セクション16:シエラとの再会
少女――シエラはその声に答えるように、一同の元へ駆け寄ってきた。
「お久しぶりです! 待ってましたよ――って、あれ? ジェシーにレネ、ハルカさんも?」
そこで、ようやくジェシー達の存在に気付くシエラ。
目を丸くする彼女に対し、やあ、とジェシーは挨拶した。久しぶり、とレネも続く。
久々に直接顔を合わせる友人は、以前と同じ雰囲気のままだった。
「どうして、いるの!? もしかして、サングリーズの選抜メンバーに――」
「そうよ。だからこうやって一緒に来たのよ」
エリシアが事情を説明する。
「ごめんね、シエラ。今まで言う機会がなくて……」
ジェシーはSNSで告げていなかった事を詫びたが、事情を飲み込んだシエラの表情は、驚きから喜びへと変わっていく。
「そう、なんだ! なら、またみんなと一緒に飛べるんだね!」
「また一緒に、ってシエラも選抜メンバーに?」
「うん」
「やっぱり! エリシア先輩も選ばれたならもしかしてって思ってたけど、本当にそうだったんだ!」
レネの疑問が解決した後、次はハルカが疑問を口にする。
「そういえば、ロメアとルビーは? 見かけないけど、元気にしてる?」
「はい、元気ですよ。2人も選抜メンバーに選ばれたんです。乗るのはサングリーズじゃないですけどね」
「あの2人も……なんか、すごい偶然ね」
「そうだ、よかったらみんなで集まって女子会やります? まだ結団式まで時間ありますし」
女子会というシエラの提案に、おお、と一同の声が揃う。
「さんせーい!」
「調子がいいのね、レネは……まあでも、たまにやりたいわね」
「何だか思い出しますね、中等部の頃を」
レネ、ハルカ、エリシアの3人が揃って乗り気なのに対し、ジェシーだけは渋った表情を浮かべていた。
なぜなら――
「ジェシーもいいでしょ?」
「あ、いや、俺は別に――」
「えーどうして?」
「いや、えっと、その――」
どう言い訳するか悩んでいると、不意にアンバーがジェシーの隣に割り込んできた。
「ちょーっと失礼! シエラちゃん、でいいのかしら? ジェシー君って、前から女子会に出てたのかしら?」
「あ、はい、そうですけど……」
妙にストレートに問うアンバーに、シエラは戸惑いながらも答える。
さらに、アンバーは奇妙な問いを投げかける。
「それは、どうしてなの? 同じ女の子だから?」
「は、はい……」
シエラもアンバーの問いの意味を理解しかねているのか、戸惑いが増している。
その問いを横から聞いていたハルカは、はっと何かに気付いた様子だったが、そんな彼女の心理などお構いなしに、アンバーは妙に安心した笑みを浮かべた。
「そうか、ならよし。ジェシー君、行ってきなさい女子会に」
「え!?」
ジェシーは、アンバーの指示に驚愕した。
1人の教官が生徒の私生活に干渉するというのも予想外だが、何よりそこは止めるのが普通なのではと思っていたから。
普通の教官なら、女だらけの空間に男を1人で入れるなど、倫理的に許すはずがない。
「あの子、昔の友達なんでしょ? なら、この機会にしっかり交流を深めてきなさい! これは命令よ!」
「りょ、了解、です……」
アンバーの気迫は妙に強く、ずい、と体を乗り出してまで指示する様に、ジェシーも理由がよくわからないまま、しぶしぶ了承せざるを得なかった。
「あの、教官……?」
「ちょっとハルカちゃんも、耳貸して!」
身を引いたアンバーは、さらに疑問を抱く様子のハルカに何やら耳打ちまでし始めている。
彼女の行動は、ますます謎めいている。え、なんでですか、とハルカが驚いているのも、妙に怪しい雰囲気を醸し出している。
シエラも不思議そうに見ていたが、まあいっかとばかりに顔を戻す。
「教官さんもああ言ってるんだし、いいでしょ?」
「あ、そ、そうだね……」
ジェシーは、シエラに対し苦笑を浮かべるしかなかった。
しかし、困ってしまった。
シエラもまた、自分が男である事を知らない。
故に、女子会をする事には抵抗があったのだ。
いつかは言わなければならない事だが、もし女子会の最中で何かの拍子に男である事がバレたらどうしよう、と考えてしまう故に。
「おいシエラ、そいつらお前の友達か?」
そんな時。
不意に見知らぬ男の声が、シエラを呼んだ。
見ると、シエラの背後にいつの間にか1人の若い男が立っていた。
髪はややぼさぼさで、シエラと異なりフライトスーツ姿。その肩には、少尉を意味する階級章が付いていた。どうやら実戦部隊の隊員のようだ。
「あ、マスター!」
シエラは彼に振り返ると、彼を予期せぬ呼び方で呼んだ。
「マスター!?」
一同の驚く声が揃ってしまう。
それに男は明らかに狼狽したようで、シエラと真っ直ぐ向き直った上で、両肩にしっかり手を置き訴え始めた。
「おいシエラ! その呼び方はやめろって言ってるだろう! ましてやこんな人前で!」
「いえいえ、私は弟子なんですからマスターと呼ばない訳には行きません!」
「オレ、弟子とる師匠なんて柄じゃねえぞ!」
「じゃあ、『プロフェッサー』にでもします?」
「なんで大学の先生みたいな流れになる! オレは偉くなりたい訳じゃねえんだ!」
何やらお笑い番組のようなやり取りを始める2人を見て、一同は唖然としてしまっていた。
彼は一体何者なのか。
なぜシエラは弟子を自称しているのか。
ジェシーの頭の中を過る問いは、一同もまた同じに違いない。




