのだった。

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