セクション01:強襲揚陸!
澄み切った青空の下、のどかな砂浜で突如水柱が上がった。
マンションや住宅などがすぐ近くにある砂浜の上空を、轟音と共に1機のジェット機が悠々と飛び去って行く。
先程の水柱は、このジェット機――シーハリアーの爆撃によるものだった。
だがその短い翼には、武装らしきものを装備していなかった。
やがて砂浜に、赤い煙が上がり始めた。
いつの間にやら砂浜にいた黒ずくめの兵士が使った、発煙筒によるものだ。
それを合図に、海辺から彼らがやってきた。
揺れる波を切り裂いて、高速で次々と砂浜に殺到する、黒いゴムボート。
その数、6。
6人ほどの歩兵を乗せており、滑り込むように浜辺に乗り上げると、彼らはすぐさま浜辺へ降り、各々がSFじみた外見の突撃銃を構え、浜辺の奥へ素早く駆けていく。
しかしこれは、まだ第一波。
ほどなくして、白い煙幕を噴き出しながら、第二波が横一列の隊形でやってきた。
それは、一見すると小型の船のようにも見えるが、違う。
船にしては妙に角ばったボディを有し、小さな砲塔まで備えているそれは、水陸両用の装甲車――AAV7だ。
6両いるAAV7は浜辺にたどり着くと、キャタピラで砂を掻き分けながら砂浜へ上陸。
ある程度進んだ所で停車すると、後部のドアから次々と歩兵達が姿を現す。第一波の歩兵と足早に合流し、突撃銃を構えて砂浜へ伏せる。
その間にも、上空では彼らを見守るようにシーハリアーが何度も飛び交っていた。
さらに、第三波。
横一列に並んで海からやってくるのは、箱型の船体を持つ上陸用舟艇。数は4。
威風堂々という言葉がふさわしい、ゆっくりした速度で浜辺に接舷すると、前部のランプドアを開く。
その奥から、1隻につき2両の装甲車が姿を現す。
市販のワゴン車とほとんど変わらない外見をしたLMVと、逆にいかにも装甲車然とした8輪装甲車ピラーニャが4両ずつ。後者の内2両は、戦車のように大きな砲塔と主砲まで備えていた。
合計8両の装甲車が続々と発進し、砂浜を駆けて歩兵部隊と合流すると、上陸用舟艇は反転して浜辺を後にし、海へと戻っていく。
その先で待っていたのは、巨大な軍艦だった。
凹凸が少ないすっきりした船体の上面は、大半が平らな飛行甲板で覆われており、先程まで飛行していたシーハリアー1機が、ホバリングで着陸態勢に入っている。さらに、2機のヘリコプターがローターを回して発進しようとしている。
その光景はまさしく、航空母艦と呼べるものだ。
だが、艦尾の底には大きな扉が開いており、その中に上陸用舟艇が進入していく。
そう、砂浜に送り込まれていた部隊は、地上・空中を問わず全てこの軍艦から送り込まれていたのだ。
これは、単に航空部隊を送り込むだけの空母ではない。
空母から派生し、より多機能化を遂げた軍艦――強襲揚陸艦である。
そして、その名は艦尾側面に小さくだが書かれていた。
『SANNGRIZ』
飛行甲板から、2機のヘリコプターが飛び立った。
太く力強い胴体を持ったそのヘリコプター――マーリンは、先に着艦したシーハリアーと入れ替わる形で砂浜へと向かう。
砂浜に到着すると、歩兵らが前進した事で開けた浜辺の上空でホバリングを開始。きゅんきゅんきゅん、と独特の羽音が響き、ローターが吹き下ろす風で砂が激しく巻き上げられる。
マーリンは開けていた右側面のドアから、地上へ1本のロープを下ろすと、それを伝って機内から歩兵が次々と地上へ降りていく。
1分もかけずに降下は完了。マーリンは降り立った歩兵を見送る事なく、機首をこくんと下げて素早く反転し、砂浜を飛び去って行った。
地上では、戦いが続いている。
だが、おかしな事に砲火は一切ない。
歩兵は突撃銃を構えるだけで、発砲を一切しない。
装甲車も、それは同じ。
そもそも、敵の姿も見当たらない。
その代わり、彼らの先にいたのは。
今までの戦いがショーであるかのように、興味深く見物している一般人達だった。