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セクション15:セネット海軍基地

 ヘリコプターは、とても不安定な乗り物だ。

 翼で空気を切り裂いて飛ぶのではなく、ローターを使って空中に浮遊する形で飛ぶのだから。

 もちろん操縦は簡単なものではなく、一輪車を操るような繊細さが求められる。

 そんな操縦も、ジェシーにとってはもう慣れたものだが、今は妙に不安を拭えない。

 いや、アパッチに乗る時はいつもそうだった。

 まるで綱渡りをしているような感覚。

 足を踏み出してしまった以上、方向転換はできない。後戻りは危険すぎる。

 一歩足を踏み間違えれば、奈落の底へ真っ逆さま。

 高所からの眺めを楽しんでいる余裕なんてない。

 ジェシーにできるのは、小刻みにでも前に進む事だけ。

 そう。

 たとえその先に、望まない未来(ゴール)が待っているのだとしても――


 山を右に見据えながら内陸を飛行していくと、ほんの数分で海原が見えてきた。

 スルーズ本島は面積が狭いので、飛んでいけばどこへ行くにもすぐに着けてしまうのだ。

『セネット管制塔(タワー)、こちらリザードチーム。着陸許可を願います』

 アンバーが、代表して着陸許可を求めてきた。

『了解、リザードチーム。滑走路13への着陸を許可する』

 管制官の返答が返ってくる。

 間もなく着陸だ。

 すると海岸線沿いに、小さくだが飛行場が見えてきた。

『教官、前方に飛行場が見えてきました。あれがセネット基地ですか?』

『ええ、そうよ』

 確かめるようなハルカの問いに、アンバーが答えた。

「何か、港もない……?」

 レネが疑問を抱くのも無理はない。

 その基地のすぐ近くには、大規模な港があるのだ。

 しかもそこに停泊しているのは、灰色の軍艦ばかり。

 ここが、目的地たるスルーズ海軍のセネット基地。

 海軍唯一の航空基地にして、軍港に隣接して航空基地が存在する唯一の海軍基地である。

「あっ、あれって――!」

 さらに近づいていくと、レネが軍港にあるものを見つけて指差した。

 他の軍艦とは明らかに違うシルエットで、しかも明らかに大きい。ジェシーもすぐに見つけられた。

 客船のようにすっきりとした、無駄のないシルエット。

 艦の大半を覆う平らな飛行甲板の先端は、何やらジャンプ台のように上反角が付いている。

「サングリーズ」

 ジェシーの口から、自然とその名が出た。

『それにしても、大きいですね……』

『さすが、スルーズ史上最大の軍艦だな……』

 エリシアとフィリップも、その大きさに感心している。

 あれが、これから自分達が乗る船。

 見れば、波止場では複数の人が行き来している。まさに出港に向けた準備中なのだろう。

 そんな様子を見降ろしながら、ジェシーらの機体は軍港付近を通過した。

『さ、おしゃべりはこのくらいにして、着陸よ』

 アンバーの指示に、全員の了解、の声が重なる。

 目の前にある滑走路を見据え、着陸進入開始だ。

 編隊を保ちつつ、3機は高度をゆっくり下げていく。姿勢にも全く危なげはない。

 滑走路上に這うように到達した頃には、既に速度は歩くような遅さになる。

 そして、ゆったりと降り立つように、3機の車輪(ギア)が滑走路についた。


     * * *


 セネット基地には、多種多様な航空機が駐機場(エプロン)に並んでいた。

 4発の対潜哨戒機P-3CTオライオン、小型の艦載ヘリコプターAS565パンテル、VTOL戦闘機シーハリアー、大型の輸送・対潜ヘリコプター・マーリン。

 陸軍基地ではイベント時以来見られない多様性は、機体から降りたジェシー達を圧倒するものであった。

「随分いろんな機体がいますね……」

「そりゃ、海軍の航空基地がここしかないならこうもなるわよ」

 ジェシーの口から出た言葉に、アンバーが補足する。

「あっ、何か滑走路の脇にジャンプ台みたいなのがあるんだけど!」

 ふと、レネがまたある一転を指差した。

 それは、滑走路の近くにある、大きなジャンプ台だった。

「あれはシーハリアーの発艦訓練用よ。サングリーズにもついてたでしょ、スキージャンプ。あれの練習用」

「スキージャンプ? ああ、あれね」

 ハルカの説明に、納得するレネ。

 ちょうどその時、ジェットエンジンの甲高いタービン音が響き渡った。

 ジャンプ台の奥にいた、1機のシーハリアーがフルスロットルで駆け出したのだ。どうやら訓練中の機体のようだ。

 シーハリアーはスキージャンプのごとくジャンプ台に踏み込むと、その力で放り投げられるような形で空へと舞い上がる。

 その滑走距離は、滑走路の4分の1も使っていない。普通のジェット戦闘機ではありえない短さながら、シーハリアーは平然と大空へ飛んで行った。

 このジャンプ台は、シーハリアーのようなVTOL戦闘機発艦用のもので、スキージャンプという通称で呼ばれている。

 上向きに機体を放り投げるように飛ばす事で、カタパルトがなくても短距離で離陸させる事ができるのだ。

「はあ、できるならここに戦闘機で降りたかったなあ……」

 飛び上がったシーハリアーの影を見送りながら、フィリップが残念そうにつぶやく。

「フィリップ君、いいじゃないですか。ヘリにはヘリにしかできない事があるんですから」

「え? いや、別にヘリが嫌って訳じゃないんですけど……」

 だがエリシアの言葉で、急にフィリップは戸惑って目を泳がせてしまう。

「もう過ぎた事を考えても、仕方がないじゃないですよ。今は――」

「あ、エリシアさーんっ!」

 そんな時。

 ふとエリシアを呼ぶ少女の声がした。

 その声は、ジェシーも聞き覚えがあるものであり、自然とエリシア共々声のした方向へ振り返っていた。

 そこにいたのは、白い制服を着た1人の少女。

 髪は薄茶色のショートカットで、眼鏡をかけている。

 純粋さを絵に描いたような顔立ちの彼女は、エリシアを見て嬉しそうに手を振っている。

「シエラちゃん!」

 その姿を見るや否や、エリシアは嬉しそうに彼女の名を呼んだ。

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