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サングリーズ・チョッパーズ! パート1:撃てないジェシーと撃ちまくるレネ  作者: フリッカー
フライト2:素晴らしきかな強襲揚陸艦ライフ!
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セクション19:ファストロープ

 シエラとスコットが操縦するマーリンは、周回飛行をした後サングリーズへと戻ろうとしていた。

 追いかける形で正面にサングリーズと僚艦のゲイラヴォルの後姿を見据えながら、スコットがサングリーズと通信する。

『サーペント3へ、3番スポットへの進入を許可する』

「了解、管制室。3番スポットへ進入する。聞いたかシエラ、3番スポットだ」

「はい、マスター。伍長さん、降下の用意をお願いします」

 頷いたシエラが、さらに機内にいるロジャーへと話を伝える。

「了解だ。歩兵の皆さーん、間もなく降下の時間ですよー!」

 そして、ロジャーが早速歩兵達に降下の用意を伝える。

 途端、機内が騒がしくなり始めた。

「いいかお前ら! シエラちゃんが見てる前で、かっこ悪いとこ見せるんじゃねえぞ! そんな奴は最も勇敢な軍・海軍陸戦隊の面汚しだ! シエラちゃんの手を煩わせる価値すらねえ! シエラちゃんにいいとこ見せたけりゃ、意地でも食らいつけ! わかったか!」

 准尉の叫びに、歩兵達はただはい、と返事をするのみ。

 それを操縦しながら聞いていたシエラは、苦笑を浮かべるしかない。

「勇気だけが奴らの取柄、か……」

 そしてスコットは、ぽつりとつぶやいていた。

 海軍陸戦隊は上陸の切り込み隊長を担うが、規模自体は陸軍よりも遥かに劣る。

 たったそれだけの規模で友軍の道を切り開かなければならないため、歩兵はまさに命知らずの集団と言っても過言ではない。

 スコットの言葉は、そんな陸戦隊のスタイルを揶揄した言葉であるが、逆に言えば、そんな集団でなければ上陸の先陣は切れないという事でもある。

「マスター。アプローチ、開始します」

 そうこうしている内に、マーリンはサングリーズへ接近していく。

 その間に、ロジャーが胴体右側のスライドドアを開く。

 シエラが今行おうとしている事。

 それは、指定されたスポットの上へマーリンを持っていく事だ。

 甲板の上では、誘導員が手前へ向けて手を振っているのがわかる。

 シエラはマーリンの速度を落としつつ、サングリーズの左側から近づいていく。強襲揚陸艦では、飛行甲板には左側から出て左側から入るのがルールなのだ。

車輪(ギア)、下げなくて大丈夫か?」

「平気です、マスター」

 スコットの試すような言葉にしっかり答えつつ、シエラはマーリンをゆっくりとサングリーズの左横へ持っていく。

 車輪(ギア)は上げたままだが、マーリンにとっては通常のやり方なので問題はない。

 仮に下げたとしても、パワーを失って落ちるような事になれば、その衝撃を前に車輪(ギア)はあってないようなものである。

 やがて、マーリンは指定された3番スポットの横に来た。

「ホバリング開始」

 シエラがつぶやくと、マーリンはさらに速度を落とし、サングリーズの速度に合わせる。

 ホバリングとは言っても、相手は動いている船。速度をゼロにしてしまえば、サングリーズに置いて行かれてしまう。

 位置を合わせるためには、速度の同調が不可欠。

 自動でホバリング状態を保ってくれるオートホバリング機能は役に立たない。

 ここはパイロットたるシエラの力だけで、位置を保たなければならないのだ。

 レバーを握る手に、自然を力が入るシエラ。表情も自然と真剣になる。

 すると、誘導員が右側に手を振る。

 右へ機体を移動せよ、という合図だ。

 シエラは機体を右へ傾け、甲板の上へとゆっくり滑り込ませる。

 真下の海面に広がる波紋が、次第にサングリーズの陰へ消えていく。

 誘導員が腕を水平に広げる。

 位置を保て、の合図。

 シエラは姿勢を戻し、位置を保つ。

 遂に、マーリンは3番スポットの上でサングリーズと並走する形になった。

 胴体が若干左右に揺れるが、許容範囲内だ。

「よし、降下開始だ!」

「了解! 降下開始!」

 スコットの言葉をロジャーが復唱すると、甲板に1本の太いロープが放り込まれた。それは、機外にあるフックと繋がっている。

「行くぞ行くぞ行くぞ!」

 准尉が叫ぶ。

 そして、歩兵が1人ずつそれに捕まって、素早く甲板へ滑り落ち始めた。

 ちょうど、消防士が使う滑り棒の要領だ。手だけだなく足でもロープを挟みながら、数秒足らずで甲板へと降り立つ。

 これが、ファストロープ降下。

 敵地へ素早く降り立つテクニックのひとつだ。命綱を使わない危険な方法であるため、専門の訓練を受けた者でなければできない方法である。

 歩兵は次々とロープを伝って1人ずつ甲板へ降り立っていくが、必ずロープに捕まる最大人数が2人になるように間隔を開けている。ロープの強度が2人分までしか支えられないからだ。

 1分も経たずして、全員の降下が完了。

 歩兵達は突撃銃を前方に構えて、甲板の奥へと進んでいく。

 シエラはその様子を、コックピットから見下ろして見守った。

「全員降下完了したぜ!」

「はい! これより離脱します!」

 シエラが叫ぶと、用済みとなったロープが切り離され、甲板に捨てられる。

 一方で誘導員が、左へ向けて手を振っている。

 マーリンはそれに従い、左へ旋回してサングリーズから離れていった。

 一部の歩兵は手を振ってそれを見送ったが、すぐ准尉に注意されていた。

 こうして、降下の訓練は無事に成功。

 サングリーズからある程度離れた所で、シエラは安堵でふう、と大きく息を吐いた。

「よくやったなシエラ。上々じゃないか」

「歩兵の連中も、みんな心配してなかったぜ!」

「はい、うまくできてよかったです……」

 そして、スコットやロジャーに対し、笑みを見せて答えた。

「じゃスコット、シエラちゃんにご褒美やらねえとな」

「おい、何だその悪意ある言い方は」

 だが、そんなスコットとロジャーのやり取りには、首を傾げるしかなかったのだった。

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