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セクション12:先輩はヘリマニア

「エリシア――スタリオンちゃんね。初めまして。私は――」

「結構ですよ、アンバー大尉」

 アンバーが名乗ろうとするのを、エリシアは自ら遮った。

「大尉殿の事は、ジェシーからいろいろと伺っております」

「え、そうなの?」

「何でも、アメリカ陸軍からいらしたそうですね。中東では実戦にも参加されたとか」

「……ええ、そうよ?」

「そんな大尉殿に1つお伺いしたい事がありまして――」

 少し困惑気味のアンバー。

 そんな彼女に、エリシアはさらに一歩歩み寄り、

「大尉殿にとってアパッチとはどんなヘリコプターなのですか?」

 目を輝かせて、さらに困惑させる問いを投げかけた。

「へ!?」

「ローターを含む全長17.73メートル、レドームを含めた全高4.9メートル、基本空虚重量5352キロのアパッチ・ロングボウ――いえ、E型ですからアパッチ・ガーディアンでしたか。攻撃力・生存性共に高い、世界最強の名にふさわしいヘリですよね。そんなヘリを操れる事は誇らしい事なのでしょうか?」

「ええ……まあ、そうね」

「大尉殿がアパッチで一番信頼している点は何なのでしょうか? 飛行性能ですか? 攻撃力ですか? 最先端のセンサーですか? それとも、パイロットを守る生存性ですか?」

 いつしかエリシアの口調は若干早口になり、目の輝きも増している。

 明らかに熱を帯びている。

「あ、あの、ちょっと――」

 そんな彼女の、有名人に一大スクープのインタビューしようとする記者のごとき質問攻めには、アンバーもたじたじの様子で一歩下がってしまう。

 その様子には、見ていたジェシー達も唖然とするしかない。

 ああ、また始まった、と。

「いえいえ、アパッチに乗ってよかったと思った瞬間があれば――」

「あのー、先輩。先輩」

 尚も質問攻めにするエリシアに、背後から誰かが呼びかけた。

 はっと我に返ったエリシアは、振り返って見下ろす。

 そこには、彼女よりも背が低い、フライトスーツ姿の少年がいた。

「あ……フィリップ君?」

「お話中悪いけど――おやっさんが呼んでましたよ」

 フィリップと呼ばれたその少年は、申し訳なさそうな顔をしながらも、用件を告げる。

 途端、何かを思い出したのか一気に顔を赤くしてしまうエリシア。

「し、失礼しましたっ! 用事があるのに、こんな我を忘れてしまうような事を――! そ、それでは、私はこれでっ!」

 顔を戻して手短に謝ったエリシアは、飛んでいくようにチヌークの元へと向かっていく。

 いや、逃げるという例えの方が正しいのかもしれない。

 そんな彼女の後姿を、アンバーは唖然として見つめていた。

「あ、あの子――何奴?」

「も、申し訳ないです。先輩、大のヘリマニアでして、ヘリの事が絡むとなかなか止まらなくなっちゃうんですよ……」

 フィリップが、苦笑しながらアンバーに補足する。

 そうなの、とアンバーがジェシー達に振り返ると、3人は迷わず揃ってこくん、とうなずいて答えた。もちろん、苦笑しながら。

「さっきもアパッチのスペック言ってましたけど、世界中のヘリのスペックを全部暗記して空で言えるくらいですから……」

「暗記! ははあ、たまげたなあ……」

 ジェシーが補足すると、アンバーは感心した様子でうなずく。

 するとアンバーは納得したのか、フィリップに顔を戻す。

「……で、フィリップ君だったっけ、君。男子にしては随分背が低いのね」

 そして、素直な感想を述べた。

 途端、フィリップが動揺する。明らかに悪い意味での。

「な、何ですかそれ! そう言われると、傷付きます。気にしてるのに……」

 フィリップは、拗ねるように顔をうつむけてしまう。

 言われて、ジェシーはフィリップの背がアンバーよりも低い事に気付く。

 確かに、男子としてはあまり背が高くない。アンバーよりも低いという事は、自分と大した違いがないのかもしれない、とジェシーは感じた。

「カルシウムが足りないんじゃないの?」

「あんたが言うなっ!」

 レネの指摘に、すかさず突っ込むハルカ。

「まあ、それは置いといて。もしかして君とあの子も、特別航海に参加するの?」

 一方アンバーは、フィリップにそんな事を問う。

「はい、そうですけど……」

 フィリップはそれに迷わず答える。

 その問いと返答に、ジェシー達は驚いた。

「エリシア先輩も、特別航海に?」

「あ、うん。選抜メンバーとしてここの荷物運びするついでに一緒に行くって……」

「そう、だったんだ……」

 代表してフィリップに聞いたジェシーは、改めてチヌークに目を向けていた。

 エリシアが、側にいるレイと何やら話をしている。

 自分の知っている人が、まさかサングリーズに一緒に乗るとは。

 てっきり乗る学生は自分達だけだと思っていた故に、全く予想していなかった。

 とはいえ、エリシアは中等部の頃から優秀な成績を出していた。そう考えれば、特別航海のメンバーに選抜されても、全く不思議ではない。

「あの、教官。空軍からも学生を派遣するなんて聞いてませんでしたよ?」

「あれ、言ってなかったっけハルカちゃん?」

「言ってないです」

 ハルカが、そんなジェシーに代わってアンバーに指摘する。

「空軍も、という事は海軍からも候補生が派遣されるんですか?」

「そうよ。本当に言ってなかったっけ?」

 ジェシーの疑問に答えたアンバーは、再び言ってないです、とハルカに指摘されていた。

「海軍からも? じゃあ、シエラとかも一緒かな? ねえジェシー?」

「さあ……」

 そして、ジェシーはレネの疑問にそれだけしか答えられなかった。

 海軍分校にも友人はいるが、選抜されるほどのいい成績を出していたかの確証が持てなかった故に。

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