予想外なようです
「……どうした?」
猫騎士が建物から早々に出てきて
ゴロリに近付いてきたのでゴロリは声を掛けた
「アニーが受付に、受付に……!」
猫騎士の声は小さく、微妙に震えていた
まるで死人が蘇ったかのような雰囲気だった
ゴロリも思わず、猫騎士の言葉を頭で反復させた
「……そうか」
「き、君たちの知り合いだろう?
わたしは関係ないよな!?」
「そうかもな」
猫騎士は必死に訴えかけた
ゴロリも猫騎士の言わんとすることを察し
猫騎士にいって、頷いた
「じゃ、じゃあ後は頼んだぞっ!」
「ああ」
ゴロリが短く答えると
猫騎士は素晴らしい速さで走り去っていった
「……ほ、本当に行っちゃいましたね」
「そうだな」
ゴロリはもう豆粒ほどの大きさになっている猫騎士を見て
アケミに相づちをうった
「行きましょうか。ゴロリさん」
「……なぁ、アケミ。アケミもケルルの所に帰るか?」
覚悟した顔のアケミにゴロリは少し思うところがあって聞いた
「えっ、そ、そんなことしたら……」
「俺が護れなくなる?」
アケミは何も言えなくなってもじもじとしていた
どうやら、図星らしい
ゴロリはそう思って小さく溜め息をついた
「……俺に変な気を遣うな」
ゴロリは珍しくアケミに諭した
「でも、ゴロリさんに何かあったら……」
「何もないさ、アケミ
俺が送ってってやるから、ケルルの所に戻れ」
アケミはゴロリの顔を心配そうに覗いた
そんなアケミにゴロリは得意の仏頂面で答えた
「ご、ゴロリさんは……?」
「俺は一人でアニーと会う」
ゴロリは一旦アケミから目線をはずし
目の前の宿を見た
「そ、そんな。危険じゃないですか!?」
「なにも危険ではない。この狭い宿でアニーと話すだけだ」
「それはそうですけど――」
「とにかく、戻るんだ」
アケミはまだまだ一言くらい言いたかったようだが
ゴロリが遮った
「あっ、ちょっと。ゴロリさん!」
このままアケミと共に行くのは得策ではない
ゴロリはそんな気がして、一度宿から離れた
アケミも、渋々ながら付いてきた
特に会話もなく、ゴロリ達はケルルの家に着いた
「ほ、本当に行くんですか……?」
「ああ。行ってくる」
ゴロリは玄関前にいるアケミに頷くと、背後を向いた
アニーのいる宿に戻るためだった
「……やっぱり嫌です。行かないで下さいぃっ!」
「手を離そうか、アケミ」
そんなゴロリにアケミは後ろから抱き付いた
ゴロリはアケミを叱った
「そ、そうだ。今日は皆で寝てましょうよ!」
「……アケミ」
アケミの言葉にゴロリは少し語気が強くなっていた
「やです。死んでも離しませんから!」
「アケミ!」
ゴロリが更に語気を強くいうと、アケミはゆっくり手を離した
「だ、だってぇ……っ
ゴロリさん、死んじゃうみたいじゃないですかぁっ!」
「大袈裟な奴だ。死にはしない」
こいつ、泣いているな
ゴロリはそう思って、敢えて背後を向いたまま答えた
「で、でも……っ
ご、ゴロリさんが居なくなったらどうやって――」
「なぁアケミ。どの道おまえには俺は必要ないんじゃないか?」
「えっ……?」
ゴロリはこの際だからと、考えていたことをアケミに告げた
「ケルルという友人ができて、騎士からは気に入られて……
最初のおまえとは、偉い違いじゃないか」
「そ、そんなことない……っ。そんなことないです!」
「勘違いをするな。嬉しいんだ」
涙声が強くしながら全力で否定したアケミに
あまり強く否定されても困るんだけどな
ゴロリはそう思いながら、少し笑った
「……絶対に、帰ってきてください」
「あんな金髪ごときにやられてらんないからな」
アケミがあまりにも信用しないので
ゴロリはゴロリなりに、アケミを気遣った
「約束です、よ?」
「ああ」
アケミの言葉にゴロリは片手を挙げて、歩き出した
結局、一度もアケミの方を見ることもなくゴロリはケルル家を後にした




