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指導したかったようです

(勢いで連れてきてしまったものの、どうしたものか)


 夕日はなかったのでゴロリは立ち止まった

 ふと振り返って少女を見る


 目の色は黒く、全体的に端正な顔つきをしていて

 黒髪が胸の辺りまで伸びていた


 これで、髪の毛先が乱れていなければ

 ゴロリは素直にそう思った


(奴隷か)


 体には所々に痛々しい痣も確認できた

 ゴロリは顎に手を添えた。この扱いの人間には心当たりがあった


(こいつは羞恥心がないのか?)


 少女が着ているボロ衣は所々破れている為、体型が詳細まで分かってしまう

 残念ながら、彼女の体型はそれなりに豊かであった

 弛んでいる。ゴロリは怒りで震えていた


「あの、どうかされました?」


「……まず、その服をどうにかしたらどうだ。目障りだ」


「えっ、これですか?」


 ゴロリは頷いた

 路上で売っているものでも買うか、と思った所だった


「これ、気に入ってるんですけど……」


 少女は大切そうに両手で胸の辺りを掴んだ


「……だ、ダメだ。俺の指導を望むなら、その服を変えろ

 絶対に変えろ。いいなっ!」


「わ、わかりました」


 この時ばかりはゴロリの指導もキレをなくした




 ゴロリは先頭を早めに歩き、服を売る路上商を探した

 少女は後から付いてきた


「……そういえば、お名前を聞いてませんでした」


「ゴロリだ……見つけた、ゆくぞ」


「ゴロリさん……あっ」


 ゴロリが名乗り終わると

 服を売る路上商を見つけ、駆け足で向かった

 遅れて少女も付いてきた


「いらっしゃい」


 ふくよかな女の店主が商品の後ろで座っていた

 やはり髪は染めており、目の色も違った

 外人でこんな奴もいたか。ゴロリは少し思った


「何をしている。貴様が選べっ!」


「は、はい!?」


 少女は突然機嫌が悪くなったゴロリに動揺した

 店主は彼女の服装を見て察したらしく、黙っていた


「えっ、えーと……」


 少女は懸命に服を見た


「さっさと選べ。次が控えている」


 次とは主に薬草取りである

 競争率が高いと聞いた為、早めに受けておきたいと思った


「う、うーん」


「……これなんか、似合うんじゃないかい?」


 なかなか決められない少女を見かねたのか

 店主は白いワンピースのような服を進めた

 ゴロリは少し店主を睨んだ。自分の意思で決めるべきと思っていた


「……どうでしょう?」


 そんなゴロリに店主は気が付かなかったのか、少女に服を手渡す

 少女は自分の体にワンピースを重ね、ゴロリに見せた


「ほう、それでいいのか」


「えっ。ダメ、ですか……?」


 あっさりとしたゴロリの言葉に少女は少し目を伏せた


「だから、脳があるなら使え。それとも脳がないのか!?」


 ゴロリは腹が立ちながらも薬草を諦めていた

 まぁ、少しくらいなら待ってやってもいいと思った


「えっ。は、はいっ」


 少女はワンピースを手に持ってキープしつつ服選びに励んだ




「ゴロリさん。これで……」


 少女は色々と悩んだ末、白いワンピースを選んだ


「それでいいのか」


「はい。決めました!」


 ゴロリは少女の覚悟が決まった顔を見て頷いた


「では、理由をこの手が拳になるまでに述べろ」


 ゴロリは片手を広げて、少女に見せた


「えぇっ!?」


「当たり前だろう

 俺が払ってやるのだからそれなりの理由をいえ」


 ゴロリは早速、親指を折った


「そ、そっか。そうでした。じゃあ諦めます……」


「ほう、これだけ時間を使って諦めるのか」


 ゴロリは小指と薬指を同時に折った


「……えっ、良いんですか?」


「理由がいえたらな

 ……そうだ。これが拳になったら貴様に飛ぶ

 避けるんじゃないぞ」


 ゴロリは青筋を浮かべながら中指を折った

 残る指は一本だ


「ひっ、そ、そんなぁっ」


「どうした。理由はないのか!?」


 ゴロリは指を少女に向けて言葉を強めた


「……からです」


 少女は目を瞑っていた


「聞こえん。もう一度、いえっ!」


 ゴロリは遂に人差し指を折って、振りかぶった


「可愛いからですっ!」


 拳を放ったが、少女の顔から僅かに浮かせた

 所謂、寸止めであった


「……目を開けてみろ」


「うっ……!」


「そうだ。俺の拳は貴様を捉えていた

 結論が遅すぎだ。反省しろ!」


「は、はいっ」


 少女は気を付けして返事した


「……決まったかい? 会計してくれ」


「……ふん。カードか、ほら」


 ゴロリは店主に向き直ると、ポケットを探ってカードを取り出した

 カードを提出する事にも慣れてきていた

 さして気にもせずカードを店主に手渡した


「まいどありっ!」


「ぐっ!」


「んあっ!?」


 一瞬だった。女店主は煙幕のようなものを焚いた

 反射的にゴロリは少女を横に突き飛ばした


(……毒性はないか)


「ぅくっ……ご、ゴロリさんっ!」


「寄るな!」


 範囲外にいるとはいえ、少女が近寄るのは危険だとゴロリは思った


「うぇっ、げほっげほっ……くそ。やられたな」


 ゴロリは多少煙を吸ったが咳き込む程度に収まった

 やがて煙が晴れると、そこは藻抜けの空になっていた


(また手続きせんといかんな)


 ゴロリは失念した自分に腹が立ちながら

 倒れている少女を見た


「……起きれるな?」


「は、はい」


 少女は自分の力でゆっくり立ち上がった

 膝に怪我をしていた


「……これ、どうしましょう?」


 少女は少し汚れた白いワンピースを持ってゴロリに訴えた


「貰ってしまえ」


「……はい」


 ゴロリがぶっきらぼうにいうと

 少女は白いワンピースに腕を通した


(あのボロ衣の上から着るのか)


 てっきり、便所でもいって着替えてくるのかとゴロリは思っていた

 なにかこだわりがあるのだろう。今回はさして指摘しなかった


「ごめんなさい……わたしの責任です」


「……いいや、今回は俺が悪い

 貴様が謝る道理はない」


 一瞬ゴロリの頭は真っ白になった

 一体どこまでこの小娘はと思ったところだった


「でも、あのカードは……」


「そう、大切なものだ。だが貴様に出せるか?

 違うだろう。わかったらギルドに行くぞ」


「……はい」


 蒸し返されても面倒だとゴロリは思い、淡々といって先に進んだ

 少女も、ゴロリを追い掛けるように付いていった




 ゴロリ達は真っ直ぐギルドに向かった


「おう、ゴロリか。薬草の依頼、取っておいた

 というのも依頼者が味をしめて――」


「カードを無くした。再発行出来るか?」


 マッドサイエンティスト風の受付の男は隙歯を見せながらいったが

 ゴロリはそれを遮った


「……そうか。忠告しておいただろうに」


 受付の男は片手で頭をかいた

 確か、手続きが面倒になるといっていたなとゴロリは思い出す


「わたしのせいで――」


 少女はただならぬゴロリの目に口をつぐんだ


「……このまえはオークの髪、だったか?」


「ああ」


 受付の男は捻り出すように思い出した

 ゴロリは年寄りにしてはいい記憶力をしていると感心した


「それ以上のものを持って来てくれ」


「それ以上のもの?」


「そうだな。例えばだが、眼球か」


「眼球……」


 オークの眼球。これがカードを無くした報いだとすると

 ゴロリがそう思ったところだった


「もう一度、オークに挑むのが面倒なら

 竜の鱗という手もないことはないが……はたしてなぁ」


 落ちている鱗を拾えといいたいんだろう

 この情報は有難い。ゴロリは腕を組んだ


(恐らくだが、俺は戦闘で役には立てん

 戦うのはこいつだろう)


「……?」


 ゴロリの神妙な顔をして少女をみた

 そんなゴロリに少女は首を捻る


(こんな小娘でもたかが俺の指導一つで

 あのモンスターの目を抉るのだろうな)


 ゴロリは気付き始めていた。自分の指導の異常さを

 そしてそれは、けして自分には作用しないことを


(いかんな、弱気になっている。俺らしくもない)


 ゴロリは首を左右に振った


「……竜の鱗が落ちている可能性は?」


「ほぼ、ゼロに近いな」


「……そうか」


 ゴロリは自分の運のなさには自信があった

 雷が直撃して死ぬなど、どんな可能性だと思っていた


「そういや、そこの娘は?」


「俺の娘だ」


 嘘だった。だがゴロリは即答してしまった


「……そうか。それならば、もう少しやりようがある」


「……どんな?」


 ゴロリが言い終わると、受付の男は少女を見た


「ここに初めて登録するかな?」


「えっ。はっ、はい……初めて、です」


 ゴロリは思わず吹き出しそうになった

 少女の目が泳ぎ過ぎて、実にわかりやすかった


「……形式だけでいっただけだよ。いいね?」


「わ、わかりました」


 受付の男の言葉にゴロリは眉の端を僅かに吊り上げた


「……大丈夫なのか?」


「最近、こういうことは多くてな。慣れてしまった」


 ゴロリは声を潜めた

 だが、受付の男は笑いかけながら普通に喋っている

 今は甘えるしかない。ゴロリは自分の無力さに腹が立った


「……そうだな、調度良いところに薬草の依頼がある

 これを見事に成功させよ。それで許そう」


「はいっ!」


 少女が初めて良い返事をしたとゴロリは思った




「……ゴロリさん」


 調度、検問所を出た所で、少女は口を利いた

 相変わらず、見張りの衛兵二人は鼻提灯を膨らましている

 ゴロリは革袋を握りしめ、少女の先をどんどん歩いていた


「ありがとう……」


 少女の言葉にゴロリは思わず、止まった

 なにやら、よくわからん汗が流れた


 年老いると汗が出やすくて堪らない

 ゴロリはそのまま先へ進んだ

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