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サングリーズ・チョッパーズ! パート1:撃てないジェシーと撃ちまくるレネ  作者: フリッカー
フライト2:素晴らしきかな強襲揚陸艦ライフ!
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セクション20:初めての着艦

「シエラもがんばってるんだな……」

 マーリンのフライトを見ていたジェシーは、つぶやく。

 アパッチとチヌークの編隊は今、周回飛行を終えてサングリーズの横を通り過ぎた所だった。ちょうどファストロープ降下の訓練を終えたマーリンと入れ替わる形だ。

 陸上の基地でもそうだが、着いた所でいきなり着陸する事はない。まずは基地の状態を確認してから戻って着陸に入るのが、軍用機の基本的な着陸法だ。

『さ。着艦シーケンス開始よ、ハルカちゃん』

『了解』

 先頭を行くアンバー・ハルカ機が、左旋回を開始。

 その後を追って、ジェシーも機体を左旋回させた。

 先程と同じコースを、再び周回する形になる。

 ただ前回と違うのは、編隊の間隔が再び広がり、着艦に向けたチェックを行う事だ。

 表示などに異常はない。安心して着陸に入れる。

「こちらリザード2、最終点検完了」

『了解リザード2、4番スポットへの進入を許可する』

 管制室と交信するジェシー。

 見れば、アンバー・ハルカ機は、既にサングリーズの左側に位置を付けている。

 位置は、3番スポットだろうか。

「ああー、なんかこうしてると暇だなあ……」

「もう少ししたら操縦代わるから、ちゃんと安全確認して」

「はーい。今は大丈夫よー」

 妙におとなしいレネに注意をしつつ、ジェシーは最後の旋回に入る。

 サングリーズを正面に捉えた。

 既に、誘導員がハンドシグナルで誘導を始めているのが見える。

 車庫入れをする自動車のように、少しずつ速度を落としていく。

 速度をサングリーズと同調させながければならないのが、難しい所だ。

 ジェシーら陸軍は、当然の事ながら動く艦に対する着艦の機会がほとんどない。

 それはつまり、慣れていない事を意味する。

 ジェシー達も当然ながら、するのは初めてである。経験者は教官のアンバーだけ。

 実際ハルカ・アンバー機は、着艦寸前機体がふらふらと安定していない様子だった。

 それでも着艦には成功したものの、片足から降りる安定しない着艦になってしまい、アンバーから厳しい指摘。

『なんか安定してなかったわよ、ホバリング。もっと丁寧に降りなさい』

『は、はい! すみません教官!』

 それを見ていると、不安になる。

 理屈は頭でわかっていても、うまくできるかどうか。

 しかも、レネと一緒に乗っているのだ。自分だけミスをするのはまだしも、他の人を巻き込んでしまうとなると、さらに手が強張っていく。

「気を引き締めよう」

 ジェシーはそれだけつぶやいて、機体を慎重にサングリーズの左側へ近づけていく。

 4番スポットの横に付けると、誘導員が右へ寄せるように合図する。

 速度に気を配りながら、4番スポットの真上へ。

 講義で教わった通り、甲板上にあるマークを目印にして位置を合わせる。

 横線を、自らが座る後席に合わせるように。

 縦線に、機首の向きを合わせるように。

「よし」

 降下の合図が出た。

 左右や前後に揺れないように気を配りつつ、ゆっくりと高度を落とす。

 レネ・ジェシー機は、ふわりと降り立つように、甲板へ着地した。

 意外とすんなりできた、というのがジェシーが最初に抱いた感想だった。

『おー、いい着艦じゃない。初めてとは思えないわねー』

 すると、アンバーから褒め言葉が飛んでくる。

 見れば、アンバーはキャノピーを開けて甲板に降りており、緊急用無線機を手にレネ・ジェシー機を見ていた。

 アパッチは後方視界が皆無に等しいので、こうでもしないと後方が見えない。

 とはいえ、こんな事をしてまで僚機の様子を見に来る教官は初めて見たが。

「ありがとうございます、教官。でも、何もそこまでしなくても――」

『何言ってるのジェシー君、教え子の飛び方はしっかり見ておかないと――ってレネちゃん! 何やってるの!』

 と。

 アンバーが急に、レネを名指しして叫びを挙げた。

 見ると、周囲の作業員達が、レネ・ジェシー機を見て何やら狼狽している様子だ。

「え、どうしたんですか!?」

 後席から見てもレネが何をしているのか全くわからないので、計器のディスプレイを見る。

 見ると、照準装置に映る白黒映像が、作業員達を映している。動かしていないなら、アンバー・ハルカ機の後姿が見えるはずなのに。

 それで驚いている、という事は――

『チェーンガンを勝手に動かさない! おもちゃじゃないんだから!』

「えー、だって退屈だったし……」

 レネとアンバーのやり取りで、ようやく意図がつかめた。

 妙におとなしいと思っていたレネは、勝手にチェーンガンを操作していたのだ。

 チェーンガンは、機首の照準装置の向きと連動して操作する事も可能である。つまりレネは、チェーンガンを作業員達に向けていた事になる。

 いくら弾は入っていないとはいえ、何の予告もなく銃を向けられれば、誰だって驚くに決まっている。

「レネ、周りをびっくりさせちゃダメだよ」

「びっくりさせるくらいならいいじゃない」

 ジェシーが注意しても、レネは全く聞かない。むしろいたずらをする子供のように面白がっているようだ。

 チェーンガンは、レネの操作によってあちこちに向けられる。

『ジェシー君! やめさせなさい!』

「わかってます! レネ、いい加減にして……!」

 アンバーに促されるまでもなく、ジェシーは止めようとしたが、レネはやめる気配がない。

 コックピットの前席と後席は、隔たれた空間だ。手を伸ばすには物理的に届かない上に、間は防弾ガラスで遮られている。

 つまり、レネがいるのは、近そうで遠い位置。

 普段のように、手を伸ばして止める事などできない。

 かと言って、コントロールを奪える方法がある訳でもない。

 どうしたら、とジェシーが焦り始めた、そんな時。

「あ」

 レネが何かに気付いた様子だった。

 それと連動して、チェーンガンも止まる。

 今まで面白がっていた様子とは異なる反応。

 気になったジェシーはディスプレイに目を向ける。

 そこに映っていたのは。

「……!」

 チェーンガンを向けられてなお、平気な顔をして艦橋に背を預けている、あの謎の男だった。

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