エキスパート
試練の塔の話を聞き、またボルグが未だ試練の塔に挑んでない事を知るとその疑問を素直に問いかけたと言う。
ボルグの話す挑んでない理由が町の統治や部隊の統率である事を聞くと、即座に挑むように命じてしまったそうだ。
理由が表向きであれ、それを理由にあげるぐらいであれば、思いっきり挑戦してこいとの事であったそうだ。
それが現在、コルトディンに魔王がおり、ボルグが離れている理由だと知った時。コーベルは驚きを隠せなかった。
一目見る機会があればと思っていると魔術師ギルドを頻繁に出入りし、師事している事を知り更に驚いた。
「最初は1つでえぇ。創造よりも想像をとにかく明確に鮮明にしていくのじゃ。想うだけで浮かび上がるぐらいその想像を馴染みのもんにせぃ。」
そう言いながらゲンゾウは小さな火の星を自身の指先に灯らせる。
「己が目指す道にもよるが、想像の精度を高める事はとても大事じゃ。詠唱は唱え、意味を考えれば、想像が膨らむじゃろ?無論、魔力を注ぐ感覚を誘導・誘発もしてくれおる。きちんと詠唱し感じたものを丁寧に丁寧に想像の中に体の中に落とし込んでいくのじゃ。魔術を弄るのはきちんと1つを修めてこそ出来るものじゃ。自分の感覚を丁寧に観察せい。」
それはゲンゾウがgAvで繰り返し行ってきた事でもあった。上級職エキスパートは魔術師の職で修めたスキルのうち対応した属性の魔術を弄る事が出来る職であった。
gAvも多くのVRMMOのように3つのスキル発動のパターンがある。
コマンド選択によるスキル発動。初動作と技名による発動。手動による発動。
スキル発動後の硬直などのデメリットや違和感の差、うっかり発動するような事がないように、『手動による発動』は出来ないゲームや出来ない設定に出来るゲームも少なくない。
エキスパートは、この『手動による発動』が最大限に活かされる職とも言えた。
職業エキスパートの持つスキルを発動する為には、『コマンド選択によるスキル発動』か『手動による発動』の二択しかない。
それは魔術師で所持していたスキルを使用する際に、消費するMPを増減させる事で威力や速度、効果に射程などを変化させる出来る職業であったからだ。
コマンド選択によって詠唱と共に始まる様々な感覚の差異を覚え、手動で発動させる事が出来なければ戦闘中に魔術の行使は不可能になると言われている特殊な職であった。
決して多くは無いようであるが、ゲンゾウのようにこうした魔術の使い方ができる人物はいる。
ならばと思い伝えようとしてみているのだが・・・まぁ無詠唱の助けになるか・・・程度であった。
ゲンゾウは主に≪風刃≫を好んで使う。
矢対策に自身の周囲を舞わせる事を基本にしつつ、その威力を弱めて自身の魔術の軌道を変える事にまで使用する。
≪火矢≫はどちらかと言えば見せ技に使っている。
土の壁なども≪土壌変化≫などから作ってしまう。
その為、実は彼自身は上位スキルはほとんど所持していなかった。
いや、エキスパートがメインのgAvプレイヤーのほとんどは自身のオリジナル魔法を如何に作るかを楽しんでいるか、戦闘の幅を広げる事に熱中していたのだから案外その内実は似たり寄ったりであろう。
隕石を降らせるような大規模魔術を覚えてるエキスパートなんて奴は存在しないのだ。
(大規模魔術を使いたがるのにエキスパートに興味を示すような人物は『ショートカットキーの使い方教えてあげるから大人しくウィザードにでもなってなさい。』と揶揄されるのが基本だ。)
「魔術発動の瞬間を感じ取れるようになったら、鮮明な想像で止めて可能な限り創造を進めつつ発動させないようにするのじゃ。これが速射の一番のコツじゃ。」
選択(想像)⇒具体化(詠唱)⇒注入・消費(対価)⇒発動(創造)⇒反動(効果)
分け方は人や理論によって異なる所ではあるが、細分化していく中で取れる工夫は変わってくる。
ゲンゾウの場合。
まず想像をより明確にする事で、選択や詠唱を省く。ここは無詠唱の基本となる。
この想像を反復により体に覚え込ませる事でより素早い発動へと繋げる。
そして、この想像を複数ストックしておくような感覚で保持しておく事で初手の数を増やしている。
また、対価と創造の合間で止めるかのような意識で止める。或いは維持する。
すると効果の前半で魔術が止まる。その後発動を行う。
雑な言い方をすれば、流れ作業と後出しじゃんけんのようなものである。




