ボルグ=ゴブリン
ボルグ=ゴブリンは、分類するのであれば混血である。
同種族同士の交配による一般的な繁殖や、その種族が本来持つ性質による繁殖ではなく。
魔力によって生まれた存在を指す言葉である。
ボルグの母はゴブリンの長であった。
ゴブリンキングの永らく生まれぬ中、彼女は誰よりも頑健であった。
自力やまとまって生きるゴブリン達以外、自身の力の至らぬ塔に残るより他の生きる術を見つけられなかったゴブリン達が頼ってきたのがボルグの母であった。
彼女は皆に、ママと呼ばれていた。
ママ。それが族長とある意味同義語であった。
頼られ、頼られ、まとめあげるに従い。そのたくさんの子らからによってもたらされる安定した食糧に従い。
彼女はそれは見事なボディーラインを有していた。
溢れこぼれんばかりの胸は多くの子らに安らぎを与え、その長く(そしてたくましく)伸びた腕はどんな迷える子らであっても(逃れようなく)救っていた。
張りのある突き出た尻はそこから続く太腿の肉質を強調していた。
その両者を繋ぐウェストも両者の存在を引きたてるべく、その身を引く細さを見せていた。
視線を釘付けにしてやまない刺激的な容姿は常に周囲の劣情を駆りたてていた。
そんな彼女が見初めた相手が、彼の父であった。
父に出会うまで、恋多き女性であった彼女は一途にその身を(物理的にも)寄せ恋し愛し抜いたという。
父は若いオーガであった。まだ未熟さを残すも高い練度を有している戦士であった。
その彼を持っても母の魅力の前には成す術もなかった。
繰り返される睦言の月日。
その愛の結晶がボルグであった。
父は基本的に母のする事に何かを言う人ではなかったが、ボルグの10歳の節目の日に伝えられた一言。
「とある異界の字では愛はな・・・。心を中心で受けるって書くそうだ。」
そう眼を合わせているようで、その眼をボルグ自身を透かしてその背後にある遥か遠くを見つめるように語りかけられたその言葉は彼の中で深く残っていた。
(そして、続く父の言葉はボルグに聞かされる事なく、酒と共に喉の奥へと終い込まれた。)
ボルグが試練の塔に挑んでいなかったのは、そこが実家であり墓標でもあった事が理由であった。
塔を登り切り。頂上の部屋の中央に置かれた初めてみる父の墓標に、長く預かっていた母を納める。
父母の再会が遅くなった事は軽く詫びつつ、その再会をボルグは祝福した。