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足元を見たようです

 会計を済ませ、ギルドをあとにしたゴロリは、はたと気がついた

 アケミの靴が、なかった


 そもそも彼女は奴隷出身だ。なくとも不思議ではなかったが

 これは気になった


「アケミ。この際だ、自分の為にカードを使うといい」


「で、でもっ」


 彼女は目伏せがちになりながらいった

 恐らくは、カードが盗まれるのが心配なのだろう

 ゴロリはそう思って、意味深に微笑した


「大丈夫だ。今回はこちらも秘策がある」


 ゴロリはそういうと、路上商を探した




「貴様の同業者がカードを盗んだと言いふらしてやるっ!」


「わ、わかった。わかったから!」


「次いでに服を売る女店主について

 知ってることがあったら教えろ!」


「わかんねぇって!」


「高い。もう少し勉強しろ!」


「ひ、ひぃい。勘弁してくだせぇ」


 ターバンを巻いた民族衣装の男の路上商を軽く指導し

 ゴロリ達は無事、木で出来た靴を手に入れた


「ご、ゴロリさん……」


 そんなゴロリに付き合ったアケミは

 死んだ魚みたいな目をしていた




「どうだ。安全かつ安く買えただろう」


「うん。ありがとうゴロリさん……」


 得意気にいうゴロリに対して、アケミは少し疲れた顔をしていた


「ついでだ。体も洗ってしまえ」


「えっ、匂いますか?」


 アケミの胸の辺りまで伸びる黒髪が何となく乱れていて

 ゴロリは気になっていた。アケミはゴロリの提案を聞いて少し耳が赤くなった


「まぁお互い様だ。どこかに風呂屋はないのか、風呂屋は」


 ゴロリ達は風呂屋を求めて歩いていった




 街でギルドや奴隷屋程ではないが、大きい建物だったため

 ゴロリにもすぐに見分けがついた


「銭湯……」


 立て看板の文字がゴロリにも読めた

 この文字を信じるならと、ゴロリ達は建物内に入っていった




(受付に誰もいないとは、ザルなのか?)


 ゴロリ達は受付を素通りしてすぐに

 桶とタオルと簡単な仕切りの並ぶ部屋に着いた


「あっ、おっさんじゃないか」


 更衣室らしいところにまで入っていくと

 見かけた顔の少女がいた。見たところ、風呂上がりなようだ


 タオルから覗く、肩ほどまで伸びる髪の毛は全体的に赤い

 変わった髪の色だった。目も薄くピンクがかっている


 風呂上がりでなお、この髪の色をしているということは

 元からそういう色なのか。ゴロリは一人納得した


 納得したが、別に気になるところがあった


「貴様は無防備なのか」


 赤髪の少女はタンクトップと下着一枚で更衣室をうろうろしていた

 スポーツをするのに最適な体型をしており、いまいち色気はないが

 それでも危ないものは危ない。ゴロリはそう思って注意した


「うん?」


 というのに、なぜだか赤髪の少女は要領を得ない

 彼女に遭難しそうなところを助けられたのでゴロリも強くはいえず

 そもそもそう簡単にはと思うところもあり、彼女を放っておく他なかった


「……知り合いですか?」


 アケミが小首を傾げていった


「ああ、ちょっとな。まぁあれでも怪しい奴じゃないから安心しな」


「そうなんですね」


 アケミはうろうろし続ける赤髪の少女を目で追っていた


「話変わるが、ここ混浴だな」


「そ、そのようですね」


 まぁ、これは顔赤らめても無理はないよなとゴロリは思った

 これには困った


 受付がザルな銭湯だから、何があっても不思議ではない

 特にアケミはそれなりに豊かなものがあるので、非常に危ない

 故にゴロリが付いていかない選択肢はなかった


 しかし、ゴロリ自身にも問題はあった

 ゴロリも男だ。どんなに娘と思い込んでも、アケミとは血の繋がりはない

 こんなときに限って、もし、万が一にも、起きようものなら目も当てられない


「よし、俺は上だけ脱いで入る

 アケミは……そうだな、俺のも使って入る時と出た時で二人分タオル使え」


「ゴロリさんはどうするんですか?」


 正直盲点だったとゴロリは思うが、これはすぐに思い付いた


「風に当たってたら乾くだろ」


「び、病気になったら――」


「なんだ。妙に食い下がるじゃないか」


 心配なのはわかるが、こればかりは仕方がない

 ゴロリはアケミの言葉を遮って語気を強めつついった


「……ごめんなさい」


「分かったなら良いんだ。さっさと入ろう」


 ゴロリはアケミと共に、桶とタオルが並ぶ更衣室を進んだ


「……ここで」


 ゴロリはああ、といいながら目線を近くの桶に移した




 ゴロリ達は更衣室の奥にある大浴場へ進んだ


「耳を塞げ」


「……あちっ」


「あーすまん。どうも要領がわからない」


 大浴場にはシャワーなどというものはなかった

 なので、桶に湯を汲んで体を流した


 アケミは全身をタオルで隠しているが

 ゴロリは、主にアケミの足元を見ていた

 その関係で、いまいち距離感を掴めない


「もう、自分で流しますっ」


「すまんな。湯は持ってくるから」


 半裸のゴロリは目線をそのままに謝った


「で、でもゴロリさんはわたしが流しますから」


「いや、いい。本当にいい

 それより、アケミは風呂入ってこい」


 ゴロリは首を横に激しく振って全力で断った

 アケミには寂しい顔をされるが、それは仕方がなかった

 アケミを流し終え、桶を片手にもつと、ゴロリはアケミを湯へ促した




「どうだ、アケミ?」


 ゴロリはそういうと適当に湯を掬い、頭を流した

 その間、老若男女誰であろうとアケミを見ていると判断したら

 ゴロリは凄い形相で睨み付けていた


「とても……気持ちいい、ですぅ」


 アケミはタオルを巻いたまま、足を伸ばして入っている

 タオルのまま入ると衛生上は良くないらしいが

 この浴場では普通なようなので、ゴロリは特に気にはしなかった


「暑く思うようになったら出た方がいいぞ」


「はいぃ……」


 タオルの隙間から、アケミの痣は見えていた

 最初見た時と比べると、薄くなった気がしたので

 ゴロリは何やら安心した

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