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サングリーズ・チョッパーズ! パート1:撃てないジェシーと撃ちまくるレネ  作者: フリッカー
フライト2:素晴らしきかな強襲揚陸艦ライフ!
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セクション26:謎の男VSレネ

「猶更理解できねえな……ならなんでアパッチに乗ってる? いや、そもそもなぜ軍隊にいる? スルーズに徴兵制があるなんて聞いた事ねえ」

 一歩前に出た謎の男の前に、レネが立ち塞がる。

 自然と後ずさりしていたジェシーを、庇うように。

「あんた、フライトの時ずっとジェシーの事見てたでしょ。ジェシーに何がしたい訳?」

 男の見下ろす視線に怯む事なく、レネはにらみ返す。

 謎の男は彼女の視線も気にせず、答える。

「別に気になっただけだよ、お嬢ちゃん」

「気になったって、どんな風に? まさか襲いたいとか?」

 レネは敵意を露わにしている。

 さながら唸る猛犬のように、身を低くする構えは臨戦態勢。

 そんな彼女を見た男は、はっ、と軽く笑うと。

「……だったらどうする?」

 真顔に戻り、試すように問い返す。

 それが冗談なのか、本気なのかはわからない。

「そんなの――ひとつだけっ!」

 ジェシーは呼び止めようとしたが、遅かった。

 レネは素早く男の懐に飛び込み、握った拳を顔面目がけて突き出していた。

 微動だにしない男に、それを回避する術はない。

 だが。

「おっと」

 顔面に直撃するはずの拳は、目の前で止められた。

「……っ!?」

 レネの拳は、男の左手にすっぽりと収まっていた。

 目を見開くレネに、男はにやり、と笑う。

 そして、受け止めた拳を握り、その腕を強引に捻った。

「あ――っ」

 レネが、苦悶の声を上げる。

 抵抗できていないのは明らかだった。捻られた腕は、完全に抑え込まれている。

 それもそのはず。

 どんなに暴れん坊でも少女でしかないレネの力が、大の男に及ぶはずがない。

「その程度か? かわいい怪獣さん」

 男は挑発すると、くっ、とレネの瞳に闘志が戻る。

 だが、それも束の間。

 男は空いた右手を素早くレネの首に伸ばしていた。

「が――っ!?」

 レネの細い首が、男の手に掴まれる。

 いや、握られている、という表現の方が正しいかもしれない。

 左手で抵抗するが、引き剥がせない。

 捻られていたレネの右腕が、ゆっくりと落ちていく。

「悪いが、俺は女だからって手加減はしねえ。喧嘩を売られたとなりゃ、応戦するまでさ」

 謎の男はそう言って、レネの首を掴んだまま持ち上げた。

 レネが抵抗できない。

 何とか浮いた足を振り回しているが、普段の乱暴ぶりからは想像もつかないほど弱々しく、着ている革ジャンを汚す事さえ敵わない。

 それだけ、首を強く握られているという事か。

「あ、ああ……」

 ジェシーは、完全に怖気ついてしまっていた。

 やめて、と言いたいが声が出ない。

 近づいて止めたいが、足が動かない。

 信じられなかった。

 一度暴れ出したら手に負えないレネが、こうもあっさりと抑え込まれてしまう事が――

「どうした? 黙って見てるだけか?」

 すると。

 謎の男が、ジェシーに視線を向け問いかけてきた。

「それじゃまるで、恋人がモンスターに食われるのを見て腰が抜けたヒロインみたいだぜ? 逃げるんなら逃げていいんだぜ? 助けを呼ぶなら呼んでいいんだぜ?」

 謎の男の言う事はもっともだ。

 その気になれば、逃げたり助けを呼んだりする事ができるはず。

 だが、できない。

 逃げたって無駄。

 助けを呼んだって無駄。

 そんな思考が、なぜか思考を支配している。

 レネでさえ敵わない相手なのだから、自分で何とかできるはずがない。

 でも、このままではレネが――

「――、て」

「ん? 聞こえねえなあ」

 出ない声を、何とか絞り出す。

 だが、届かない。

 もっと、声を出さなければ。

「やめ、て……!」

 やっと、自分でもわかるほどの声が出る。

 それだけの事に、かなりの力を使った気がした。

「やめて……? お前、こいつを庇うのか? 先に仕掛けてきたのに?」

 だが。

 その声は謎の男の耳には届いても、心にまで届く事はなかった。

 ジェシーは反論できない。

 レネは悪い訳じゃない、とか。

 怖がっているだけなんだ、とか。

 全て、謎の男の視線ひとつで封じられてしまう。

 彼には何を言っても通じないと、無意識に感じ取っていたのかもしれない。

「そりゃ無理な相談だなあ」

 謎の男は、空いた左手で、レネの腹を強く殴った。

「ぐ――」

 途端、糸の切れた操り人形のように両手だらりとが落ちるレネ。

 あ、とジェシーは愕然とする。

 謎の男は乱暴に、レネをジェシーの側へ放り投げる。

 目の前でレネが倒れる様は、まるで捨てられた人形のようにも見えた。

「レネッ! レネッ!」

 慌てて様子を確かめるジェシー。

 呼びかけても、目を閉じたレネは返事をしない。どうやら気絶してしまったようだ。

「これで少しは、怪獣さんも懲りたかな」

 だが、当の男は両掌を払うだけで、全く悪びれる様子がない。

 まるで、悪いのはレネだと言わんばかりに。

 どうして。

 どうしてこんな事を。

 だが、反論できない。

 男の視線がこちらに向いただけで、ジェシーはその意欲を削がれてしまう。

 一歩歩み寄ってきただけで、反射的に後ずさりしようとして尻餅をついてしまう。

「お前、俺が怖いか?」

 謎の男は、試すように問う。

 ジェシーは答えられない。

 怖いと答えてしまえば、何をされるかわからないという恐怖心があるせいで。

 それが、おかしかったのか。

 謎の男はふっ、と小さく笑った。

「安心しろ。手を出してこない奴を襲うほど、見境がない事はしねえ」

 しかし、すぐ真顔に戻り、その冷たい視線がジェシーを射抜く。

「だがな。お前そんなんじゃ戦場ですぐ死ぬぞ」

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