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名付けるようです

「まぁよい……して、君の名前は?」


 マッドサイエンスト風の受付の男は少女を見ていった


 失念していた

 ゴロリは焦った。娘ならば、苗字が必要だ

 幾らなんでも、ゴロリが苗字は良くないだろう


「……あ、アケミ!

 シノズカ、アケミだ。なぁ、アケミ」


 若い連中が名付けるようなハイカラな名前は付けられない

 その思いは、完全に裏目に出ていた


 この名前は、ゴロリの祖母にあたる者の名前だった


「……そうです。アケミです」


 少女はあっさりといってのけた

 何だ、ただの天使じゃないか。ゴロリはそう思わざるを得なかった


「……ふむ。そうか、わかった」


 そういうと、受付の男は受付の奥に消えた




「……すまん。本当にすまん」


「……えっ?」


 ゴロリはあんまりだったと反省し、少女に頭を下げる

 少女はそんなゴロリにきょとんとしていた


「実をいうとだな。あれは祖母の名前で……」


「いい名前じゃないですか」


「なにっ?」


 ゴロリは耳を疑いふと少女を見た

 この顔は、本気でいっている。そう思うとゴロリの罪悪感が増した


「シノズカ、ゴロリさんだったんですね……」


 そこなのかとゴロリは思った

 少女は一人で何やら解決したようであった

 そもそも何故涙目なんだとかは、聞きたい所ではあった


「カードをやろう、アケミ。大切にするんだよ」


 そんなタイミングで受付の男はやってきた

 ゴロリは、何だかどっと疲れたような気がした


「……はいっ!」


 少女は何やら凄く嬉しそうであった

 よくわからんが、少女はやっぱり天使だったらしい

 ゴロリは疲れが吹き飛ぶ思いをした


「まぁ、当然ランクは兎から始めるがよい。わかったな」


「わかりました!」


 少女は受付の男から受け取ったカードを大切そうに握り締めていた

 これには、堪らなかった。ゴロリは少し汗が出そうになった


 同時に、気になった。一体どのような出来なのだろうかと


「見せてくれるか?」


「はいっ!」


 カードは少女から、当たり前のようにゴロリに手渡された

 表面には黒くくっきり、シノズカアケミの文字が見てとれる

 やっぱり汗が出そうになった


(……やましいことはないらしい)


 紙質は相変わらず便所の芯のような固さだった

 赤く丸い兎の字の印も、そのままだ


 この年になると疑り深くなって困るなとゴロリは思った

 そうして裏返したところだった

 謎の文字の集合体がなかった


「ふふ、気が付いたな。ゴロリ」


「……まさか」


「そうとも。今回の報酬はまだ書いとらん

 あー、忘れちまったなぁー

 そうだ。書いてやろう。そうしよう」


 ゴロリは受付の男の言葉から大体の意図を掴んだ

 この男の働きからすると、まぁいいかと思わざるを得なかった


「うん?」


 アケミはよくわからないようで、首を捻っていた




 ゴロリとアケミは受付の男の星の輝明を見た

 ちなみに星の輝明とは光る魔法の鉛筆のようなものである

 表面は身分証明で埋まっているため、裏返して書くらしい


「スゴい……! スゴくないですか、ゴロリさん!」


「ハハッ、フクク……!」


 アケミよ、そんなに目を輝かして感動することかね

 ゴロリは腹を抱えて笑ってしまった


「ご、ゴロリ……!

 星の輝明 (スターライトソード)の魅力がわからぬとは

 無礼なやつめ……カーカッカ!」


 貴様も笑うのか。もう収集つかんな

 ゴロリ達の笑い声が、受付嬢以外誰もいないギルドにこだました


「そんなぁ、もう一度見せてくださいよぅ」


 アケミが止めを刺して散々笑ったあとで、ゴロリは気が付いた

 何だか、アケミの顔付きが変わった気がする


 明るくなった。それもカードを貰ってからだ

 何かあるのかもしれない。そこまでは考えた


「どうしました、ゴロリさん?」


「……いいや、何でもないんだ」


 ゴロリに笑いかけてくれるアケミを見ると

 俺にも護るべきものが出来たんだなとゴロリは思った




 カード騒動が一段落し、受付からは一旦離れた


 二人とも腹が減っていた

 ゴロリ達は砦の恵みが開店するとすぐに入った


「いらっしゃい」


 相変わらず、図体のでかい男だ

 しかし、鍛え甲斐はないな。ゴロリは少し思った


「……何が食べたい?」


「ゴロリさんのおすすめで良いですよ」


 ゴロリは一応アケミに聞いたが

 そういうことならと彼女の言葉に甘えることにした




 ゴロリ達は注文を済ませ、ほぼ貸し切り状態だからと

 カウンターではなく机と椅子がある席に向き合う形で座った


「いただきます」


「いただきますっ!」


 ゴロリが手を合わせると、アケミも真似をした


「結構美味しいですねっ!」


 ゴロリはアケミの言葉にゆっくり頷いた

 相変わらず、食事中は喋らないは実行している


 しばらく、フライビーンズを二人で頬張っていると

 ゴロリには新たな問題が浮かんだ


(これはヒモに見えるのではないだろうか)


 会計する際、彼女のカードを使わなければならない

 これはあまりにも見た目が悪いとゴロリは思う


(何とかしてあの泥棒を探さんとな)


 ゴロリとしては自分のカードを早急に取り返したかった


「……ご馳走様でした」


「……ご馳走様でしたっ!」


 ゴロリ達は空になった皿に手を合わせると、席を立った

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