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ゆずの花

・+10骸骨の杖

杖の先を頭蓋骨に摸した杖。


VRMMO『give A vocation』略称gAvガブで手に入る骸骨の杖を最大まで強化した物である。

その強化によって加わる補正は防具であれば防御力に。武具であれば武器攻撃力に補正が加わる。

決して、回避力や付加ステータス・魔法攻撃力に補正はかからない。

一部のレアには別の装備とセットで使う事で別の効果を生む物や、強化が一定以上あるいは一定未満ならボーナスのかかる物などもあった。


骸骨の杖はgAvにおいて、特筆すべき性能はない。割と手軽に手に入るそこそこ使える・・・杖でしかない。

基本的に強化される事ない、強化するぐらいなら買い変えられてしまう武器だ。


勿論、ゲンゾウもそれは知っていた。そして普段使う分には装備していなかった物だ。

ゲームで最初にひ孫ゆずに貰った装備だったというだけで。

正直、それをここまで強化したのも運の無駄使いというか、無茶をするというか・・・である。




「・・・魔王様。それは一体何なのでしょうか?」

生魔はゲンゾウが一息付くのを待ってから声をかけた。

「あぁ・・・これはな。ワシの大事な杖じゃ。」

そのままゲンゾウは軽く目を拭い、生魔の方へは向きもせず、軽くリストに目を通して行く。

ゲンゾウがゲームでまともに使っていた物や消耗品などは、そのアイテムボックスには残っていなかった。

きちんと整理された結果なのだろう。

そしてリストの一番底に1つの消耗品が入っていた。

「まさか・・・」

ゲンゾウはおそるおそるそれを手に取った。



ワシの頭は真っ白じゃった。無論頭の外側ではなく中側の方じゃ。


アイテムボックスもさる事ながら、そこにこの杖が入っていた事。

その事でこのアイテムボックスがワシのgAvのアイテムボックスに違いないと示していた。

そして魂1つで呑まれたと思っていた此処でもう一度思い出を手に出来ると思わなかった事に驚きと感涙を隠せなかった。また無念を想起させる事でもあったのだが・・・ゲンゾウは抑え込み飲み込む。


生魔の声も正直、ほとんど聞き流しておった。言葉の意もロクに考えず返答を返していた。

ワシはリストを流し見しながら、有る物無い物を確認していく。

役立つ物がしっかりと無くなっているのを見て、ゆずのしっかりさ加減に笑みと、その後の惨事がよぎり喉奥に苦味を感じる。

そしてリストの底には、プレゼントボックスと書かれていた。


・プレゼントボックス

使用するとアイテム制作者からのプレゼントとメッセージが込められている。


ワシはただ体が動くまま心の流されるままに、アイテムボックスより取り出し、プレゼントボックスを開けた。

軽い光の後手には、花束とその上にチラシのようなメッセージウィンドが開く。


『お爺ちゃんへ

柚美です。無事に着きましたか?天国はどんな所ですか?閻魔様はgAvのみたいに大きかったですか?流石にその閻魔様のドロップはお爺ちゃんでも狙わないよね・・・。一瞬ちょっと心配になってしまいました。

お爺ちゃんが亡くなってからもちゃんと学校にも行ってるし、少し寂しくなる事もあるけどgAvはやっぱり楽しいよっ。

お爺ちゃんのフル装備はちゃんとキャラに持たせて、お爺ちゃんの熱意に溢れる杖は流石に持ち出さずに倉庫にしまっておきました。

課金せずにデータをそのまま置いてたら、たぶん何時かは凍結、削除されちゃうんだろうけど、そしたら倉庫の中身事届いたりしてね。

この手紙がちゃんと読めた時の返事は・・・お盆にでも期待してみようかな(笑)

お爺ちゃんとたくさん遊べて、たくさん可愛がって貰って・・・本当に嬉しかったよ。

ありがとう。柚美より。』


・・・

真っ白じゃった。

視界は読み切るまでは、多少滲みながらも気合で抑えていたのじゃが末尾まで行くと、もう何も見えなかった。

何度も何度も心の奥底から温かさがあふれ出てくるのを感じる。その思いが胸一杯に膨れ上がる前に惨状を思い出し潰され破裂する。

壊れてしまえば楽なのだろう。いい加減にしてくれとも頭を過る。

しかし、幸せなのだ。

だけど、辛いのだ。


ゲンゾウは両手を床につき、その花束を背景に透かしたメッセージを、揺れる水面越しの視界で見ていた。

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