すごく大きいようです
全身鎧の騎士、ゴロリ、アケミ、ケルルは一列になって
草原を抜け焼け落ちた森を進んでいた
「……復興には時間がかかりそうだな」
ほぼ無言で進んでいたところで、騎士が独りごちた
あの竜はどうなったのだろうとゴロリは少し思った
「そういえば、なぜギルドへ戻ってこれたんだ?」
ゴロリはこの際に気になっていたことを聞こうと思った
「戦略的撤退だよ。あの二人がやられては元も子もない」
「……仲間をおいて?」
「そうだ」
それでいいのか騎士。ゴロリは少し不安になってきた
「敵は見たのか?」
「竜王って雰囲気だった
二人ともその風貌に動揺したんだろう
簡単に連れ去られてしまった」
竜の親玉ってことか。ゴロリは少し思った
(何も攻撃しなかったってことは……知り合いか?)
ゴロリは少し考えて、二人との会話を思い出そうとしたが
よく覚えていなかった
「ああ、最近ランクが上がったらしいじゃないか。おめでとう」
さすがに耳が早いな。ゴロリは返答に困った
「聞けば、君達は手負いの竜から逃げ仰せたとか……」
「……なにがいいたい?」
ランクを上げれば隠れ蓑になるっていった奴でてこい
出てこられないとわかってながら、ゴロリは思った
「少し期待しているよ」
まぁそうもなるか。ゴロリはそう思いながら
今回でこの評価が変わっていっても仕方がないと割り切った
「ここだ」
騎士は建造物の前で立ち止まった
(でかいな)
焼け落ちた森を抜けると、神殿らしき建造物が見えた
仰ぎ見ても見切れるほど大きい佇まいだった
神殿かと思った要因になった4本の柱も
人二人が入る程度に太く、長かった
「行くぞ」
騎士の号令を聞くとゴロリ達は4柱の間を通って
巨大な赤い門の前に来た
(自動ドア……!?)
前までいくと重厚な音と共に両開きした
勝手に開くので、ゴロリは少し驚いた
「この先だ」
騎士はゴロリに並ぶと扉の奥を片手で指し示した
「おまえは行かないのか?」
「足手まといになるだろう。大人しくしている」
「そうか、わかった」
実際足手まといにはならないが
これはこれで都合がいい。ゴロリは騎士の言葉に頷いた
「……アケミ、ケルル。いよいよだ」
ゴロリは振り返って、二人にいった
「そうですね」
「うん。ちょっと燃えてきた」
アケミ、ケルルの顔に疲れはなかった
むしろ、生き生きとしているようにゴロリには見えた
「……いいか、俺にもしものことがあったら構うな
命に代えてもおまえたちを逃がす」
「んだよそれ。おっちゃんらしくもねぇ」
「大丈夫です。全力で護りますから」
ケルル、アケミの言葉にゴロリはただただ心強いと思った
「……よし。行こうか!」
「はいっ!」
「ああっ」
ゴロリはアケミ、ケルルの返事を聞くと
門の中に入っていった
「あら。どちらさまぁ?」
間延びした声だった。ゴロリは声の主を見つけた
というより、一目瞭然だった
口を利く巨大な竜がこれまた巨大な玉座に座っていた
座っていながら、天井ギリギリの図体にゴロリは思わず息を飲む
全体的に赤く、この前襲ってきた竜を思い出したが
明らかに格が違って見えた
それだけに、頭にチューリップハットを着用しているのは間抜けだった
そもそもそのサイズあるんだなとか下らないことも思った
「貴様が親玉か?」
「親玉。アタシは親玉ではない」
くつくつと喉を鳴らし、竜はバカにするように肘杖をついた
「……フールとアニーを返してもらう」
「あーそういうこと。それはダメ。必要だから」
ゴロリは仕方ないと、息をすった
「な、なぁ。オカン、オカンなのか!?」
ケルルが、ゴロリやアケミより前に進んで叫んだ
「ごっふぉっ!?」
ゴロリはケルルの言葉にむせた
「んー? ああ。ケルル、久しいわねぇ。元気?」
「あれが親だと!?」
ゴロリは思わず口を挟んでケルルを見た
「……声は似てる。スゴく、似てる」
「オカン肥っちゃった」
竜はケルルの言葉におどけていた
信じられないとゴロリは思ったが
確信しているケルルの顔みて、そうなのかと思い直した
「……ゴロリさん、なんか雰囲気違いますね」
「ああ」
アケミは声を潜ませてゴロリにいった
ゴロリも、アケミに短くいって頷いた
「……オカン。その姿が本当の姿なのか?」
「まあね。あの人はもういないし、つまらないから人になるのは止めた」
「勇者のことか」
「へぇ、よく知ってるわねぇ」
ケルル、ゴロリの質問に
竜はうねらせた手を見ながら答えた
彼女の爪は普通の竜と比べても赤かった
「ケルル。大丈夫か?」
「……うん。納得したよ」
ゴロリは前にいるケルルに呼び掛けた
ケルルの声は少なからず嬉しそうであった
「俺たちはフールとアニーを取り返すことができればいい
なんとか出来ないか?」
「フッフ……話し合いで解決する気かしら?」
この竜が話し合いなんぞ乗ってくれるわけない
ゴロリも頭ではわかっていた
「……まぁ、良いだろう」
「条件は?」
あっさり了承した竜にゴロリは畳み掛けた
竜はゴロリの言葉にまた喉を鳴らした
竜にはまだ余裕が感じられた
「アタシの周りを囲う障壁……
これを破壊できれば返してやってもいい」
「見えないぞ?」
「それはおかしいわねぇ
アタシに魅せられすぎじゃなあい?」
ゴロリははたと気が付いた
この竜の存在感で上ばかりを見上げていたが
下を見てみると、意味不明の文字の羅列が竜を囲うように刻んであった
(どう考えてもろくなことにならないな)
この羅列はカードの裏に書いてある羅列と字体が似ていた
ということは、何かしらかの細工がしてあるということ
仮に竜のいうことが本当だとしても
この竜はここまで羅列されるような罪を犯したとするのが
ゴロリには自然だった
「で、どうなの。やるの。やらないの?」
ゴロリが早く答えを出さないので
痺れをきらしたように竜が迫った
「なぁ、おっちゃん。アケミちゃん
あたし、オカンが困ってるなら助けたい」
ケルルは振り返ってゴロリに訴えた
「わかった。手伝ってくれるか、アケミ?」
「……はい」
ゴロリはあっさりと答えて、隣にいるアケミに聞いた
少し、震えている。怖いのかもしれない
無理からぬ話だった
「大丈夫だ、アケミ。きっと上手くいく」
「ゴロリさん……」
アケミが言い終わってゴロリの方向を見るとゴロリは数回頷いた
「気合いを入れろ。粉砕してしまえぇっ!」
「おっしゃあ!」
「はぁあっ!」
ゴロリの号令とともに、ケルルとアケミは地面を皹割った
「おりゃあっ!」
地面を蹴るとケルルは真っ直ぐ竜に跳んでいった
「……強くなったねえ。ケルル」
竜は唸った
ケルルの突進で、一瞬にして透明の障壁が割れた
「ぐっ!」
「アケミ頼む!」
「わかってますっ!」
反動で反対方向に吹き飛んだケルルを
ゴロリの号令でアケミは見事にキャッチした
「ごめん。アケミちゃん」
「どうってことありません」
アケミはケルルをキャッチした衝撃で地面を滑っていた
「言い忘れたけど、この障壁再生するのよね」
竜が言い終わる前に、障壁が光を反射した
なるほど。ゴロリは顎に手を添えた
「アケミ、ケルル。ちょっといいか?」
「……えっ、あぁ」
「うん……」
ゴロリは少し思うところがあって
ケルルとアケミに呼び掛けた
ケルルとアケミはゴロリに呼び掛けられると
力が抜けたように座った
「……もしかして、おまえも出れないのか?」
「だから困ってるんじゃないか。例えあの人の細工でも
フールか金髪だったらなんとかできる筈なんだけどねぇ」
ゴロリの言葉に竜は頷いていった
ゴロリもこの話は信じてよさそうだと思った
「やらなかった、と?」
「出来なかったが正しいねえ」
「出来なかった?」
「金髪だよ。あいつがまとめてどっか飛ばしちまった」
瞬間移動が使えるというのは確かに聞いたが
ゴロリは疑念を募らせた
「じゃ、じゃあオカンは金髪に閉じ込められてるのか?」
「賢くなったわねえケルル。そう、金髪に閉じ込められてるのよ」
ケルルの質問に嬉しそうなようにして、竜は答えた
もうアニーは金髪で定着しているんだな。ゴロリは少し思った
「……待て。それだったらフールと衛兵もいたはずだ」
「金髪のせいでしょ」
肘杖を付き、竜の態度は相変わらずだった
怪しいが論破できない。情報が少なすぎる
ゴロリは腕を組んで悩んだ
「……その障壁を壊すことはできない。アニーが全てやった
要はそういうことか?」
「理にかなってないかい?」
肘杖を付いている竜はゴロリの言葉に空いている片手を広げた
「……最後に一つだけ教えてくれ
本当にケルルの母親なんだな?」
「そうさ。ケルルの母親はアタシだ
そもそも、名前をいったのもアタシが先だろう?」
「……わかった。ケルル、アケミ。引き上げよう」
ゴロリは一旦確認しようと踵を返した
「わかりました」
アケミもそれに応じて、立ち上がった
「おっちゃん。あたし、もう少しオカンと話してていいか?」
「構わない」
ケルルは立ち上がり
ゴロリが通り過ぎようとするところで聞いた
ゴロリも二つ返事で応じ、立ち止まった
「なぁ、オカン。いなくなったのはなんでだ?」
「……ああ、そのこと。貴女はかわいいけど
この障壁が邪魔で会いに行けなかった。ごめんね」
この話をする竜はどこか人間らしくゴロリには見えた
「わかった……出してやる
オカンはあたしが絶対に出してやるから待ってて」
長い間、閉じ込められていたのか
ケルルのおかげで収穫があったとゴロリは思った
「……いいか? ケルル」
「うん、ごめん。おっちゃん」
ケルルはアケミの後ろに続いた
「……ちょっと待ちなさい
そういえば名前を聞いてなかった」
「……ゴロリ。シノズカゴロリだ」
ケルルの母親であることは間違いないと確信し
ゴロリは竜に背を向けながら名乗った
「ゴロリ、覚えとくといいわ
実をいうと貴方の力のタネ、わかっちゃったの」
「なに!?」
ゴロリが振り返ると赤い光線が寸分狂わず
ゴロリの足元近くの地面を貫いた
光線は竜の指先から放たれたもののようだった
「……アタシの嘘はこれだけ」
つまり、この竜はいつでも俺を殺すことができたということか
ゴロリは冷や汗をかいた
「ごめんなさい……反応できなかった」
「……確かに、今のはオカンといえど許せない」
「アケミ、ケルル。おまえたちのせいじゃない
俺も考えなくてはいけなかった」
アケミの謝辞とケルルの思いにゴロリは気が引き締まった
「心配しないで。もうしないから」
「そうだろうな」
竜はゴロリに指を振って見せた
竜が放った光線によって逆にゴロリは安心していた
「……本当に大丈夫か? おっちゃん」
「ああ。行こうか」
ケルルの心配にゴロリは頷いて、出口の方向に向き直った
「……ゴロリ」
「なんだ?」
竜の呼び掛けに、ゴロリは首だけ振り返った
アケミとケルルが竜に何やら身構えていて
ゴロリは自分が情けなく思った
「ケルルを、頼んだわ」
「……わかった」
竜の意外な一言にゴロリは正面を向いて答えると
巨大な門をくぐった




