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叩き直すそうです

「ぐぬぬ……おのれ、俺をコケにしおって

 次はただでは済まさん」


 男は見知らぬ草原にいた

 周囲を見ても人の気配は感じない


「……むぅ。先へ進むしかないのか」


 服についた葉を適当に払い、歯ぎしりをした

 少し考えて、男は駆け足で先へ進んだ




「きゃーっ!」


「むっ」


 男が進んでいる最中で女性の叫び声がした

 男はそれに気がつくと迷わずに向かった


「た、助けてぇl


 丸太のような四肢と豚によく似た顔。腕に持つ巨大な棍棒

 モンスター。男の頭にそれまでは浮かんだ


「で、貴様は何をしている?」


 男は腕をくみ、仁王立ちしていた

 モンスターに今にも襲われそうな少女をゴミを見るような目で見た

 少女は涙でどんな顔かわからなかった


「ブグオオッ!」


「助けてぇっ、助けてぇ!」


 少女は這うようにして男に近寄った

 しかし、モンスターはもう少女のすぐ後方まで追い付いていた


「何だ、その有り様は!?

 悔しいと思わないのか。やり返せ!」


 男はついに少女を怒鳴った


「あ、脚が動か……あれ? 動く。脚が動く。何で?」


 少女は羽がはえたように立ち上がった


「ほら、動くではないか。そのままやってしまえ!」


「何かわかんないけど、気合い入ってきた」


(ふむ、構えに余裕があるな。恐らくは勝てる)


 少女はモンスターに立ち向かった。攻撃的な構えをしていた


「ブオォッ!」


「貴様もそろそろうるさい。近所迷惑だ!」


 少女に逆上するモンスターも、男の一喝によって一瞬だが萎縮した


「うりぁっ!」


「ボッ……!?」


 少女の全身から解き放った鉄拳がモンスターの腹の贅肉を震わせた

 そして、モンスターは天を仰いだ




「やるではないか」


 男は少女に向かって満足げに頷いた


「い、いやぁ。それほどでもない」


 少女は恥ずかしいのか頭をかく。男は全く関係のない所に目がいった

 弛んだ髪と目の色をしている。高校生がパンクバンドをしたような色だった

 染めているだとか、カラーコンタクトを入れているとしか男には思えなかった


 腹が立つが、髪は束ねてあったので良しとした


 次に、少女の腕を見た。確かに筋肉質ではある

 体つきとは釣り合わず、あどけない顔をしているので男は少し腹が立った


「それで、貴様は何をしていた?」


「うーん、迷っちゃってさぁ

 よくあるんだよね。おっちゃん、地図読める?」


 男はおっちゃんという単語に眉を吊り上げるも、頷いた


「んあー、どこだっけ。えーと」


 少女のポケットの中から出てくる紙屑に震えながらも、男は待った


「これだ。ほら下が森だろ? で、上が街なんだけど

 どう進んでもダメなんだ」


「……逆さまに見ているのではないか?」


 男にはそこに書いてある文字がどういう意味なのかはわからなかった

 ただ、街や森の絵が真っ逆さまになっているのは流石におかしいと思った


「あーそっか。有り難う、おっちゃん。これで帰れる」


「……大丈夫か?」


「うん。一人でも行けるって」


 少女は男に手を振ると、嬉々として道を進んだ

 男は思うところがあって、そこに止まることにした




「あれぇ!?」


 しばらくすると、少女は男の場所に戻ってきた


「……もう一度聞く。大丈夫か?」


 男の予感は的中した


「……ダメかも」


 悪気はない。分かっていても男は震えた


「地図を貸せ。俺が先導してやる」


「いいのか?」


「ああ。特別だぞ」


 男は地図を見ながら微笑んだ




 男を先頭に一列に並んだ二人は草を掻き分けながら進んだ


「おっちゃんはさぁ、なんであの森にいたんだ?」


「知らん。おまえが叫ぶから行ってやったのだ」


「そっか。悪いことしたな

 あたしもそんなにしくじらないと思ってたから、今回で自信なくしたよ」


「バカをいうな。その筋肉は飾りか?

 自分くらいは護れ。護れないなら逃げろ」


 男には自信をなくしてしまう程追い詰められた状況だったとは思えなかった


「はーい!」


 少女は元気に答えた




「ここか?」


 少女に街といわれ、男は住宅街を妄想していたが

 城下町といった方が近いのではと思った


「おう。ここだここだ」


 先に検問所の様なところがあった

 ごつい鎧を着た衛兵が二人、見張りをしていたが

 二人とも鼻提灯を膨らましていた


 男は震えた。弛んだ衛兵にただただ、震えた

 同時にこれは好機でもあった為、指摘できないというところが

 主に男の頭を沸騰させていた


「おおっ……」


 検問所をでると想像以上の賑わいを見た

 民族衣装に身を包む人が行き交い、屋台が並ぶ

 そこには笑顔があって、実に平和な雰囲気を醸し出していた


「ん? おっちゃん、もしかしてはじめてかい?」


「ま、まぁそうだな」


 ここは嘘をついても仕方がないと少女の言葉に正直に答えた


「最初は取り敢えず、登録だな

 さっきがあたしがやっつけたオークの一部をギルドに持ってけばいい」


 少女はオークの髪らしきものをひらひらさせながらいった

 男はそんな少女に不満があるのか、腕を組んで睨んだ


「その話し方だと、俺が貴様の獲物を横取りしたように思えるな」


「そ、そんなつもりねぇよ。ホントだって」


 少女は苦笑いを浮かべた


「ふん、まぁいい

 それで、ギルドに登録して俺になんの利点があるのだ?」


「身分証明になる

 あたしはランク兎だからそんなんでもないが

 おっちゃんなら、熊位はいくんじゃないかな?」


「よくわからんが、そいつを持っていって登録すればいいんだな」


 ランクという言葉に疑問符を付けたが、男は頷き少女からオークの髪を受け取った


「ああ。そうしてくれ」


「それで、ギルドはどこだ?」


「目の前に城があるだろ。その右隣がギルドさ」


「なるほど……分かった。行ってみよう」


 男は少女とは一旦別れて、ギルドに向かった




(結構広いじゃないか)


 中には酒を飲む者、手伝いを乞う者などでごった返していた


「おう。用件はなんだね?」


 受付の男はこぢんまりとそこに座っていた

 男は受付の男を一目見て、マッドサイエンティストにいそうな風貌だと思った

 爆発した髪の毛は弛んでいると思ったものの、今回は我慢した


「オークの髪だ。これがあれば登録できると聞いた」


 男はポケットからオークの髪を出すと受付の男に提出した


「むっ、そうかい。ちょいと待ちな」


 受付の男は受付の奥に消えた




「……遅いな」


 気の短い男にとって、長時間待つことは拷問だった


「……待たせた。確かにオークの髪だ。これは一体分だね?」


 日が陰るまで待って、ようやく受付の男は戻ってきた


「そうだ」


「名前は?」


「……ゴロリ。シノズカゴロリ」


「ゴロリか。わかった

 審議の結果、ランクは一番下の兎から始めて貰う。確かめてくれ」


「審議……よくわからんが、貰っていいんだな?」


 ゴロリは受付の男から名前入りのカードを貰った

 審議という言葉に、目を鋭くさせたがさして気にも止めずに目を通す

 大きく赤で兎と刻印されている


(……大きさは免許証程なんだな)


「なくしたらまた作り直さなけりゃならん

 その分取引も面倒になるから注意してくれ。ま、期待しているよ」


 受付の男は隙歯を見せながらゴロリを見送った




「こんなカード如きが俺の身分証明証だと……ふざけおって」


 ゴロリは身分証明証を観察するのつれて、段々と腹を立てた

 紙質は悪く、便所で使う紙の芯でも使っているのかと思う程だった


「……いうことが聞けないのか!?

 このっ、役たたずめ!」


「うぅっ」


 ゴロリが腹を立てながら街を歩いていると

 首輪をしたボロ衣を着た少女が豪華な服を着た男に鞭でしばかれていた

 最初は通り過ぎようと思った。しかし、ゴロリは見てしまった


 馬車だった。といっても、馬が引くのではない。少女が引いていた


「……おお。いいぞ」


 ゴロリは感動した

 そうかそうまでして鍛練する人間が生きていようとは、と


「このっ!」


「何をしている!?」


 豪華な服を着た男の鞭がうねる

 その前にゴロリは叫んだ


「あぁっ!?」


「貴様ではない!」


 豪華な服の男が反応すると、足蹴にするように吠えた


「えっ……?」


「そうだ、貴様にいっている!」


 ゴロリは少女を指差すとそういった


「腰が入っとらんな。もっと腰を入れろ、穀潰し!」


「……えっ。は、はい」


 少女はゴロリの言葉を素直に聞いた


「な、なんだ。この女、急に元気になりおって――」


「貴様のやり方は温い! 黙っておれ!」


 ゴロリは豪華な服を着た男に対してもっと指導するべきだと思った


「ほら、腰を入れて。ダッシュだ! お前ならできる!」


 ゴロリはジェスチャーも交えながら少女に訴えた


「……こ、こうですか!」


「の、のあーっ! と、止まれ。止まらんかあ!?」


 ゴロリの指導を受けた少女は素晴らしい早さでどこまでも走っていった


「うんうん。鍛練の成果だな」


 ゴロリは少女を満足げに見送った

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