薬草を探すようです
「……あった」
「どれ、見せてみろ」
少女はそれらしき草を指差した
ゴロリはその辺りを観察する
「うむ、これだ。摘んでおけ」
ゴロリは最早、サンプルの草を見るまでもなく見分けがついた
「はいっ!」
しゃがんで薬草摘んでいる少女を見て、ゴロリは思い出した
「……その膝、何とかしたらどうだ」
ゴロリが突き飛ばした時、少女は怪我をしてしまっていた
少女がしゃがんでいるとそこが際立って見える気がして気になった
「ああ、これは掠り傷ですから――」
「何だと?」
ゴロリの鋭くなった目に少女はギクリとした
「……はい。塗ります」
塗るのか、とゴロリは思った
「……そうだな、塗っておけ。ほら、こっちにもあったから」
「……はい」
ゴロリは暫くこの行動を繰り返した
「どうだ、痛みは引いたか?」
患部の出血は止まっているので、大丈夫だとゴロリは思った
「……は、はい」
少女は草の屑にまみれた脚をみて微妙な顔をした
「そうか、なら探すぞ」
「はいっ!」
ゴロリ達は二人で手分けしながら、薬草を探した
「……やはり二人でやると効率が良い」
そうしていると、あっという間に革袋は一杯になった
「本当ですか!?」
言いながら、少女も次々と薬草を摘んだ
「この位でいいぞ」
「……えいっ」
(聞いてない……いいか。もう少し付き合おう)
夢中で薬草を取る少女を止めるのは酷な気がする
ゴロリはやらせておくことにした
「これ位あれば……!」
少女は摘んだ薬草を集め、抱える様にして持った
「やるではないか」
しゃがんでいるゴロリが薬草束を作っていたところだった
少女の意外な才能にゴロリは感心する
自分だけであれば、もっと時間がかかっていただろう
素直にそう思った
「ありがとうございますっ!」
いつのまにか、良い返事をするようになった
ゴロリは満足そうに頷いた
「よし。暗くなる前に戻ろう」
「はいっ!」
片手には一杯になって変形した革袋を
もう片方の手には薬草束を持って、ゴロリは立ち上がった
「……これはまた偉い量を持ってきたな」
少女の腕から溢れた薬草もあったものの
受付のカウンターに山は出来た
マッドサイエンティスト風の受付の男は黙々とその薬草を手に取り
準備しておいたらしい大きな木箱に放りこんだ
「……時間がかかるんだったな?」
「ああ。この量なら早朝までかかるやも知れん」
「そうか、わかった」
受付から離れて、奥へ入っていく男をゴロリは見送った
「……眠たくはないのか?」
「ええ。大丈夫、です」
少女は疲れていそうではあった
自分は良いが、彼女に野宿は酷だろう。主に体に悪い
そこまで考えたところで、思った
(完全に情が移ってるな)
思えば、連いてきたのは少女の意思だ
こんなことなら、もっと厳しくして然るべきだっただろうか
ゴロリは今更後悔した
「……そうだな、この建物にいるうちに寝ておけ」
「……座って、ですか?」
「ああ。申し訳ないがな」
ゴロリは苦虫を噛み潰したような顔をした
人に謝るなど、屈辱だと思っていた
「……すー、すー」
そんなゴロリは露ほども知らないのだろう
少女は受付の机に伏せるようにして
あっという間に寝てしまっていた
(これは重症だな)
少女の寝顔を見るとどうでもよくなる自分がいる
ゴロリはこれは重症だと繰り返すように思った
「……眠ってしまったか?」
しばらくすると、受付の男が奥から出てきた
この男もこの男で、忙しい
たまに出てきては他の受付嬢から溢れた若い連中を
捌かないといけないのだ
「そのようだ」
「ふむ、仕方あるまい。ここを使うがよい」
「……本当に大丈夫なのか?」
「ふふ、こう見えて偉いのだよ。心配いらん」
そういって、受付の男は奥に戻っていった
最近、この男には助けられているとゴロリは思う
かといって、何か出来るわけではないことが歯痒かった
「朝だぞ。起きろ」
ゴロリは声をかけて少女を起こした
結局、ゴロリは一睡もしなかった
というのも、受付というのは騒がしい場所だ
睨みをきかせて、静かにするように配慮させていた
「うーん……ん!?」
ぼやっとしている少女はゴロリを見て目を見開いた
「……眠れたか?」
「ご、ごめんなさい。わたし……勝手にっ」
「あのなぁ……」
沸々と沸き上がる感情があった
寝ていいといったのはゴロリだ。忘れないで貰いたかった
およそそんな都合で、少女を睨んでいた
「ひっ、ご、ごめんなさいぃっ!」
これで本気で怖がるのだから、この少女は弱いと思った
もっと叩き直してやらんとな。ゴロリは目が覚める思いをした
「……待たせたな」
そこで受付の男は出てきた
こいつも、徹夜であったりするのだろうか
そこまで考えてゴロリはやめた
「それで、どうだった?」
「いくつか違う草も混じっていたが……」
ゴロリは目の端で俯く少女を見た
そんな少女をゴロリは敢えて無視した
「大丈夫、合格だよ」
「やったじゃないか」
ゴロリは自分が笑顔だと思う顔を作り、少女に向けた
「……でも、幾つか間違えてたって。あっ」
ゴロリの笑顔は一瞬で鬼のような顔になった
色々溜まっていたのもあって
ようなというよりは鬼の顔だったかもしれない
「この、どうしようもない、小娘め……!
いいか、俺の前で二度と失ったものを数えるな!」
「は、はひっ」
この時ばかりは少女も覚悟していたのか
怖がりながらも、それなりの返事をした
「……お、終わったかね?」
「ああ。すまなかった」
全力で指導し、ついに死んだような目になっているゴロリに
受付の男は若干冷や汗をかいた
「まぁよい……して、君の名前は?」
「あっあの……」
少女は若干、目線をゴロリに送った
ゴロリは失念していた
そういえば、ゴロリとしか少女に教えていない