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サングリーズ・チョッパーズ! パート1:撃てないジェシーと撃ちまくるレネ  作者: フリッカー
フライト2:素晴らしきかな強襲揚陸艦ライフ!
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セクション12:スコット、アンバーの代理になる

「はーい、授業始めるわよー。さーさー席に座ってー」

 どこか気だるげなアンバーの声がして、一同は一斉にそれぞれの席の前に戻り、姿勢を正す。

 開始の挨拶をしてから、席に座る。

 しかしその間、ジェシーは妙な不安を感じていた。アンバーの顔色が、明らかに悪かったからである。

 その不安は、間もなく的中した。

「さ、今回の授業は――えっと、揚陸艦からの発着艦について――だけど、スコット少尉。代わりにお願い」

 開始早々、アンバーはスコットに丸投げしてしまったのだ。

 当然、急に振られたスコットは目を丸くする。

「えっ!? なぜオレなんです!?」

「だってあなた、当事者の海軍さんでしょ? それに、今私ちょっと体調悪い……」

 そういうと、アンバーはいそいそとドアを開けてブリーフィングルームを出ていく。

 まるで、最初から授業をやる気などなかったかのように。

 スコットは納得できないとばかりに、席を立って主張する。

「ちょ、ちょっと待ってください! オレにどうやって授業しろと!?」

「そこにプリントとカンペあるから、その通りにやって……」

 去り際に、アンバーはドアから片手だけ出して机の一端を指差す。

 そこには、確かにプリントの山が置かれていた。

「いや、そんな事を言われましても――」

「じゃ、よろしく……うぇぇ……」

 気分悪そうな言葉と共に、力なく振られる手。

 それが向こう側へ消えると、ドアががちゃん、と閉まった。

 ブリーフィングルームが沈黙する。

 しばしの静寂を破ったのは、ため息をついたハルカだった。

「教官、また船酔いか……」

「船酔い!? あの教官、船酔いするのか!?」

「残念ながらそうみたいです、少尉」

 スコットは、ハルカの言葉を聞いて、さらに頭を抱え、プリントの山へ歩いていく。

 そして、手に取り中身を確かめる。

 読みながら、スコットは余計に困り果てている様子だった。

「くそ、これをオレにやらせるってのか……オレ教官の資格持ってねえんだぞ……ったく」

「はーい少尉、自習にすればいいと思いまーす!」

 すると、早速レネが手を上げて主張し始めた。

 だが、すぐにハルカが食いついてくる。

「あんた何言ってるの! また腕立て伏せさせられたい訳!?」

 自習と言えば聞こえはいいが、学生側から訴えるそれは、フリータイムの確保の意だ。

 勝手にサボっている様子を上官に見つかりでもしたら、それこそ罰として腕立て伏せをさせられかねない。

「あの……少尉、大丈夫ですか?」

「……」

 ジェシーは心配してスコットに声をかけたが、返事が来ない。

 それだけ、悩み続けているのだろう。

 そんな彼に、誰かが急に席を立った。

「マスター、私がサポートします」

 シエラだった。

 彼女はスコットの隣に来ると、持って居るプリントを横から覗き込む。

「シエラ?」

「私も少しですけど、発着艦訓練をしていますから、みんなに教える事くらいはできますよ。うん、これくらいなら何とかできそうです!」

 シエラは、確信をもってうなずき、スコットの顔を見上げる。

 スコットは、そんな彼女を見て感じ取れたものがあったのか。

「……そうか。なら少し聞かせてくれ。向こうで打ち合わせだ」

「はい! お任せを!」

 スコットはシエラを連れて、一度ブリーフィングルームへの外へ出た。


 しばらく経ってから、授業はようやく開始された。

 スクリーンの前の立つのは、スコットとシエラだ。

「えー、サングリーズには、このように6つの発着艦スポットがある。この、なんつーか時計の針みたいなマークがある所だな」

 スクリーンには、上から見たサングリーズの図が映っていた。

 甲板に、白いラインで描かれた逆T字状のマークが6つ描かれており、正面から順に1~6とナンバリングされているのがわかる。

 シエラは、差し棒を使いその部分を丸を描いて示す。

 ジェシー達は手元に配られたプリントに描かれた、同じ図を見ながら話を聞く。

「わかるか? 横向きの線はパイロットの頭を合わせる位置だ。そしてこの真正面に向いている線が、艦の正面と同じ方向を指している。これに合わせれば、艦に対して真っ直ぐ着陸できるって訳だ」

「船が斜めに動いてる状態で着艦するのって、結構大変ですからね……向きをちゃんと合わせていれば、速度を合わせるだけでいいですよ」

 カンペと思われる紙を見ながら話すスコットの説明に、シエラが補足する。

「ただ、チヌークはでかすぎてこのスポットには対応してない。だから空軍の皆さんは、このAからDって書いてある専用のスポットを使う事になってる。ちょっとわかり辛いから、気を付けてくれ」

 スコットの説明に合わせ、AからDと書かれた黄色い印を差し棒で示すシエラ。

 2人の息はとても合っていて、初めてとは思えないほどの安心感がある。

「えー、ここまでで、わかりにくい所はあるか? あるなら何なりと言ってくれ」

「いえ、特にはありません。とてもわかりやすいです」

 スコットの質問に、ジェシーが代表して答えた。レネも同調してうなずいている。

「そうか、それはよかった」

「ただ、ひとつだけ聞きたい事がありまして――」

 そこへ、手を挙げたのがエリシアだった。

「何だ?」

「このスポットの中で、一番着艦しやすい場所はあるのでしょうか?」

「着艦しやすい場所? えーそれは――」

 その問いに、スコットは少し戸惑い目を泳がせ始める。

 そこへ、すかさずシエラがフォローした。

「この真ん中辺り――艦橋の正面ですね。ちょうど管制室の正面になりますから、誘導がしやすいと教わりました。逆に前の部分は目印になるものがないから着艦し辛いとも……」

 それぞれの場所を差し棒で示しながら、説明する。

 それを見たエリシアは、安心して笑みを浮かべた。

「ありがとうございます、シエラちゃん。いいフォローですよ」

「いえ、どういたしまして」

 シエラの素直な笑みを見たエリシアは、スコットに顔を向ける。

「少尉も、いい弟子をお持ちになりましたね」

「お、おい、オレをからかう気か……?」

 僅かにたじろいだスコットは、エリシアから視線を逸らす。

 それを見たエリシアは、くす、と小さく笑っていた。

「先輩、何からかってるんですか」

「いえいえ、2人はお似合いだと思っただけです」

 フィリップの問いにも、エリシアは小さな笑みを崩さず答えるだけ。

 それを見たスコットは、こほん、と軽く咳払いをして、カンペを見ながら話を続ける。

「でだ。次に発着艦にまつわるデッキオペレーションについてだが――一同にぜひ体験させてもらいたいものがある、そうだ」

「体験?」

 この場ではあまり聞き慣れない言葉に、レネが首を傾げた。

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