やることやったようです
(上乗せか……上乗せ!?)
ゴロリはふと赤髪の少女を見た
満足そうな顔をしている。これはいっても無駄だなと悟った
「……そういえば、名乗ってなかったな」
「ゴロリさんだろ。知ってる」
「そうか、そうだろうな」
ゴロリをゴロリとして覚えられる機会は多かったかもしれない
少し思った
「あっ、もしかしてあたしも名乗ったほうがいいか?」
「そこを聞くかね」
「そっか。そうだよな」
赤髪の少女は今回に限らず、急に脱いだりして常識がないところが目立った
それなのに、ゴロリは赤髪の少女に独特の安心感得ていた
「あたしはケルル。ケルル・ドべッカ・ローズ」
「……まぁ、改めてよろしくな。ケルル」
随分とという言葉がゴロリの頭を掠めた
ゴロリは気を取り直すようにケルルへ片手を差し出し、握手を求めた
「……ん?」
「気にするな。挨拶のようなものだ」
ケルルはゴロリの差し出した手をまじまじと見ていた
握手を知らないようだ。ゴロリは何となく察して手を下ろした
「へぇ……そういや、そこの嬢ちゃんは?」
「アケミ、こっちに来てくれ」
「……はーい」
ゴロリは特等席に座るアケミを呼び掛けた
アケミは少し名残惜しそうに席から離れた
「彼女はシノズカアケミだ」
「えっ、あっ。アケミです」
アケミはケルルに深く礼をした
「ケルル・ドベッカ・ローズ。ケルルでいい
……シノズカか、聞いた名前だな」
「……シノズカは俺の名前だな。彼女は娘だ」
ゴロリは以外と鋭いなと思った
まぁケルルならば良いだろうといっておいた
「へぇ、そうなんだ。娘さんかっ!
うんうん。それとなく似てるよ!」
「えっ、そうですか!」
似ているとの評価にアケミも嬉しそうであった
ゴロリは決意した。ケルルが困っていたら迷わず助けよう、と
「なーんだ、おっちゃんもやることやってたのか」
「……あっ、ああ」
ケルルの返答にやっぱりいいかとゴロリは思い直した
「じゃっ、あたしはこれで。じーさんカードくれ!」
ケルルはマッドサイエンティスト風の受付の男に
自分のカードを貰いにいった
受付の男と別れたあと、砦の恵みにて夜食をすませて
ゴロリ達はギルドの外に出ていた
「アケミ。今日はどこかまともなところに泊まろう
疲れただろ」
「えっ、ええ。まぁ……二人で、ですか?」
「気を使うか。なら別々に――」
「そうとはいってないじゃないですかっ」
アケミは何故に少し怒っているのだろうとゴロリは思った
「そうか、とりあえず宿を探そう」
「はいっ!」
ゴロリは何故か上機嫌のアケミを見て、微笑んだ
「あれじゃないですか!?」
一番初めにアケミが見つけた宿は建物が若干ピンクだった
「違うな」
ゴロリは短く答えた
「あれは!?」
次にアケミが探しだしたのはボロボロの宿であった
「ダメだ」
ゴロリは即答した
「あそこは!?」
「……高そうだな」
最後はレンガでできた建物だった。ここの辺りでなるほどと思った
アケミに宿選びは任せないほうがいいな。そうゴロリは直感した
「ここも宿?」
「えっ、はいっ」
結局、ゴロリがアケミの助けを借りてそれらしい建物を見つけた
その建物は簡素ではあったが、どこか懐かしく感じた
「入ってみるか」
「はいっ」
ゴロリを先頭にして、建物の中に入っていった
「いらっしゃい。素泊まりかい?」
店主はハゲで図体が大きいおっさんだった
「ああ。二人で泊まれるか?」
「……そうだな。階段上がって一番奥を使うといい
洗濯くらいはしてやるから気にするな」
ゴロリは誤解しているかもしれないと思ったが、指摘するのはやめた
アケミは何故かゴロリの腕にしがみついていた
「カードを寄越しな」
「……カードか、わかった。下手な真似をするなよ?」
「そう怖い顔するなって。何もしやしねぇよ」
ゴロリは一度威圧して、店主の顔を観察した
おそらく大丈夫だ。ゴロリはそう結論付けてカードを渡した
「わーい、ベッドだっ!」
アケミは部屋に入るや否や無邪気にベッドの上に乗って跳ねていた
「……アケミ。疲れたんだろう?」
「ごめんなさい。つい……」
ゴロリはそんなアケミをたしなめた
アケミはゴロリの言葉を聞いて正座した
ゴロリもさして指摘することはできなかった
「……寝ますっ」
アケミは潜り込むように布団をかけると横になった
「すまないな、アケミ。今日は頑張ったもんな……」
ゴロリはベッドの隣に背もたれのない椅子をおくと
一度だけアケミの頭をなでた
「ゴロリさんは寝ないんですか?」
「なんだか急に目が覚めてな。アケミが寝たら寝るよ」
「……そこに座って?」
アケミは何かいいたかったようであったが
この言葉に甘んじた気がした
「いや、そっちで寝るよ」
「……わかりました。おやすみなさい」
「ああ。おやすみ、アケミ」
ゴロリは部屋の唯一の照明であったランタンの明かりを消した
自分で自分が恐ろしく思った
ゴロリは飛び跳ねたアケミの体をじっくりと見ていたのだ
(こりゃ徹夜だな)
ゴロリは暗い部屋で一人、床に座った
「……ゴロリさん」
ゴロリはアケミの声を聞くと暗い部屋のベッドの辺りをみた
ぼやっとだが、ベッドが確認できる。その位長く床に座っていた
「わたしのこと嫌い、ですか……?」
「……俺はアケミが嫌いだなんて思っていない」
「ほ、本当に……!?」
「ああ」
ゴロリはアケミの質問に即答した
そうしなくてはいけない気がした
「……じゃあ、一緒に寝ましょうよ」
ゴロリはアケミが時折見せる寂しい顔が思い浮かんだ
「……そうしたら寝るのか?」
「はい……」
今日は疲れているはずだ。早く寝させよう
ゴロリはそう思って重い腰をあげた
「……いかんせん暗いからな。踏むかもしれんぞ」
「だ、大丈夫ですっ!」
ゴロリはベッドに乗って膨らんだ感触でアケミを確認すると
膨らんでいないところに座り、ベッドに潜った
「ゴロリさん……っ」
アケミは早速ゴロリの腕にしがみついた
震えていた。寒いわけではないと思う
いろんなところが当たっているが
こうしてみると、とてもそんな気にはならなかった
(すまない……)
ゴロリはアケミの寝息を聞きながら深く反省した
ゴロリ達は宿を出た後に、ギルドに向かった
「シノズカゴロリ、だな」
ギルドに入るや否や
衛兵を後ろに4人ほど連れている全身鎧の騎士らしき人物が
ゴロリ達を引き止めた
顔も隠れているのでよくわからないが
この声色は女だろうとゴロリは思った
「……なんのようだ?」
「そう身構えるな。この前の一件で感謝をしに来ただけだ」
カードの件か。ゴロリは少し納得した
「それだけか?」
「……さすがに鋭いな。わかった。本題にうつろう
わたしたちは今、竜を討伐する戦士を募集している」
「……ランク兎の俺たちにそれをやれと?
正気じゃないぞ」
「少し違うな。是非、彼女にやってほしい」
「えっ……」
騎士はゴロリの後ろにいるアケミの方向を向いた
アケミは動揺していた
「俺がそう易々と頷くと思うか?」
「聞けば、彼女はあの盗賊と随分な攻めぎ合いをしていたそうじゃないか」
「……それがどうした」
「彼女のランクは鹿だった」
「生憎、俺はランクの話がわからない」
鹿、熊、兎と聞いてゴロリには幼稚園しか思い浮かばなかった
「そうか、わかるようにいってやる
強かったんだ。この中で、誰よりも」
ゴロリは騎士の言葉を聞いて思い出した
確かに、あの身体能力は人の限界を凌駕しているようにも思えた
「そんな彼女をその娘は出し抜いた
……十分な理由だと思わないか?」
「ち、ちが――」
「……で、報酬は?」
ゴロリはアケミの言葉片手を挙げて制していった
「そうだな、隠居できるくらいっていえばわかるか?」
「……命をはってそれか。ダメだな」
「そもそもおまえには聞いていない」
「……話にならん。帰るか、アケミ」
「……ご、ゴロリさん」
アケミは不安そうな顔をした
ゴロリも恐ろしい話があったもんだと
アケミの肩を軽く押して後ろを向かせるとそのまま出口に向かった
「仕方ないな……」
「うっ!?」
衛兵4人が一斉にゴロリを取り押さえ
地に伏せた
「ご、ゴロ……っ!?」
「……案外貧弱だな」
全身鎧の騎士はアケミ口を塞ぎ、体の自由を奪った
「ふふ、フフフ……」
ゴロリは笑っていた
それほど、頭に血が登った
「……何をしておる」
ここで、聞き覚えた声が聞こえた
「これはこれは、フール公」
声色的に騎士が対応しているとゴロリは思った
「この場でその名は慎め」
「はっ、申し訳ありませんっ!」
「して、何事か」
「シノズカアケミを竜の討伐隊に任命したのでありますっ!」
「ではなぜそこの男を拘束しておる?」
「……最もなお言葉です。そいつを離せっ」
「はっ!」
(……本当に偉いには偉かったんだな)
ゴロリは立ち上がると服の埃を払った
「……ゴロリよ。大丈夫か」
「全く大丈夫ではない」
捕まったアケミはゴロリを見ていた
ゴロリはいつか見た、鬼の顔になっていた
「……ど、どうしたゴロリ。何かいいたいのか」
ゴロリのあまりの迫力に全身鎧の騎士は言葉をどもらせた
「何とかしてみる……いや、してみせる。抑えよ」
ゴロリはマッドサイエンティスト風の受付の男を見やった
冷や汗をかいていた。彼の皺が深くなっている気がした
ゴロリはそんな男に舌打ちしそうになった
そもそも彼を信用しない理由がなかった
「……貴方もご存知な筈です。竜は日々数を増しています
この街も例外なく攻撃してくるでしょう」
「この者らのランクは兎だ
ましてや、そのような娘を頼るのは些かな」
受付の男は隙歯をみせながら全身鎧の騎士にいった
「では、どうすれば?」
「……わたしが行こう。それでよかろう?」
「お、お言葉ですが
……もしものことがあったらどうなさるおつもりで?」
「トカゲの一匹や二匹数瞬で消し炭にしてやるわい
それとも、わたしの力がいらぬというのかね?」
「……わかりました」
全身鎧の騎士はアケミを離した
アケミは無言でゴロリに駆け寄って、抱き付いた
「わかったから泣くな」
「……ぅく、ごめんなさいぃっ」
アケミは戻ってきたが、ゴロリは未だに穏やかな顔をしていなかった
自主的に騎士の方向に進む受付の男を肩を掴んで引き止めた
「なぁ、本当にやるのか?」
「こうする他はなかろう。実際、名誉なことだよ」
「いやなら方法はあるぞ」
「……ゴロリよ。力というのは見せものではない
よく頭に入れておけ」
受付の男は言いながらゴロリの顔を一瞥すると、手を払って進んだ
騎士と受付の男を見送り、ゴロリは砦の恵みに来ていた




