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サングリーズ・チョッパーズ! パート1:撃てないジェシーと撃ちまくるレネ  作者: フリッカー
フライト2:素晴らしきかな強襲揚陸艦ライフ!
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セクション16:食べ物で落とすのは恋の基本

 最初に離陸の準備に取り掛かったヘリは、3番スポットにいるマーリンだった。

 折り畳まれていたローターとテイルブームが、自動でゆっくりと展開。

 そしてブームに描かれた、『NAVY MARINE』の文字が、日の光に当たってはっきり見えるようになる。

 機内のコックピットに座るのは、フライトスーツ姿のシエラとスコットだ。右側のパイロット席にシエラ、反対側の副パイロット席にスコットが座る。

 ヘリコプターのコックピットでの座る位置は、固定翼機と全く正反対。ヘリコプターは、レバー位置の関係で右側の席に座った方が操縦しやすいのだ。

「ローターとブームの展開、正常に終了しました。マスター」

「よし。じゃあ次のチェックに入るぞ」

 スコットが持つチェックリストに従い、2人はエンジン始動前のチェックを始めようとした。

 そんな時。

「よー、お2人さん!  元気にしてっか!」

 別の男が、コックピットへ陽気に顔を出してきた。

 髪はほぼ丸刈りとなっており、肩についた階級章は伍長のものだ。

 彼は、決して部外者ではない。このマーリンの積荷管理者(ロードマスター)を務める男である。

「あ、伍長さん」

「……ロジャーか。何の用だ?」

 普通に声をかけたシエラに対し、スコットはどこか敵を見るような細い目で彼をにらむ。

 だがロジャーというらしい男は、そんな事も気にする事となくどこかいたずらな笑みを浮かべスコットの肩を叩いた。

「何の用だ、とは相変わらずつれない奴だなあ! ところでお2人さん、ハワイに着いたらデートに行くご予定はないのか?」

「え……!?」

 明らかにからかう意図を持った問いを投げられた途端、頬を真っ赤に染めるシエラ。

 だが、ロジャーの視線はシエラではなくスコットに向けられている。

「シエラちゃんは陸戦隊の人気者だからねー、のんびりしてると他の奴にやられちまうぞ? なあ?」

 ひじでスコットの肩をつつく。

 それでも、スコットの細い目線は変わらない。

「……お前、またオレの事バカにするのか?」

「いやー? そんな気はねえって。俺はお似合いのお2人さんが早くくっつくのを期待してるだけだよ」

「……オレはシエラとそんな関係じゃねえっての」

 スコットがため息をつく。

 一方のシエラは、真っ赤にした顔をうつむけている。

「ほんとか? じゃあ神に誓えるか? シエラちゃんが陸戦隊の連中に何されようと私は一切気にしません、って」

「あのなあ、それとこれとは話が別だろ」

「あれー、それって嫉妬じゃねーのか?」

「なんで嫉妬になるんだよ。お前の屁理屈はもう聞き飽きた」

 ロジャーのからかいに、スコットは慣れているのかほとんど動じていない。

「シエラ。あいつの言う事、真に受けるなよ」

 ぽん、とシエラの肩を叩くスコットだが、シエラは何も答えない。

 スコットはそのまま、どけ、と言ってロジャーを軽く押し除けると、席を離れる。

「おい、逃げるのか?」

「バカ。忘れてた点検に行くんだよ。その間手出すなよ」

 スコットはそれだけ言い残して、胴体にあるスライドドアから外へと降りた。

 それを見送ったロジャーは、はっはっは、と面白おかしく笑い始めた。

「何だよ何だよ! あれだけ言っといて手出すな、なんて素直じゃねえなあ! シエラちゃんもそう思うだろ?」

 ロジャーの視線が、シエラに向く。

 それに気付いたシエラは、びくん、と一瞬体を震わせた。

「い、いえ……マスターは、その、いい人だとは思いますが、そんな、好きだとか、そういう気持ちは――」

 視線を泳がせるシエラを見たロジャーは、ふふ、と笑った。

 先程までのからかいの意図を持ったものとは、明らかに違う笑いだった。

「へえ、やっぱり好きなのか」

「え、ええ――!?」

「そりゃ、見りゃ誰だってわかるさ、お2人さんはわかりやすいからな。気付いてねえのは当人だけ。陸戦隊の連中は、みんなスコットに嫉妬してるくらいなんだぜ?」

「そ、そんな……」

 ますますしどろもどろな態度になるシエラに、ロジャーは意外な言葉を投げかけた。

「そう照れるな。いい事教えてやるよ。手出しな」

「え?」

「別に変な事はしねえよ。いいから」

「は、はい……」

 シエラは半信半疑の様子で、手を差し出す。

 すると、ロジャーは懐から取り出した何かと、その手の上に置いた。

 それは、袋に入った黄色い飴玉1個。

「え? これは――?」

「あいつが好きなレモン味の飴さ。出港前に買おうとしてたが売り切れてて残念がってた代物さ。これさえあれば、マスターの見る目が変わるはずだぜ」

 きょとんとした様子で、ロジャーを見上げるシエラ。

 すると、ロジャーはもう用は済んだとばかりに背を向け、

「食べ物で相手を落とすのは、恋の基本だぜ? じゃ、がんばりな」

 軽く右手を上げながら、戻っていった。

 ぼかんとその様子を見送ってから、シエラはもらった飴玉を見下ろす。

 そして。

「はい、がんばります!」

 普段の表情を取り戻し、去っていったロジャーに礼を言ったのだった。

 それから、間もなくして、スコットがコックピットに戻ってくる。

「シエラ、あいつに変な事されなかったか?」

「あ、はい。特に何もしていませんよ?」

 シエラは慌ててもらった飴玉を隠し、普段通りに答えた。

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