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空気なようです

 ゴロリ達はランクを上げるためにカードを受け渡し

 新たなカードを貰うと、砦の恵みへ逃げるように駆け込んだ


「二人とも、大丈夫か?」


 3人は適当に席に座って、ゴロリはアケミとケルルを見た

 二人とも酷い顔をしていた


「……あたしはまぁ、大丈夫」


「そうか」


 ゴロリはケルルの顔を覗き込んだ

 とても言葉通りには見えないと思った

 アケミは終始俯き、黙り込んでいた


「なんか食おうアケミちゃん。腹減っただろ?」


 ケルルは無理やり明るくなっていると表情で分かった

 アケミはケルルの言葉に反応し、ゆっくり頷いた


「アケミと二人の時はフライビーンズを食ってるんだ」


「えっ、嘘だろ」


 ゴロリは少し冗談めかしていうと、ケルルが対応した

 彼女なりに気を遣っているのだろう

 ゴロリは少し汗が出そうになった


「案外腹に溜まるぞ。食ってみるか?」


「えっ、えー。あたしは肉の方が好きだなぁ」


「まさかとは思うが、肉しか食ってないのか?」


 ケルルは肉食というイメージがゴロリにもあった


「……そうかも」


「野菜食え、野菜。美容に良いぞ!」


「美容ってなんだよ。食い物か?」


「食い物ではないな」


「ふふっ、クク……っ!」


 ケルルとゴロリが話をしていると

 アケミはついに吹き出した


「んだよ、急に笑うなって。釣られるだろ!」


「ははっ、違いないな」


 ケルルとゴロリも釣られて笑った


「はぁー、ゴロリさん。なんだかお腹空いちゃいました」


「わかった。頼んでくる」


 ゴロリにはアケミの顔がどこか吹っ切れて見えた

 ゴロリは前に失ったものを数えるなと言いつけた時のことを思い出した


 満足そうにゴロリは席を立つと、カウンターに向かった

 ふと新しくなったカードを取り出した

 赤く熊と印が押されている以外は変わっていない


 このカード一枚のためにあれだけの話していたのか

 ゴロリは滑稽に感じた




 ゴロリ達は腹ごしらえを済ませると、受付に向かった

 監視役という奴の人柄を掴むということで話がまとまったからだ


「おい、じじい。薬草の依頼を出せ」


 ゴロリはマッドサイエンティスト風の受付の男に

 ぶっきらぼうにいった。その態度にアケミとケルルは苦笑いした


「いわれんくとも出してやるさ。ゴロリ」


 男は滑らせるように依頼書をゴロリに手渡した

 いつもの調子でいってくるのでゴロリは少し腹が立った


「んで、今回から変人と一緒なんだろ?」


「まぁな」


 男が頷くと、見計らったようにアニーが受付奥から出てきた

 ゴロリはアニーに不信感しかなかったが、仕方ないと割り切った


「変人扱いとは酷いじゃないか」


 やはり口調が軽い

 ゴロリは久しぶりに叩き直したくなった


「約束は守る。下手なことはするな。それだけだ」


「うん。それなら空気だと思って構わないよ」


 それができれば苦労はしないとゴロリはいってやりたかったが

 面倒なのでやめた




 ゴロリ達は街近くの草原を歩いていた

 アニーとゴロリは並列して進み、その後ろにアケミとケルルが続いた


「そういえば、ケルルとは初めて薬草取りをするな」


「あー、そうかもな」


 ゴロリは少し大声でいうと後ろからケルルの答えが返ってきた


「わたしとゴロリさんでも沢山取れましたから

 今回はもっと取れますね!」


「そうだな」


 ふと、ゴロリは疑問に思った

 アニーはずっとこの調子なのだろうかと

 それならそれで有り難かったが、なんだか不気味だった


「……なぁ、貴様は参加するのか?」


「ああ、僕は遠慮するよ。この通り目が不自由でね」


 アニーはずっと目を瞑っていた

 その割には普通に歩いてるじゃないか

 ゴロリは喉まで出かかった言葉を飲み込んだ




 ゴロリ、ケルル、アケミは薬草が密集している地点を見つけ

 しゃがんで草を取っていた


「……早いな、おっちゃん。アケミちゃんも」


「そうか?」


「普通ですけど?」


 ゴロリとアケミの間にはすでに千切った草の山ができていた


「あたしも取らないと……」


「いいですか、ケルルさん。葉の部分をこうもってシュバーですっ!」


「なるほど、こうもってシュバー! あっ」


「そういうこともあります。再チャレンジです!」


 アケミがケルルと頑張っているのを余所に

 ゴロリはずっと立っているアニーを見た


 こうして見ると、本当に空気だな

 ゴロリは然程気にならなくなり、手元の草を千切った




「グォオオッ!」


 ゴロリ達はしばらく薬草を取っていると

 遠くから咆哮が聞こえた


「アケミ、ケルル!」


「は、はいっ」


「おう」


 ゴロリは薬草束をもって即座に立ち上がった

 アケミとケルルも直ぐに立ち上がる


「薬草は持った?」


 終始無言を貫いていたアニーがゴロリ達に駆け寄った

 その言葉には一切緊張感はなく

 ゴロリは狐につままれたような気分になった


「どうするつもりだ?」


 アニーはゴロリを確認するように顔を向けた

 薄目でも開けているのだろうか。ゴロリは少し思った


「来たら止めるだけ。街から近いし、迷惑だもん」


 今、アニーの口調に感情を左右されるのはやめにしよう

 ゴロリはそう思うと、振り返ってアケミとケルルを確認した


「持てるだけでいいぞ。どうせまた来るんだ」


「だ、大丈夫です!」


 アケミは抱えるようにして持った薬草を溢しながら進んでいた

 それに対して、ケルルは両手に薬草を持っている


「ケルル、先導は任せた

 アケミ、ケルルの後ろで歩け。俺は殿を勤める」


「ああ、わかった」


「は、はい!」


 ゴロリの指示を聞いたケルルとアケミは

 ゆっくりとゴロリを追い越していった


「……わかってるとは思うけど、使っちゃダメだかんね?」


 アニーとゴロリは調度背中合わせになっていた


「貴様がしくじらなければな」


「それは責任重大だ。頑張るよ」


 アニーはゴロリの嫌味をかわした

 なんなんだとゴロリは思った


「……ケルル。先へ進もう!」


 ゴロリの言葉にケルルは片腕を上げて答えた




「なんだか慣れたよ。この量も」


 マッドサイエンティスト風の受付の男は

 山盛りになっている薬草を手際よく木箱に入れて持ち上げた


「……あの人、大丈夫ですかね」


「気になるか?」


「そうですね。流石に」


「……まぁ、確かにな」


 アケミの言葉にゴロリは頷いた

 アニーはまだ戻ってきていなかった


「僕ならここだけど?」


「うおっ!?」


「ひっ!?」


「ななんだ、幽霊か!?」


 ゴロリ、アケミ、ケルルは受付奥から出現したアニーに思わず驚いた


「ごめんごめん。僕は移動魔法が使えるんだよ」


「……なんだって?」


 ゴロリは素直に聞き返した

 わからない単語があった


「……瞬間移動ね。瞬間移動」


「ははぁ、便利だな」


 ゴロリは少し納得した

 銭湯へもひとっとびだなとか下らないことを思った


「……あそこまで来たのは森が焼けてるからだと思うよ」


「じゃ、しばらくはおまえに世話になる訳だ」


「申し訳ないけど、そうなるね」


 ゴロリはアニーの言葉にゆっくりと頷いた

 覚悟を決めよう。ゴロリはそう思って口を開いた


「なんというか、黙られても気味が悪いと思ったんだが」


「それは有り難いけど、いいの?」


「そこを聞くかね……仮にも俺達はチームだぞ」


 ゴロリはアニーの反応が信じられなかった

 これだから最近の若い奴はと思った


「……チーム、か。わかったよ。やってみる」


「頼むぞ。本当に」


 急に自信がなくなったアニーにゴロリは念を押した


「そ、そうそうゴロリさん、ちょっと後ろ向ける?」


「あ? こうか?」


 ゴロリはアニーの言葉に素直に従い、後ろを向いた


「ひーるひーべすと!」


 アニーはなぜか片言で詠唱した

 すると、後ろを向いたゴロリでもわかるくらい光った

 緑色の光だった


「き、きれー」


「えっ、ちょっ」


 アケミは凝視して、ケルルは目を背けた


「だ、大丈夫か二人とも!?」


「あんな綺麗なの初めて見ました!」


「ま、まぁ眩しいだけだったからな」


 アケミは目を輝かせていた。光るものが好きなのだろうか

 一方、ケルルは光が苦手のようであった

 ゴロリは二人の反応を見て、アニーの方向を見た


「おい、なにするんだ。いきなり」


「ご、ごめん。慣れないことはするもんじゃないね」


「はぁ!? なにを――っ!」


 ゴロリは複雑な気分で背中を触った

 火傷が治っていた


「うおーいっ、ブレイズ。喋っとらんで手伝わんか!」


「は、はーい。じゃあまた!」


 受付の男の声が奥から聞こえるとアニーは奥に入っていった

 なんだかよくわからない奴だ。ゴロリはそう思うことにした

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