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探すようです

 ゴロリ達は無事、風呂からあがることができた


 ゴロリは自分の洋服に腕を通しながら

 アケミが風邪を引かないように自分の分のタオルを渡す


 ロッカーなどという気が利いたものもなかったので

 アケミの洋服の上にゴロリの洋服を置き、風呂に行っていた


 しないよりはマシ程度にゴロリは思っていたが

 アケミの服は無事だったため、効果はあったとゴロリは思った


「気持ち良かったですねっ」


 仕切りも本当に簡素な作りなので

 どこの方向から見えてもおかしくない


 ああ、とゴロリは短くアケミに返事をして周囲を見渡すと

 未だに下着姿でうろうろしている赤髪の少女を確認した


(何をやってるんだあいつは?)


 時折しゃがんでは勝手に人の服を調べているように見える


「……気になりますよね」


 ゴロリはアケミの言葉に数回頷き

 赤髪の少女を目で追っていた


 そんなことをしていると、ゴロリと赤髪の少女は目が合った

 ゴロリは目が合って目線をそらす所か、赤髪の少女を睨み付けていた

 赤髪の少女は観念したようで、ゴロリ達に近付いてきた


「……あのさ、頼みがあるんだけど」


「どうした?」


 アケミがワンピースに腕を通していると、赤髪の少女はやってきた

 ゴロリはその顔に差し迫ったものを感じ、詳しく聞くことにした


「薬草の依頼がなかったから

 盗賊を拘束してくれって依頼を受けたんだけど、間に合いそうもなくてさ

 おっちゃん、暇なら手伝ってくれないかな?」


「……構わない。手がかりは?」


 ゴロリが即答した理由は二つあった

 一つは赤髪の少女には借りがあったこと

 もう一つは薬草の依頼は実質独占してしまっているという事実からだった


「そ、そうか。ありがと

 ……ふくよかな女で、洋服を売る路上商をしていた奴らしい」


 そいつか、とゴロリは思った。案外被害者が多かったらしい


「丁度いい。そいつには俺もやられて探していた」


「そうか、心強いなっ!

 もし成功したら報酬は多めにとっていいからな」


 そんなこともできるのかとゴロリは少し思った


「ところで、なぜ貴様はそんな格好でここにいたのだ?」


「い、いやぁ。盗賊ならさ、服とかとるかなって思ったんだ」


 それはそれでもう少しやり方があっただろうとゴロリは思った


「……期限はいつですか?」


 いつの間にか着替え終わっているアケミが

 身を乗り出して赤髪の少女に聞いた


「今日の夜までだっ!」


「き、今日の夜だと!?」


 ゴロリは驚愕した

 本日は既に日が陰りだしていた


「うん。だからあたしはここに賭けたんだっ!

 勘だよ、勘」


 ゴロリは赤髪の少女の言葉が頭に入ってこなかった


「ご、ゴロリさんっ」


 ゴロリはアケミが言わんとすることは直ぐにわかった


「まぁいい、貴様はここにいろ。俺達は外を探すっ!」


「うんっ、ありがとな!」


 赤髪の少女に付き合わず、ゴロリはアケミを連れて銭湯を後にした




 ゴロリ達は街を駆けづり回って

 通行人や、商人、衛兵にも聞いていったが見ていない一辺倒だった


「くっ、やはり姿を眩ましているのか」


「そ、そのようですね」


 アケミはゴロリに付き合った疲れで、息が荒くなっていた


「あと聞いていないところは一つだが……」


 ゴロリ達がいっていないのは訓練所改め、奴隷屋のある通りだった

 ゴロリはアケミが嫌な記憶を思い出すのではと思い

 その通りだけは避けていたのだ


「い、行きましょう、ゴロリさん。時間がありません!」


「わかったっ!」


 ゴロリ達は奴隷屋のある通りへ急いだ




「ひひ、太った女ですかい? 知りませんなぁ」


「知らないわっ」


「知らんっ」


 次々とゴロリが聞いていくが

 この通りの人にも似たような返答をされてしまったと思った


「……ご、ゴロリさんっ。ちょっと待って」


「ああ、すまない」


 散々走ってアケミは疲れてしまったようだ

 ゴロリは奴隷屋とは距離おきつつ

 一旦、息を整える位の休憩をすることにした


 その時であった

 袋状にした風呂敷の様なものを背負う少女が

 ゴロリの目に止まった


 風呂敷を背負った少女は奴隷商人と数秒話し

 ゴロリ達を見ると、反対側の屋根へ跳んだ


「アケミ、怪しい人間を見つけた」


「は、はいぃっ」


 アケミは息を整えてはいたが、ゴロリも心配は残った


「緊急だ。今から貴様を指揮する。俺を背負え」


「えっ、ええぇっ!?」


 アケミの叫びは天高く轟いた


「奴の身体能力を越えるならこれしかないっ!

 急げ、アケミ!」


「む、無理ですよ!」


 無理。そう思うのは普通だとゴロリは思った


 アケミはゴロリより頭一つ分位小さく、すらっとしているので

 ゴロリのような筋肉ダルマを持ち上げる力はないといえた


「無理ではない、やるのだ!」


 ゴロリも心を鬼にした

 鬼にせねば彼女は自分を背負えない

 一瞬ゴロリはちょっと何しようとしているのかわからなくなった


「は、はい……」


 アケミは渋々といった様子で

 後ろに向かって手を伸ばし、しゃがんだ


「走れのろまぁっ!」


 ゴロリは易々とアケミの体を跨ぎ

 彼女の肩に掴まると号令をかけた


「はいっ!」


 アケミはゴロリの膝の辺りを持ち、易々と背負った




「……ここまでくれば」


 風呂敷を背負った少女は屋根を跳び移りながら独りごちた

 少女は安心したのか、一旦止まって背後に目をやる


「いたぞ。あいつを追え、穀潰しぃっ!」


「はいっ!」


「うわぁあ!?」


 風呂敷を背負った少女が見たのは

 ゴロリを背負ったアケミが屋根を跳んでいるところだった

 ゴロリ達を見て慌てた少女は風呂敷を背負い直し、逃げていった


「すまん、すまんなぁ。アケミ」


「急に素に戻らないで下さい、重いですぅっ!」


 何も悪くないのに怒鳴られるアケミにゴロリは思わず謝ったが

 そうしてしまうとアケミの動きが鈍り、かえって危なくなった


 そもそもアケミもゴロリの能力を察しているらしく

 ゴロリは救われる思いをした


「……馬車馬の如く走れ、小娘ぇっ!」


「は、はいぃっ!」


 ゴロリは全力で皮肉をいった

 せめて、自分が悪者になりたかった

 そんなゴロリを尻目にアケミは何故か顔を赤く染めていた


「うっそ。速過ぎ――くっ」


 ゴロリ達は風呂敷を背負った少女に迫っていた

 風呂敷を背負った少女は距離を取るために屋根から跳び降りた




「はぁ、ぐぅっ……」


 路地裏を走る風呂敷を背負う少女は息が乱れていた


「あれだ。ぶちかませ、小娘ぇっ!」


 ゴロリは風呂敷を背負う少女を確認すると指を差す


「た、たぁああっ!」


 アケミはゴロリを背負ったまま

 風呂敷の少女に体当たりした


「うっ――!」


 少女はアケミに体当たりされて倒れた

 風呂敷の中身がその場でぶちまけられた


「……もういいぞ、アケミ」


 風呂敷の中身は沢山のカードだった


「……はい」


 アケミはゴロリをゆっくりと降ろした


「大した量だ。どうやって集めた?」


 ゴロリは倒れた少女を睨み付ける

 発する雰囲気は何時になく険悪だった


「……お、お母さんが集めた」


 ゴロリに睨み付けられ、金縛りにでもあったように少女は震えた

 あの女店主の娘か、なるほど似ているはずだとゴロリは思った


「関係ないというのか」


「う、うん」


「ほう。そういえば助かると教えられたのか?」


「ほ、本当だ」


 この発言は信じていいなとゴロリは思った


「……なぁ、泥棒。カードの価値は知ってるだろう

 貴様のせいでどれだけの人間が苦しむか考えたことはあるか」


「し、知らないねっ!」


「……当ててやろう。奴隷を持っている奴だけを目標にしたな?」


「な、なんでっ」


 ゴロリのカードはそんなに金が入っていない

 狙ったということはそれ以外は考え難いとゴロリは思った


「……もう一度聞く

 貴様のせいで、どれだけの人間が苦しんだか考えたことはあるか?」


「……わ、わからないよ!」


 知らぬ存ぜぬを繰り返す少女に、ゴロリは睨み付けるのをやめた


「そうか。では終わりだ

 貴様は塀の中でその若さを無駄にしろ」


 少女にそういい捨てて、ゴロリはアケミの方向を見た


「ご、ゴロリさん……」


 今まで見たこともないゴロリの顔に

 アケミは少し怯えているように見えた


「アケミ。こいつを銭湯にいる変態に引き渡す

 呼んでこれるか?」


「えっ。ああ、はい……」


「……すまなかった」


 アケミがゴロリの言い付け通り動こうとした時だった

 少女は呟くようにいった


「声が小さいな」


「す、すまなかったぁっ、許してくれぇっ!」


 実のところ、ゴロリは本気でこの少女を捕まえようとは考えていなかった

 カードさえ戻ってくればそれで報酬は出ると思ったからだ


「……俺はカードを取り戻すとうっかり油断して貴様から目を離した

 その隙を見て貴様は逃げた。これでいこう」


「な、なんで――」


 泥棒の少女は産まれたての小鹿のように

 脚を震わせながら立ち上がった


「聞いて何になる?」


 ゴロリはそんな少女を敢えて突き放した


「……くそっ」


 泥棒の少女は悔しそうに顔を歪ませると、時折躓きながら走った


「……もう日が落ちますね、ゴロリさん」


 アケミは空を仰いでいた

 どこか安心したような声色だった


「な、何っ。すまないが、カード拾うの手伝ってくれ!」


「わ、わかりました!」


 ゴロリ達はぶちまけられたカードを必死で拾った


 ゴロリ達は泥棒の少女が残した風呂敷を使い、カードを集めた

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