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サングリーズ・チョッパーズ! パート1:撃てないジェシーと撃ちまくるレネ  作者: フリッカー
フライト2:素晴らしきかな強襲揚陸艦ライフ!
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セクション27:世界を敵に回しかねない

「すぐ、死ぬ……?」

「怖くて『やめて』くらいしか言えないようじゃ、何もしてないのと同じだ。そんな奴はすぐ食われるぞ。怯えて何もできなくなる奴より、怯えながらでも逃げたり立ち向かったりする奴の方が、ずっと生き残りやすいに決まってるだろ? 違うか?」

「……」

 謎の男の言い分は、至極全うなものだった。

 ジェシーは反論できない。

 彼の言う通り、怯えて何もできなかったからだ。

 もし、彼が見境なく襲ってくる相手だとしたら、と思うとぞっとする。

「さっきの隻腕の女だって、軍人としての自覚を持って戦おうとしてるんだぞ? 五体満足なのにそいつにも負けてるお前が、なぜ軍隊にいるのか俺には理解できねえ」

 謎の男は、再び問いかける。

 ジェシーは少し迷ったが、恐る恐る答える事にした。

 確かに、自分が軍隊にとってお荷物になるかもしれない事は、わかっている。

 それでも、自分にはどうしても離れられない理由が、ひとつだけある。

 それは――

「放っておけない人が、いるんです……」

「その怪獣さんの事か?」

「……!?」

 あえて隠していた部分を見抜かれ、ジェシーは狼狽する。

 すると、謎の男は何を思ったか、あっははははは、と笑い出した。

「なんて頼りない事だ……! そいつがやられただけで何もできなくなるようじゃ、十年――いや、百年早いって奴だ! 人はそういうのを、ありがた迷惑って言うんだぞ! そいつも間違いなく、余計なお世話だって思ってるぞ!」

「……」

 ジェシーの心の奥底に、若干の苛立ちが沸き上がる。

 確かに、こんな事を言えば、笑われるかもしれない事は予想できていた。

 だが、真正面からバカにされたように否定されると、さすがに苛立ちを抱いてしまう。

 あなたにレネの何がわかるんだ、と。

「そんな事、ない……!」

「ほう、どこかそんな事ないって言うんだ? か弱い嬢ちゃん」

 試すように問いかける謎の男。

 挑発のようにも見えるが、このまま黙っているのは嫌になってきた。

 ジェシーは、ぎりと拳を握り、謎の男を真っ直ぐ見据え、答えた。

「俺は、レネの事なら何でも知ってます……!」

「ほう?」

 その言葉を聞いて、謎の男は一瞬目を丸くする。

「レネは、人一倍臆病なだけです。だから乱暴になるだけで、安心させてあげれば、普通のかわいい女の子です。それに、こんな弱い俺の事も受け入れてくれています。だから――」

 自然と、口調が早口になっていた。

 ふーん、とわかったのかわかってないような言葉をつぶやく謎の男。

「何でも知ってる、ねえ……そんな事言う奴ほど、知らない事があったりするんだよねえ」

 だが。

 謎の男は、あっさりと否定した。

 ジェシーは驚いたが、

「だから1つ教えてやるよ。そいつはただの暴れん坊じゃねえ。下手すりゃ世界も敵に回しかねない危険人物だ」

「世界を、敵に回しかねない……!?」

 その後に続けた言葉の方に、もっと驚いた。

 世界を敵に回しかねない危険人物。

 そんな非現実的な事を、彼はレネを見下ろしながら平然と言ったのだ。

「名は体を表すと言うが、怪獣とはよく言ったもんだなあ。一旦見境なく暴れ出せば、街1つを火の海に変える……そいつならやりかねねえ」

 だが、続く言葉には不思議と現実味があった。

 航海に出る前の実習で、レネは見境なく射撃を行った。

 それを目の前で見ている身としては、謎の男が言う光景がありありと脳裏に浮かんでくる。

「どういう事です……!? 何を根拠にそんな事を!?」

 だから、すぐにそう問いかけていた。

 謎の男が、なぜそんな事を言うのか知ろうと。

「か弱い嬢ちゃん、世の中には知らない方が幸せな黒い一面ってのがある。それに向き合える覚悟がないお前に、喋る気は起きねえ。だが、いずれわかるかもな。この航海で世界に出れば」

 だが、謎の男は明確に答えなかった。

 そのまま革ジャンを翻し、ジェシーに背を向ける。

「最後に1つだけ、忠告してやる。お前がどうしてそいつを放っておけないのか、俺は知らん。だが、そいつは今のお前に不釣り合いだ。今の内に手を切っとけ。じゃないと、手を噛まれるくらいじゃ済まなくなるぞ?」

 そして、もう用はないとばかりに歩き出す。

 ただ、階段の奥へ消えようとした時。

「だが、それでも付き合うって言うなら、もしかすると――」

 謎の男は、そんな事をつぶやいていたような気がした。

「う、うう……」

 そんな時だった。

 レネが、僅かに声を上げ始めたのは。

「……レネ?」

 見下ろすと、今まで気絶していたレネの瞼が震え、ゆっくりと開かれた。

「うーん――あれ、ジェシー? あいつは……?」

 そんな事を問うレネ。

 よかった、と安心したジェシーはレネの体を優しく起こしつつ答えた。

「もういなくなったよ、レネが気絶してる間に」

「いなくなった!? ってかあたし、気絶してたの!? ジェシー、あいつに変な事されなかった!?」

 状況を把握したレネは、がばっと立ち上がってジェシーに問う。

 ジェシーは、その気迫を前に苦笑しながらも答える。

「い、いや、大丈夫。別に変な事はされてない」

「ほんとに?」

「本当だよ、本当」

「そっか……くーっ、あいつ、今度会ったら絶対にぶっ飛ばしてやるんだからっ!」

 悔しそうに拳を握るレネ。

 一方ジェシーは、そんなレネの姿を見て、謎の男の言葉を思い浮かべていた。

(世界を敵に回しかねない、危険人物……)

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