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セクション13:搭乗

 いよいよアパッチに乗り込む時が来た。

 ジェシーはアパッチの周りを時計回りに回って、異常がないか点検。

 不格好と自ら評するヘリの外部を点検するのは複雑な気持ちになるが、もう慣れた。

 それを終えたら、いよいよレネと共にコックピットへ乗り込む。

 位置はジェシーが後席、レネが前席になる。

 ジェシーが乗り込むべく機体に足を駆けようとした時、レネが声をかけてきた。

「こうやって一緒に乗るのも久しぶりだね、ジェシー!」

「あ、うん、そうだね」

 レネは相変わらず上機嫌だ。まるでピクニックにでも出かける子供のようでもある。

 とはいえ、ジェシーは彼女ほど楽観する事ができない。

 自然と、レネから視線を逸らしていた。

「……どうしたの? もしかして、不安なの?」

 それを、レネに見抜かれてしまう。

 心配そうにジェシーの顔を覗き込んできた。

 う、とジェシーの顔が熱を帯びる。

 目前にあるルビーのように透き通った瞳には、混じり気が全くない。

 そんな目でストレートに問われてしまうと、何も反論する事ができない。

「ま、まあ、緊張してるって言うか――」

「大丈夫。あたしが守ってあげるから。ね!」

 すると、レネは花のように麗らかな笑みを満面に浮かべて、励ましの言葉を贈った。

 どきり、と胸が高鳴ってしまう。

 それを見ただけでがんばらなきゃ、と思ってしまう単純な自分が、恥ずかしくなるほどに。

 レネはくるりと背を向けると、右側のハッチから自らの体をコックピットの前席へ潜り込ませる。

 ジェシーも、その後を追うように後席へと体を潜り込ませた。

 うう、やっぱりレネはかわいい。不謹慎にもそう思いながら。


 シートベルトをしっかり絞めて、ヘルメットを被る。

 そして、コックピット横にあるボックスから、右目部分に着けるレンズを取り出し、ヘルメットに装着する。

 これで、身支度は整った。

「行くよ、レネ」

「うん」

 機体の右側に立っている整備士が片手の指を振る合図を送ったのを確かめて、いよいよエンジンの始動だ。

 まずは、補助動力装置のスイッチを入れると、小さくながらタービン音が鳴り始めた。

 これで電力が行き渡り始め、各種装置の起動が可能になる。

 キャノピーのハッチを閉めてから、装置のセッティングを開始。

 コックピット内のディスプレイを起動。モノクロでさまざまな表示が映し出される。

 ジェシーがサイクリック操縦桿、コレクティブレバー、フットペダルを操作し、ローターブレードの角度がしっかり変わる事を確認。

 そして、レネの操作で機首にあるセンサーがぐるりと半回転し、カメラ部分が正面に向く。

 さらに、右目のレンズに表示が映る事を確認した。

「うーん、やっぱ離陸の準備ってテンション上がるーっ!」

 レネが、楽しそうにつぶやいている。

 それに対し、ジェシーは何もコメントしないまま、無線のスイッチを入れる。

『ジェシーちゃん、レネちゃん、ハルカちゃん、聞こえますか?』

 すると、早速声が入ってきた。エリシアのものだ。

『こちら、チヌークのエリシアです。コールサインはブルーバード』

「あ、はい。聞こえます先輩」

 ジェシーが代表して答える。

 左隣を見れば、そこにいるチヌークのコックピットに人影がある。

 ヘルメットを被ったエリシアだ。

『話は聞きましたよ。ジェシー君達もサングリーズの特別航海に参加するんですね。また一緒に飛べる日が来るなんて、ちょっと嬉しいです』

「い、いや、そんな……」

『そんな訳でジェシーちゃん、レネちゃん、記念に1枚撮らせてください』

「え?」

 コックピットの中のエリシアが、カメラを構えたのが見えた。

 首から下げていたカメラであろう事は、容易に想像がついた。

 急なお願いに、戸惑うジェシー。

 だが、エリシアは待ってくれなかった。無線越しなので仕方がないと言えば仕方がない。

『はい、チーズ!』

 そんな合図をされた途端、レネは得意げにVサインを作って笑い、ジェシーもなぜか乗せられるように手を振るポーズをしたが、表情をうまく作れた自信はなかった。

 かしゃ、とシャッターの音が無線越しに聞こえた。

『ありがとうございます。ハルカちゃんの分も、後で撮らせてくださいね。ここからだと陰で見えませんから』

『あ、はい』

 話を振られたハルカも、少し戸惑っている。

 ハルカとアンバーが乗る機体はジェシーとレネが乗る機体の右隣にあるため、左隣のチヌークからは死角になって見えないのだ。

『あー、少し聞いていいかしらエリシアちゃん?』

 と。

 アンバーがふと、エリシアに質問してきた。

『はい、何でしょう?』

『ジェシー君達とは先輩後輩って言うより()友達って関係なのね?』

『あ……はい、言われてみれば、そんな感じですね』

『え? ()友達って事でいいのかしら?』

『ええ、そうですが……何かおかしいでしょうか?』

 妙に女という言葉を強調して質問するアンバー。

 なぜそのような事を聞くのかわからなかったが、ジェシーはふと女友達という単語から、ある事を思い出した。

(そういえば、エリシア先輩って確か、俺が男だって知らないはず……)

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