母親なようです
ゴロリは泥棒の少女と共に鉄檻テントから脱出し、外に出た
フードの人間一人に見つかり咄嗟に泥棒の少女は首を殴って気絶させた
「……この人たち、一人一人の戦闘力が高いんだ。見てごらん」
「角?」
泥棒の少女が倒れた人間のフードを外す
ゴロリの目に留まったのは巨大な巻き角だった
「淫魔 (サキュバス)……て言ってもわからないかな」
ゴロリの全くピンと来ていない顔に察して
泥棒の少女はいった
「そうだな」
顔は青白く、皺も多い
婆さんみたいだ。ゴロリはそんな感想を抱いた
「……まぁいいや
ボクもこいつを複数は相手にしたくない
行こう」
ゴロリは泥棒の少女に頷くと先を急ぐ少女を追いかけた
「あ、あたしはただ……!」
とある、テントに入ったところで
ゴロリは聞き覚えのある声を聴いた
「ケルルの声だ」
「助けよう!」
ゴロリは声を潜めながら泥棒の少女と顔を見合わせた
そんなゴロリに少女は頷くと走った
「憎きローズの娘か」
「打ち首にしてしまえ」
「うああっ!」
走った先を見ると、女性二人の話し声が聞こえた
ゴロリは一瞬頭が真っ白になった
フードの女性の鍬が鎖に繋がれたケルルの首を狙っていた
「貴様らぁっ!」
ゴロリは今までの怒りを凌駕する怒りを感じた
ゴロリの迫力に泥棒の少女は尻もちをつき
ケルルを襲ったフードの人間も尻もちをついた
「お、おっちゃん……?」
「そんな鎖、破壊してしまえ!」
ゴロリはその勢いのままケルルを指差した
「お、おう。うりゃっ!」
ケルルはゴロリに呼応するように
鎖を引き千切って破壊した
「な、なに!?」
「なんだ!?」
腰を抜かしたフードの女性二人は
なかなか起き上がれずに動揺していた
「おっちゃん……っ」
「アケミと騎士はどうした?」
ゴロリは駆け寄ってきたケルルを片手で抱くと
地面に伏せる二人のフード人間に目を向けた
「あっ、こいつは!?」
「あ、あいつだ! あいつが裏切って」
尻もちをついた二人のうち一人が
泥棒の少女を指差した。これがまたゴロリを腹を立たせた
「答えろ!」
「ひっ、き、騎士は知りません。逃げたと思います」
まぁ、逃げ足早いからな。ゴロリは少し思った
「あ、アケミって誰です?
あのお方の名はメシアですよ!?」
「メシア……?」
「シンザキメシア。勇者様直系の娘ではありませんか!」
(どんな名前だ)
ゴロリはアケミが勇者の娘であることは知っていたため
ある程度の予想は出来ていたが、それでも腹が立った
「……どこにいる。アケミをどこにやった」
「ですから、メシア様だって」
「うるさい。答えろ!」
あまりに連呼するので、ゴロリはついに怒鳴った
一人のフードの女性は縮み上がって、ある一点を指差した
そこは地面だった
「埋めたってのか?」
「ぎ、儀式に必要だったもので、地下に……」
「案内しろ」
「は、はいっ」
ゴロリの提案に二人は同時に答えた
最早、敵意は感じられなかった
地下には以外にも広い空間があり
蝋燭が敷き詰められていた
奥には祭壇があって、一人の男の顔の絵が飾ってあった
「只今、儀式中ですのでぶはっ」
「誰かぶっ」
「だ、ぶっ!」
地下に案内され
見張りと用済みとなった二人を泥棒の少女が処理していた
「おおっちゃん、酷い顔だ。大丈夫か?」
全然大丈夫ではなかったため
ケルルにゴロリは無言で答えた
「あら。客人ね?」
祭壇の前に、フード付きの服を着て
巻き角で弛んでいる髪の色の女性がいた
「貴様が親玉か」
「親玉? そう。わたしは親玉よ。偉いのよ」
冗談だろう。そうゴロリは思ったが
巻き角の女性の顔は真剣そのものだったため
そうでもないらしい、と思い直した
「アケミはどうした?」
「ここよ」
ゴロリの言葉に巻き角の女性はその場を退いた
アケミは、祭壇の上に仰向けで乗っかっていた
「アケミ!」
「アケミちゃん!」
ゴロリとケルルが呼びかけるも反応はなかった
「無駄よ。わたしの魔法で寝て貰ったの
わたしが良いというまで目を覚まさないわ」
狡い。ゴロリは反射的に思った
「……ローズとは比べ物にならない」
「何ですって? わたしがローズに負ける要素なんてないわ!」
(ヒステリーか。達が悪いな)
ゴロリは独り言のつもりで言ったが
巻き角の女性にはしっかりと聞こえていたようで
声を荒ませていた
「だってほら、あの人は結局わたしの元に戻ってきてくれたもの
ねぇ、あなた?」
巻き角の女性がそういって振り返ると、祭壇の奥から
半身をカードの裏側の文字で刻み、片手にショベルを持つ
黒い骸骨が歩いてきて、女性の傍で止まった
「お、おまえは一体……!」
「うふふ。わたしはこの子の母親よ」
そういって巻き角の女性は、すかさず黒い骸骨の片腕を抱いた




