上がったようです
「もういいぞ、アケミ」
「だ、大丈夫ですか?」
「大したことはない」
ゴロリはアケミの背から降りた
アケミは心配そうにゴロリの顔を覗くが
ゴロリは平然としていた
「アケミちゃんがおっちゃん背負ってるとちょっと面白いな!」
「そりゃそうかもな」
ケルルの冗談をゴロリは笑い飛ばした
なぜかアケミは少し顔を赤らめていた
(こいつらいつも寝てるな)
ゴロリは先頭を歩き
相変わらず鼻提灯を膨らませている衛兵を
無視して街へ進んだ
ゴロリ達は早速ギルドに行った
「ゴロリ。大丈夫だったか?」
「まぁ、背中はスースーするけどな」
マッドサイエンティスト風の男が
白衣らしきものをなびかせてゴロリ達に駆け寄った
「あの竜と遭遇してその程度か
予想はしていたがこれほどとは……」
「なにか問題があるのか?」
「……死んでも文句はなかった」
「なるほどな」
男の様子を見るに、ただごとではないとゴロリは察した
「……君たちはランクを上げる気はないかね?」
「ランクを上げると良いことがあるのか?」
「……というよりは
生き残った事実を少しでも納得いくものにせんと面倒になる」
「面倒?」
「精鋭部隊に引き抜かれ、一生国に使える
……面倒だろう?」
騎士が来たときのようにということだろうか
ゴロリは思わず身震いした
気色が悪い。騎士に関してはそういう感想しか抱いていなかった
「なぁ、前から気になっていたんだが
……なぜそんな話をしてくれるんだ?」
「その答えは後でいおう
わたしは準備をするからそれまでに決めてくれ」
足早に受付に戻っていく男をゴロリは見送った
「どう思う?」
ゴロリは振り返ってアケミとケルルの間に目を向けた
「わたしは信用できると思います」
「そうか、ケルルは?」
即答したアケミにゴロリは頷き、ケルルに顔を向けた
「精鋭部隊か、正直ちょっと惹かれるんだよな……ごめん」
「いいや、そういうのも大事だ。奴に詳しく聞いてみよう」
ゴロリはケルルがあの騎士と逢っていないことを考慮した
ゴロリではまだ釈然としない部分もあって
うまく説明するのは難しいと思った
「……決まったかね?」
受付の男がゴロリ達の元に戻ってきた
「あ、あのさじーさん!」
「なんだね?」
ゴロリは自分が質問しようと思っていたので
ケルルが質問したことに少し驚いた
「精鋭部隊ってそんなにダメなのか!?」
「君は確か……ケルルといったね
わたしは君のお母さんも知っているよ」
「えっ……!?」
ケルルは受付の男の言葉に分かりやすく動揺した
「ゴロリ。いいかね、その力は隠し通すべきだ
わたしはそう思う」
どうやら、あの言葉で解決したらしい
ゴロリはよくわからないがケルルの肩に片手をおいた
「……今回で全て説明できるのか?」
ゴロリは今更この男を疑問視する気もなかった
それほど、この男には助けられてきていた
「そうだな。納得いくように努力する」
男が頷くと、ゴロリも小さく頷いた
「ケルル、それでいいか?」
「うん……」
ケルルは上の空ながらも、頷いた
「アケミも、いいか?」
「……はい」
アケミはケルルを気にしつつ、頷いた
「ゆこうか」
男を先頭に、ゴロリ達は進んだ
ゴロリ達は男の案内で受付の奥まで招待された
中は机と椅子があり、本が乱雑に積んであるような一室だった
「……客を呼んでおる」
受付の男は椅子に座る男をゴロリ達に紹介した
「アニー・ケアル・ブレイズ。アニーだよ」
紹介に彼は読んでいたらしい本を後ろに放り投げ、軽い口調でいった
目は瞑っていた。髪は金髪のオールバックで、全体的に白い服を着ていた
聖職者。咄嗟に浮かんだのはその言葉だったが
髪色を見ると、それも違う。異質だとゴロリは思った
「……ちょいと変わっとるが、友人だ
この件に関しても詳しいだろう」
「そうなのか」
ゴロリはアニーに不信感しか抱いてなかったが、少し緩和した
「なぁ、ゴロリよ。まず、この話はしたくないということを頭に入れてくれ」
「……わかった」
いつになく、真剣な顔付きをしている受付の男にゴロリは頷いた
「ゴロリ。この世界の建造物で不思議な点は見当たらなかったかね?」
男がゴロリに問いかけた
「俺の知っている言葉で書いてあった施設があった」
「やはりそうか……」
ゴロリは男に思ったことを口にしたが
ケルルとアケミが全く付いていってない気がした
「昔、この世界には勇者という絶対の存在がいた
わたしも、彼も、そしてケルルの母上もそれに巻き込まれた」
「……そ、そんな。有り得ない
だってあたしのオカンは人間が嫌いだったはず」
ケルルはアケミに支えられていた。倒れそうだった
「関係なかったのだろう。君の家がその証拠だ」
「待ってくれ。話がよくわからない」
ゴロリは口調が強くなっていた
男に不信感があるわけではない。ただ、長かった。長く感じた
「君のように突如として現れては、魔物を排除していったんだよ」
「……なにが問題だったんだ?」
「性欲、かね。凄まじかった」
これにはゴロリも悪い意味で吹き出してしまった
「それが俺達となんの関係がある?」
「……彼は今、魔力の根源としてとある島に隔離されている
いいかね、ゴロリ。あの力は出すだけで罪なのだよ」
「……そうなのか」
ゴロリは確かにと思う点はあった
突如として現れた存在が、物凄い力持っていたらそうなるのかもわからない
「それでだな……アケミ。君にもいっておきたい」
「……へっ?」
ケルルを支えることに夢中だったアケミは間抜けな声をあげた
「恐らくだが、君は勇者の血を多く継いでいる」
「……えっ」
アケミは少し体を震わせた
男の顔は真剣だ。冗談はいっていないようにゴロリにはみえた
「だから、なんなんだ?」
ゴロリはいい加減、うんざりしていた
「ゴロリ。正直、わたしも驚いている
彼女を見て、勇者という存在を肌で感じたのだ」
「……つまり、俺達はその糞みたいな勇者と同じっていいたいのか?」
「そうなる前に止めておる」
ここまで来てゴロリは思った
そうだったのか、と。不思議と虚しかった
「そうそう。なにもフールは君たちを責めているんじゃないんだよ
僕も君たちのランクが上がったら、監視役を勤めるつもりだ」
「一生国に使えるか、さもなくばよくわからん男とつるむかの二択か」
ゴロリは片手で頭を抱えて考えた
「そうだ。そう思ってもらって構わない」
「微妙に酷くないフール!?」
「ランクを上げてくれるか?」
男はアニーを無視してゴロリに質問した
「……わかった。ランクは上げる」
「……そうか」
ゴロリの決断に男は神妙な顔をした
「ただし、アケミとケルルの安全が条件だ。いいな?」
「心配いらん。わかっておる」
男が頷くとゴロリは思った
この男に恩を感じることはなかったのか、と




