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全うせし者

魔王の私室より声が響き、部屋の中が模様替えされた後。魔王の配下達は調度品を再度揃えようと進言していたが、魔王はそれを受け入れなかった。

そして来る日もその叫びは轟いては途絶え。また轟いてを繰り返していた。

魔王の城は日の射さぬ場所ではなかった。木々は煩雑なほど繁り、四方には高くそびえ立つ山々も見える。城のを囲う周囲が開けた荒地となっている他はむしろ自然豊かな程であった。

城もまたその白さを魅せる作りであり、日の光を返す様には優美さも示していた。

ただ城の一部の場所のみ壁が黒く変色しており、時折光すらも差し込まぬ闇に包んでみせていた。


「先代は城を闇で包んでいられたのですが・・・。」

ローブ姿の者がそう言葉を漏らし中庭よりその一角を見つめる。

ゆったりとした白のローブに身を包みフードの中には仮面。いや中味は仮面しかない者。


・生魔のローブ

リビングアーマーの一種。魔王の側近を務める。


チラシを見るものがあればそう書かれている事に気付くだろう。またより詳しくチラシを見る者がいれば以下の付記もまた見られる。


直接討伐数:50023(但し食事の為の殺生は含まない。)

直接殺害数:17432


討伐数は自分と異なる種族の者を殺害した時に、殺害数は自分と同じ種族を殺害した時にカウントされる。

チラシにはそういった記録も残される。


「神さんにも知られていない秘密に関わるような事なのかもしれませんね。」

共通魔法『神さん』は神さんという存在である。正確に言うのであれば各地にいる神さんの存在を知るあらゆる生物から魔力を得て存在している。

もっと付け加えるのであれば、魔力とは『存在する力』そのものなのだ。


例えば魔力によって火をつける時。火を想像し魔力そんざいかんを与え創造する。

これが魔力である。

そして逆説的に強い存在感には強大な魔力を宿す。

広く知られる事。深く思われる事。その存在が増せば増す程に強い魔力を持つ。


魔王。そして勇者と呼ばれる存在も、その絶望や期待によって魔力を増していく傾向がある。

強くなる事で有名になると同時に、有名になる事で強くなる。

それが魔力の在り方だ。


そしてこれ程まで当たり前のように浸透している存在である神さんが膨大な魔力を有するのは当然であった。

無論。神様達もまた絶大な力を誇る。信仰という質の高い願いを身に受ける存在であるのだから。


「まぁ。今は待ちましょう。魔王様は既に目覚めたのです。今まで待ったのですからそれに加えて待つぐらい・・・。」

そうロープを揺らしながら仮面の穴は城の一角を包む闇を釘付けにし続けるのであった。




ゲンゾウが目覚めてしばらく魔王復活の報は自然と広がっていた。

それは各地の魔王軍の一部。直接先代魔王と関わりがあった者達のチラシを見た者達によって驚きと共に周囲に知らされていた。


曰く。魔王軍の各師団長のチラシが「先代魔王より任命された。」と書き変わっていた。

曰く。魔王御用達の品々のチラシが「先代魔王御用達」に変わっていた。

曰く。魔王の歴代を記す碑のチラシに先代魔王の名が乗った。

などだ。


特に魔王の名が乗ると言うのは大きかった。

代々『魔王』とは今現在の魔王を指す言葉であり、それ以前の魔王を指す時には魔王○○と記されるのが慣例だ。

先代魔王が魔王となった時も即位を表明した時には全て書き変わっていた。

近いうちに新な魔王が姿を見せる。と感情に違いこそあれど誰もが思っていた。




魔王ゲオルグ。それが先代でありゲンゾウと叫びを重ねた存在であった。

ゲオルグには娘がいた。魔王ゲオルグは娘を救い切れずに散った王であった。

ゲオルグの治めていた魔王領は非常に狭かった。それは歴代魔王と比べてはるかに狭いものであった。

それは各師団長に領地のほぼ全てを任せ城に篭っていた時期が長かった事に起因する。

評するなら、ゲオルグは魔王ではあったが王ではなかった。


ゲオルグを知る者、いや当時のゲオルグのチラシを知る者は多い。


魔王ゲオルグ

・魔王領に君臨し、八つの軍団を配下に従える。魔王サーリアを降した勇者でもあり、アレイシア国の王妃を誘拐した人物。


つまり魔王ゲオルグは勇者でもあったのだ。

それ故、種族の垣根を越えてこう称されてもいた。『神さんに愛されし者』と。




魔王の居城。幾度となく響いた叫びが無くなった頃には魔王領はおろか他大陸の者も魔王の新たな魔王の誕生を知っていた。

そして八つの軍団長もそのうち四つは居城へと訪れており、城の一室にある円卓を全部で6名が席を囲んでいた。


一人は、兜も鎧もローブも身に付けず飾り彫りもないが艶やかさを感じる鞘に納められた柄のない一本の剣を帯刀しているのみの人骨。

一人は、頭部に二本の角を(左に短い角を、右にはその倍の長さを誇るまっすぐ伸びた角を)有し、下あごより同じく二本の牙を覗かせる口。生命の色を濃く感じさせる木々の葉のように濃い緑色の体色を持ち3mはあるかと思われる体躯に鍛え抜かれていよう筋量を同じく濃い緑色にて染められた鎧の間から覗かせている者。

一人は、黒。全身鎧。その鎧の隙間からも黒しか覗けず、その輪郭は揺らいで見える。

一人は、紅色の髪。見る角度によって橙や黄色にも見えるその長髪は炎の如く見るものの関心を引く。肌の色は褐色の女性。他の二人とは異なり鎧を着ている様子はなく、整えた衣類の上に緋のマントを纏っていた。

そして、白髪。若干の黒が混じるのか灰色と白をみせるその髪を全て後ろへと流し整えた頭。額、まなじり、口元・・・それらに数多の年輪を刻み、切りそろえられた口髭もまた白さを見せている。白のカッターシャツに黒のベストで中央に座る初老の人物。その隣に立つローブ姿の仮面。


魔王が目覚めて以降。それが私室を出た最初の日だった。




「既に集まっておるのを邪魔するが・・・まずは待たせた事は詫びておこう。すまん。」

隣に控えるローブに初老の人物がそう声をかける。

「いえ。勿体無さ過ぎるお言葉です。魔王様。」

その言葉に頷きつつ、続いての魔王の言葉は視線を円卓を挟んで揃う4名へと向けて告げられた。

「お主らにも先に詫びておく。ある程度は聞いておいたが、まだ知らぬ事が多い。迷惑をかける。」

言葉こそ謝辞ではあるが、頭を下げる事はせず視線をまっすぐ4名へと向ける。4名もまた瞳を逸らさずしばし受けて後・・・。

「我と影は、そこで控える者と同じく主あってこその存在。魔王様が魔王であり、命と信を頂けるのならそれに応ずるのみ。」

「・・・」

骨がどうやって発せられているかわからぬ言葉と共に右手で作られた拳を胸にあて応え、それを受けて黒もまた拳を当てる。


・骨剣士カリッツ

(先代)魔王軍第一軍団の長。幾戦を潜り抜け研鑽を重ねたスケルトン。


・影騎士団

(先代)魔王軍第二軍団の長にして軍団そのもの。魔王の影。


「その忠。有り難く思う。」

その礼を魔王が受けた事により、チラシから「先代」の文字が消える。

第一・二軍、そして生魔が歴代を含め魔王に反した事はない。それは彼らが存在するのに魔王が必須でもあるからだ。

「ボルグ殿、ヒューリフィス殿はどうなのだ?」

この場にいる二名にも水を向ける。

「俺は先代より任された俺の部下が活かされるなら問題ない。」

「言い回しは好みではないのだけれど、私もボルグの言葉に近しいかな。」


・ボルグ=ゴブリン

先代魔王軍第六軍団の長。コルトディン防衛戦におけるゴブリンの英雄。


・ヒューリフィス=クロフォード

先代魔王軍第四軍団の長。国境大森林侵攻戦における英雄。


「そうか。ならば判断の前に伝えておこう。ワシは世界征服をするつもりじゃ。」

散歩の行き先でも告げるように口にし、ニヤリと口元を緩める。

その言葉に二人は目を見開き、口を開こうとし・・・止めて胸へと拳をつけた。先代の文字もまた消えていた。




ワシが世界征服を行う。

その理由は広い意味ではただの八つ当たりじゃろう。

愛する相手も恨む相手も別の世界におり、どうしようもない無力感を転化しただけの八つ当たりじゃ。

理屈をこねるなら、ゆずと残した知識や経験で支えられてる現在すらを失うぐらいなら活かし世界を存分に騒がせてやろう。盛り上げてやろう。そんな感情の打算じゃった。


そもそもゲオルグですら人間という種族に対して明確に恨みがある訳ではない。魔王領にも普通に人がいる。特定少数をくくって人間と称したに過ぎないのだ。魔族主義や人類主義などもこの世界の歴史においてもあるにはあった。しかし種族の壁は共通魔法の広がりと共に大きく変貌してしまったのだ。


『魔力とは存在する力である。』その力を行使する。配分する。注ぎ込む。切望する。神さんが出来た後の世界では、その力はより顕著だった。そして結果として異種族間であろうとも子を成す事が当たり前となったのだ。

特に両者が望み、期待し、そこに『在る』場合。更に神さんが認めてくれようものなら、それは容易かった。

そして種族の差は徐々に失われつつあった。


ボルグのように種族名を残し、そうである事に誇りを持つ者も中にはいる。そしてまたボルグのように旧来の種族とは思えぬ者も多い。

元々ゴブリンの体格は大きい者でも一メートルそこそこしかない。

しかし彼はその3倍はある。旧来の種族で考えればオーガと間違われても不思議ではないのだ。

但し異種族間においては在ろうとする姿に差が大きいと授かり難いともされている。特に生活圏域が異なる場合での妊娠の例は少ない。どういう存在となるかを心の何処かで疑い、信じきれないのかも知れない。


異世界物として捉えた時、神さんの存在こそが、この異世界における一番のチートと言えてしまうのかも知れない。


それが今のワシの分析じゃった。

そして分析と言えば・・・



名前:ゲンゾウ=タケナカ

職業:魔王

レベル:49

力 :36(+20)

器用:41(+15)

敏捷:42(+20)

知力:55(+15)

体力:27(+20)

運 : 6(+5)

※増減分反映済み

称号:魔王・復讐者・全うせし者



これ等上記のステータスに対しても詳しくみようと思えば、神さんはきちんと答えてくれる。



魔王:最も多くの意思を持つもの達の悪感情を直接・間接的に呼び起こす、呼び起こせる者。またそれを期待される者。

All+15 他。


復讐者:復讐を強く願う、誓う者。

力+5 敏捷+5 体力+5 運-10


全うせし者:天命を全うしたもの。

???


職業レベル:魔王1 (戦士15 盗賊10 探索者15 他。)


と言ったようにじゃ。

レベルが最初から49なのも職業レベルで最初から増えておるものも何故かはおよそ検討はついておる。

ワシは昔従軍経験があった。戦士や盗賊、探索者などは恐らくはそれが影響しておるのだろう。『他』の中身も仕事勤めの経験ではなかろうか。

そして比較対象がないため多いか少ないかわからないのじゃが、ワシが積んできた総合的な経験が49と言う評価なのだろう。


ワシは元々天寿を全うしておるのじゃ。全うせし者とは恐らくそういう事じゃろう。効果は???とハッキリかかれてるのはやや解せんがの。


2015年4月8日

一部誤字・脱字に修正加えました。


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