望むものの為に。
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悪夢はそこにあった。
そしてそこになければ悪夢は語られる1つのそれでしかなかった。
しかし、そこにあるのだ。ならば悪夢はそれに成らざるおえない。
無かった悪夢はそこに在ってしまったのだから。
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国境大森林の中。
エルフと呼ばれる人達の中にも様々な人達がいたが、森の近辺で過ごすものと森の中で過ごすものとではその生活は大きく異なる。
近辺で過ごすものは家や小屋を建て生活を成す者が普通であるが、森の中で過ごす者は森の変化と共に過ごす為に家や小屋を持つ事は難しい。
そしてその生活はある程度の難易度がある。その事もあり森の奥で生活を成す者の総数は多くない。
森の奥に住む者を大別するのであれば、一定以上の野営知識を持ち、好んで住んでいる者か・・・やむにやまれず住んでいる者のどちらかであろう。
その赤々と輝く宝玉を手にしていた男も後者であった。光を返し、また透すその玉の輝きに魅せられて奪い去って逃げ延びる。この森に訪れる後者としては典型的な人物だった。
そして森に生きるもの達に食われてしまう程度の男であったというだけだ。
牙を持つ獣がその男の腹を喰い、足をもぎ取り巣へと帰る。その後をついばむものが眼をほじり喉を鳴らす。
肉が骨が糧となっていく中、男の持ち物もまたその存在力を森へと奪われていく。砂となりて風の中に帰っていく中でも赤々とした宝玉は輝きをみせて森にいた。
(・・・セ。)
森の中、わずかにあたる光を返す赤い赤い宝玉。
(・・・コ・・・セ。)
輝きに誘われるように巣へ持ち去ろうと飛びよるカラスが一羽。
(コ・・・ノコ・・・セ。)
咥え去ろうとくちばしをのばすカラス。それを包み込む程の赤い光を宝玉が放つ。
(子ヲノコセ!)
より一層その輝きは増し、カラスも木々も包むその光に飲まれ・・・。
草木の見当たらない空間が残された。その空間を奪い合うかのように木々が伸びていく。
そして後には空間すら残らなかった。
ただ1つの獣を残して。
試練の塔の下層は魔力の高い動物が住みやすい。もしくは動物が魔力を帯びやすい。
それらの歓迎を抜ける事が格上ゴブリンへの第一歩となる。
ボルグにとって下層は気に掛ける事は何一つなかった。
中層以降には魔力生物が現れ始める。魔力生物は存在力によって生まれた動植物達でその生態は動物達と異なる。細胞分裂によってその数を増やす犬のような生物であったり、種子によって子孫を残し光合成を行う鳥のような生物であったりだ。
要所要所では意思や命を宿した石像や鉱物も姿をみせる。
ボルグはそれらを避けるでもなく、狙うでもなく、ただ自身の邪魔になるものを排除しながら先へと進んでいた。
振るうは一本の鎚。長さは1m50程あろうか。先端も1m足らず程あるそれで潰し、砕き、弾いて進む。
前へ。上へと。