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サングリーズ・チョッパーズ! パート1:撃てないジェシーと撃ちまくるレネ  作者: フリッカー
フライト2:素晴らしきかな強襲揚陸艦ライフ!
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セクション04:王子、激しく怯える

 ジェシーとレネは、休憩室にいた船員からルートを聞く事ができたおかげで、目的地である艦橋のブリーフィングルームに辿り着く事ができた。

 当然ながら、そこには既にアンバーやハルカ、エリシアやフィリップの姿があった。

「で、どうだった? サングリーズの艦内見学ツアーは」

 先に席についているアンバーの問いは、からかうようなものではったが、妙に顔色が悪く、話し方もどこか余裕がない。

「見学ツアーどころじゃなかった……」

 走り回った反動で疲れ気味のレネは、正直に答えた。

「だから言ったでしょ、案内が必要だからって。軍艦ってのは広いんだからさ……」

 アンバーは、はあ、とため息をつく。

「もう予定より30分も遅れたんだからね!」

 ハルカも畳みかけるように指摘する。

 さしものレネも懲りたのか、ごめんなさい、と謝るしかなかった。

 ジェシーも、反論は何もしない。

 あの時休憩室でレネと合流できなかったらどうなっていたかな、と少し考えてしまった。

 ふと脳裏に浮かぶのは、よくわからない問いかけをした謎の男。

 今思えば、あの人は一体何者だったのだろう。

 服装からして、明らかに軍人ではなさそうだったが、艦の兵站を務める軍属の民間人でもなさそうだった。

「あの、教官。少し関係ない話なんですけど――」

「何?」

「今サングリーズに、軍属じゃない人は乗ってるんですか?」

 だからか。

 自然と、ジェシーはアンバーに問うていた。

「軍属じゃない人……? さあ、知らないわ。テレビ局が入ってるなんて話も聞いてないし。艦長さんなら何か知ってるかもしれないけど――どうしてそんな事聞くの?」

「……いえ、何でもないです」

 アンバーも知らないようだ。

 だからジェシーも、それ以上話を進める事はなかった。

 その一方で、アンバーははあ、とため息をつきながら頬杖をつく。

 明らかに気だるげな様子。

 ハルカが、気になって問いかけた。

「教官、何だかさっきから様子がおかしいですよ?」

「ええ、ちょっとおかしいかも――」

 アンバーが言いかけた時。

 ふと、ブリーフィングルームの外から何やら声が聞こえてきた。

「ったく、こんな時に遅刻するとはどういう神経した奴なんだ!」

「し、仕方ないやてシーザー様、道に迷っただけみたいやし――」

 少し前に聞いたような少年の声と、聞き覚えのない少女の声。

 直後、ブリーフィングルームのドアが乱暴に開かれた。

 そこにいたのは、結団式で空軍を痛烈に批判したばかりの王子、シーザー。

 そして、水色の髪を持つ、控えめな印象の少女だった。両手で何やらプリントの山を抱えている。

 王子の出現に、ブリーフィングルームの空気が一瞬で変わる。

「その道に迷うって言うのが――」

 だが。

 シーザーはブリーフィングルームを見回した途端、ある一点――レネに視線が釘付けになってしまう。

 あり得ないものを見たかのように目を大きく見開き、レネを指差す。

「げ、お前はレネ・スクルド!? なぜここにいる!?」

「呼ばれたからに決まってるでしょ。久しぶり」

 一方のレネは、特に驚く事もなく冷淡に手を小さく上げて挨拶する。

「ふ、ふざけるな! 僕は、お前みたいな乱暴者を呼んだ覚えなどないぞ!」

 シーザーがレネを指差す人差し指は、明らかに震えていた。

 恐れている証だ。顔色が真っ青なせいで、隣にいる少女が少し不安がっている様子を見せている。

 王子が纏う空気は、もはや見るも無残に崩れ去ってしまっていた。

「おい陸軍の教官! どうしてこいつを呼んだか説明しろ!」

「えー、私は『優秀な生徒を選べ』って言われたから、それに従っただけ……」

 動揺の表れか、教官に溜め口で問うシーザーだが、アンバーも相変わらず、気だるげに答えるだけ。

「な、何だと……!? こんな乱暴な女が、優秀扱いされるとは……くそっ、どんな頭をしているんだ陸軍はっ! このサングリーズを本気で沈める気なのか!」

「お、落ち着くんやシーザー様!」

 ますます動揺――いや、怯えが増していくシーザーを、少女が訛った言葉でなだめ始めた。

「落ち着いてられるかリューリッ! あいつに、あいつに僕は昔ひどい目に遭ったんだ! あいつは関わってはいけない女だ! そんな奴がいる所なんかにいられるか!」

 だが、シーザーの動揺が収まる気配はない。

 リューリというらしい少女を無視して、シーザーはブリーフィングルームを逃げるように出て行ってしまう。

「誰かー! レネ・スクルドを即刻サングリーズから降ろせ! ろくな事にならないぞ!」

「シ、シーザー様ーっ!」

 助けを乞うように廊下へ叫ぶシーザーの後を追って、リューリも机の端にプリントを置いてから姿を消してしまう。

 ブリーフィングルームが、気まずい沈黙に包まれる。

 王子が主導するはずのオリエンテーションは、一瞬にして台無しとなってしまった。

「相変わらず中身ない男」

 だが、その犯人たるレネは、頬杖をつきながらつまらなさそうにつぶやくだけ。

 その場違いな言動に、ジェシーは思わず質問していた。

「……ねえレネ、王子に一体何をしたの?」

「さあねー、覚えてない。1回喧嘩したくらいしか」

 喧嘩。

 その単語を聞いただけで、ジェシーはレネがどんな事をしたか察してしまった。

 シーザーが過剰なまでに苦手意識を持ったとなれば、容易に想像がついてしまう。

 恐らく、口にするのも憚れるほど、ひどい事をされたのだろうと。

「誰かー、多分あれオリエンテーションのプリントだと思うから、配ってくれるー?」

 そんな中。

 アンバーが、面倒くさそうに一同へ呼びかけていた。

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