待ちきれないようです
「ここで騎士を待つのは得策ではないと思うが」
騎士とアニーを見送ったゴロリは正面の竜に投げ掛けた
「本気?」
「ああ」
ゴロリは竜に即答した
竜はゴロリの選択に目を丸くする
「あたしも行くよ。オカン!」
「そうですね。行きましょう!」
ケルルとアケミはそれぞれ決心して、竜に告げた
「アタシ一人くたばれば済むかもしれないというのに」
「オカンに会えなくなるのは嫌だよ」
竜の小言に、ケルルが言い返した
「そうだ。誰も死なせはしない」
「……そこまでいわれたら賭けてみる他ないね」
竜は納得したようにゆっくり頷き、ゴロリ達を見た
竜の言葉を聞いたゴロリは
アケミとケルルに合図するように頷いて、先を進んだ
「無事を祈ってるよ」
階段を降りるゴロリ達の背を竜は見送った
階段下で赤と黒のものが交差し、ぶつかり合っていた
「ぐっ」
「だ、大丈夫ですか? ゴロリさん」
「やっぱり、大声だすと堪えるのか?」
地鳴りでよろけるゴロリの体をアケミは支えた
アケミの後ろからケルルも心配そうに見つめた
「事は一刻を争う。走るぞ!」
流れ弾に当たりかねないしな
ゴロリは少し思った
「それなら掴まってください!」
「よし。行くぞ、小娘共!」
ゴロリは叫ぶと、アケミの手を取り背に飛び乗った
「はい!」
「うん!」
ゴロリを背負ったアケミは階段をかけ降りた
ケルルも、アケミに少し遅れて付いていった
受付の男と泥棒の少女は地下の踊り場にいた
「はぁ、はぁ」
男は目の前の存在に手を焼いていた
バラバラになっても立ち上がり
一撃一撃の攻撃が重かった
「ぐっ……あ、ありがとう。おじいさん」
「なんの」
男は黒い骸骨によって吹き飛ばされた少女を
がっしりと掴んだ
「……ボクじゃ、勝てないかも」
「諦めるでない。わたしがなんとか隙を作る」
男は少女に首を振って、正面の黒い骸骨を見た
「うっふふ。隙なんてある訳ないじゃない
あの人の莫大な魔力、金髪の移動能力、竜の怪力……
そして、貴方の魔法の知識。負ける要素はないわ!」
黒い骸骨の隣に常にいる巻き角の女性が
高らかに叫んだ
「く、くそ
あいつが何いってるかわからないけど腹立つ」
「ま、待て。乗ってはならん!」
腕を振り上げて駆け出した少女に
男は片手を伸ばしたその時であった
「たあぁっ!」
「ぎうあっ」
ゴロリを背負ったアケミが巻き角の女性を体当たりではね飛ばした
その勢いで巻き角の女性は黒い骸骨を巻き込み、地に転がった
「ご、ゴロリ。なぜここへ」
「それはこちらの台詞だ」
ゴロリの様子に男は納得したようにふむと唸った
「おいおい、大丈夫かよ?」
「ボクは見た目より、大丈夫だ」
ケルルは少女に駆け寄った
少女は口から血を流し、片目にたん瘤を作っていた
「くぅ……よくも、やってくれたわね!」
上半身だけ起き上がった巻き角の女性は
ゴロリ達の不意をうつように目をピンク色に光らせた
「皆、あれを見るな。目を背けろ!」
「うわわっ」
ゴロリはアケミの目を両手で隠しながら叫んだ
「……そう何回もやられては学習もするわい」
「同感」
「うん」
男と少女とケルルは無事であった
もしかしたら、これしか芸がないのでは
ゴロリはそう思い始めていた
「きいぃ、今に見てっは、ぐっ」
黒い骸骨は立ち上がると
悲鳴をあげる巻き角の女性の顎を片手で掴んだ
「あ、ああっ」
女性の脚がばたばたと空を蹴る
ゴロリには更けた声と、若い声の二重で女性の声が聞こえた
黒い骸骨は更に巻き角の女性を宙に掲げた
小規模の竜巻ができているようであった
ゴロリ達は踏ん張り、吸い込みを凌いでいった
「……おい。何をしている。それでも人の親か!」
「いかんぞゴロリ。あれは魔力を吸っておる!」
「構うものか。助かりたければ抵抗しろ!」
ゴロリは受付の男の忠告を無視し、叫んだ
「……ふふっ」
巻き角の女性は、不気味に笑っていた
至福。その顔にはそう書いてあった
「気でも触れたか!」
「構うなゴロリ!」
尚も叫ぶゴロリに男は片腕で顔を守りながら言った
「はぁんっ」
巻き角の女性はやがて黒い骸骨にぼろ雑巾のように捨てられた
その顔は皺だらけで、祖母を連想させた
「ゴロリ。来るようだ」
男は先程より横柄に歩く黒い骸骨に構えた
「行くぞ。ここが死に所ではないということを教えてやれ!」
「ああ」
「うむ」
「うん!」
少女、男、ケルルはゴロリに答えた
「行きましょう!」
最後に、アケミが叫ぶと
ゴロリ達は黒い骸骨に一斉に襲いかかった




