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サングリーズ・チョッパーズ! パート1:撃てないジェシーと撃ちまくるレネ  作者: フリッカー
フライト2:素晴らしきかな強襲揚陸艦ライフ!
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セクション03:謎の男は問いかける

「はあ、はあ、はあ――」

 ジェシーは息が切れそうになりながらも、複雑に入り組んだ廊下を駆ける。

 途中行き交う船員に何度か聞いてみたものの、手掛かりが見つからない。

 なので今の所、しらみ潰しに探すしかない。

 ただでさえゴールが見えない迷路の中で、はぐれた恋人を探すのは、さらに迷路の深みにはまっていくような感覚がする。

「はあ、はあ、レネ……!」

 レネを独りにさせられない。

 もし知らない男に絡まれたら、どうなるかわからない。レネではなく、絡んだ相手が。

 乗り込んで早々問題行動を起こすなんて、シャレにならない。

 だから、何とかして見つけないと。

 ジェシーはそんな思いだけを頼りに、廊下を進んでいく。

 ふと目の前に、開けた部屋の入口が見えてきた。

 ドアがなく、談笑する人の声が聞こえる所を見ると、どうやら休憩室のようだ。

 あそこにいる人に聞いてみよう。

 そう思って、休憩室へ滑り込もうとした直後。

 急に、誰かが休憩室から出てきた。

 陰から姿を現したので、気付けなかった。

「あっ!」

 そう叫んだ直後。

 ジェシーは現れた人影に正面からぶつかり、強く尻餅をついてしまった。

「いたた……ご、ごめんなさい……」

 真っ先にジェシーは謝る。

 相手は倒れなかったようで、未だ立っている。もしかしたら、怒っているかもしれない。

 そう思いつつ顔を上げた途端、ジェシーは息を呑んだ。

 明らかに軍人らしからぬ風貌をした男が、そこにいたからだ。

 口元が無精ひげで覆われ、黒い革ジャンを羽織っている、いかにも豪放そうな顔立ち。

 ガムでも噛んでいるのか、くちゃくちゃと音を立てながら、顎を上下させている。

 彼は、両手をポケットに入れたままの姿勢で、まるでチンピラのような目つきでジェシーを見下ろす。

「あ――」

 背筋の毛が逆立つ。

 関わってはいけない人間に、関わってしまった感覚。

 怒りを買って暴力を振るわれてしまいそうな雰囲気。

 相手が何者なのかを探る前に、防衛本能が先走ってしまう。

「その……悪気はなかったんです! ちょっと、人を探していただけで――」

 立ち上がりながら、事情を説明し始めるジェシー。

 すると。

「お前、その制服――学園の候補生か?」

 男はジェシーの制服を見て、冷たい声で問うた。

 見下ろされているせいもあってか、妙に威圧的。

 回答を、ジェシーは拒む事ができない。

「あ、はい……」

「嬢ちゃんのくせしてズボン履いてるたあ、変わった趣味してるんだな」

「……!?」

 その言葉に、背筋が凍り付く。

 一瞬、自分が男だと見抜かれたのかと思ったから。

「……ま、最近の制服は女でもズボンは選べるらしいし、どうでもいいか」

 だが、それは杞憂だったようだ。

 男だとバレなかった事については安心できたものの、まだ威圧されている感覚は消えない。

「それより、そのウイングマーク――パイロット候補生と見た。何に乗ってる?」

「アパッチ、ですけど……?」

 恐る恐る答えると、男は僅かだが目を見開いた。

「アパッチ? お前が? とてもそのようには見えねえな」

 疑うように顔を近づけ、ジェシーの顔をじっと覗き込む。

 自然と顔を引き、目を逸らしてしまうジェシー。

 見栄を張っていると思われているのだろうか。

 ジェシーはアパッチに乗りたくて乗っている訳ではないのだが、その弱みを今目の前の男に知られてはいけないと直感した。

「アパッチに乗ってる奴は、そんな虫も殺しませんって面はしてねえ」

「その、いろいろと、事情がありまして――」

「……そうか」

 すると、男は顔を離す。

 追及するのをやめたのだろうか。

 そうジェシーは思い、逸らした目を戻したが。

「なら、1つ聞いてみるか」

「な、何でしょう?」

「お前は、戦場でどう撃たれたい?」

 男は、ジェシーを試すように眼差しを鋭くして問うた。

「ど、どう撃たれたい……?」

 その問いの意味が、ジェシーにはわからなかった。

 だが、男の猛獣のような眼差しが、さあ答えろとばかりに答えない事を許さない。

 ジェシーは、再び視線を逸らしながらも何とか言葉を絞り出す。

「で、できるなら、撃たれたくないです……」

 すると、男の眼差しが急に鋭さを失った。

 答えを聞いた途端、興味をなくしたかのように。

「……そうか。つまらん事聞いたな」

 その声にも先程までの威圧感が消え、気怠そうなものになっていた。

 ますます男の意図がわからないジェシー。

「邪魔したな」

 もう用はないとばかりに、男は革ジャンを翻してジェシーの前を去っていく。

 何が何だかわからないまま、その後ろ姿を見送っていると。

「ジェシーッ!」

 ふと、聞き慣れた声が背後からした。

 はっと振り返ると、こちらに急ぎ足で駆け寄ってくるレネの姿が。

「レネ! どこ行ってたの? 探したんだよ!」

「それはこっちのセリフ! というか、あいつ誰?」

 レネの視線が、ジェシーの背後に向けられる。

 顔を戻すと、さっきの男がまだいた。

 背を向けたまま、足を止めている。

「1つだけ忠告してやる、か弱い嬢ちゃん」

 すると男は、顔を向けないまま語り始めた。

「撃たれたくないって思ってるようじゃ、戦う人間として半人前未満だ。悪い事は言わねえ、さっさとやめちまいな」

 そして、今度こそジェシーの前を歩いて去っていく。

 その足音が、妙に大きく響く。

「何言ってるの、あいつ?」

「さあ、俺も知りたいよ……」

 結局ジェシーもレネも、男が何者なのか知る術はなかった。

 だが、最後に言い残した言葉は、ジェシーの胸に刺さる何かがあった。

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