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サングリーズ・チョッパーズ! パート1:撃てないジェシーと撃ちまくるレネ  作者: フリッカー
フライト2:素晴らしきかな強襲揚陸艦ライフ!
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セクション25:隻腕でも歩兵でいる訳

「……セリカさん。無礼を承知で聞きます」

 ジェシーは、尚も痛みで歪めるセリカの顔を見つめながら、問うた。

 答えてくれるかな、と少し不安になりつつも。

「左腕がないのに、軍隊に入れたんですか?」

「そんな訳、ないでしょ……? 左腕がなくなったのは、軍に入った後。軍の訓練とは、関係ない事故で、ね……」

 意外にも、セリカは答えてくれた。

 ジェシーは、さらに問う。

「それなら、後方部隊とかへ配置換えにならなかったんですか?」

「……どうしてそんな事聞くの?」

 逆に、問い返される。

 ジェシーは少し迷ったが、答える事にんする。

「片腕をなくしても歩兵で居続けるなんて話、聞いた事なくて――だって、ライフル銃もろくに持てないじゃないですか」

「そうね……確かにそうよ。片手で銃を撃つ事はできても、弾のリロードはできないもの」

 セリカは、天井を見上げて答える。

 まるで、以前は普通にできていた事を悔いるかのように。

 だが、すぐに視線をジェシーに戻し、再度問う。

「で、だから何だって言いたいの? 隻腕の女に歩兵は務まらない、とか?」

「い、いえ、そういう訳では――」

「遠慮しないで言って。あたし、本音が知りたいから」

 躊躇うジェシーだが、セリカは怒る様子もなく促してくる。

 ジェシーの思いに悪意がない事を、既に見抜いているかのように。

 ジェシーはうつむきながらも、思った事をそのまま語る。

「その、もっと自分を大切にした方がいいと思いまして――片腕でも歩兵を続けるなんて、セリカさんには、似合わないと思います。それよりも、片腕をなくしただけで済んだなら、助かった命を無駄にしないように大切に生きるべきかと――」

 言い終わってから、ジェシーは恐る恐る顔を上げる。

 意外にも、セリカの表情は変わっていなかった。

「……そう言われても、仕方ないよね」

 そして、再び天井を見上げていた。

「障害者になったなら、障害者らしくおとなしく生きろって、みんなよく言う……けどそれって、何か違う気がするんだよね。障害者でも、スポーツしたい人はスポーツしてるんだし」

 セリカの言う事も、一理ある。

 障害があるとなかろうと、どう生きるかを決めるのは彼ら自身だ。

 ジェシーも、それを否定するつもりはない。

 障害者スポーツをする人間を、無茶だからやめろなんて言うつもりもない。

 だが、やはりわからない――

「でも、歩兵なんですよ? もしかしたら、死ぬかもしれないじゃないですか? セリカさんは、望んで歩兵を続けてるんですか?」

「もちろん」

「それは、なぜです?」

「そう来るか……変な話かもしれないけど、あたしの夢は一言で言えば――」

 セリカは顔を降ろす。

 どう言おうか考えているのか、少し間を置いた後、ジェシーに顔を向けて答えた。

「世界の危機を救う、って所だから」

 世界に危機を救う?

 それはどういう事なのかと、ジェシーが疑問を抱く一方で。

「おー、世界の危機を救うって、かっこいいじゃない!」

 レネは感心した様子で声を上げ、セリカもでしょ、と笑みを見せる。

 直後、艦橋のドアが急に開いた。

「あ、いた。おーい、セリカ軍曹ー」

 やる気がなさそうな男の声がする。

 セリカが反応して顔を向ける。

 そこには、眼鏡をかけた男の歩兵がいた。年齢はセリカと同じくらいだろうか。

「あんたの番が回ってきたぞー」

「あ、もうこんな時間か。ごめん。あたしもう行かないと。積もる話はまた後でしましょ」

 どうやらセリカも、射撃の訓練に参加していたらしい。

 そう挨拶してから、彼女は足早に甲板へ出ていく。

 床に落ちたHLMの事を、忘れたまま。

「あ、ちょっと! これ忘れてますよ!」

 それに気付いたジェシーは、拾って慌てて呼びかける。

 あ、と忘れ物に気付いたセリカは、慌ててジェシーの前に戻り、ありがとう、とHLMを受け取ってから、今度こそ甲板へ去っていく。

 ジェシーはなぜか、その後を追って甲板に出ていた。

「またファントム何とかにやられてたのか?」

「まあね。今は収まってきたから大丈夫」

「あーあ、ほんと損してるよね、あんたは。左腕さえあれば見た目は完璧なのに……」

「うっさい」

 眼鏡の男とそんなやり取りをしながら、セリカは的が並べられている甲板後部へ向かう。

 的の前に立つと、普通の歩兵と変わらぬ手付きで本物のピストルを用意する。

 遠目から見ていても、ジェシーにはそれが信じられなかった。

「片腕だけになっても世界の危機を救いたいなんて、やっぱりかっこいいよねー、ジェシー?」

 同じく眺めていたレネがそんな事を問うたが。

「そこまでして、やりたい事なのかな、軍隊で……」

 ジェシーは、自然とそんな疑問を口にしていた。

 人助けがしたいなら、どうして消防に行かなかったのか、と前に言われたせいか。

 世界の人を助けたいなら他にも選択肢があるはずなのに、と思わずにはいられなかった。

 セリカがピストルを構える。

 風で、ぺらぺらな左腕の袖がなびく。

 間もなく射撃が始まる。

 ジェシーはそれが始まる前に、艦橋の中へと戻っていった。

 セリカと話をした、あの場所へ。

「あっ、ちょっと待って!」

 レネもすぐに、その後を追いかけてきた。


 だが。

「へえ……お前、銃声が嫌いなのか」

 ドアを開けて入った途端、一番会いたくない相手と鉢合わせてしまった。

「……!?」

 ジェシーは息を呑む。

 あの謎の男は、相変わらずくちゃくちゃと何かを噛みながら、ジェシーを見下ろしていた。

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