コルトディン
コルトディンは魔王領において、国境大森林に最も近い町だ。
砦と町とが一体になっているような町ではあるが、壁内、砦周辺並びに物見塔周辺以外は人の行き来に関しての制限は緩い。
これは他の繋ぎ目近くの町にも似たような事が言える。
理由はいくつかあるのだが、チラシの影響が一番大きいのであろう。
中には例外もあるのだが、チラシを見る事で大体の素性はわかる。
何処かの軍隊に属していれば所属が載る事が普通であるし、その職業も大体はチラシでわかる。
ある程度一か所に定住しているものなら、その村の名前が載る事もしばしばだ。
何より腕の立つ者であればチラシの記載内容が増える。
無論関所ではIDの確認や身分証明を必要とする事もあるが、チラシを見られる程度で済む町もしばしばある。
先程人の行き来は緩いと言ったが、無論大規模な人の集団を組んでの移動となれば別の話である。
コルトディンの街中は勿論の事ではあるのだが、コルトディンの周辺に入れば必ず目に入る建造物がある。
コルトディンから半日ぐらいの距離の所に建つその塔はホールケーキのスポンジを何段も何十段も積み上げたかのような見た目でそこにそびえ立つ。その塔は試練の塔の名で知られていた。
試練の塔は元々、ゴブリン達の住処であった。
その塔を登る事でゴブリン達は成長を遂げ、最後まで登りきれた者がゴブリンキングと呼ばれる。
その習慣そのものは今でも残っているのだが、塔そのものは冒険者を含めた人々に開放されている。
もとい。今時のゴブリンはそこには住んではいない。彼らの大半が住むのはコルトディン。
コルトディンはゴブリン達が築き上げた町である。
コーベルは視界に試練の搭を捉える事で時折位置を確認しながら、街中を歩いていく。
時折見かける兵士らしき人のチラシをこっそり確認してみる。
そこに先代の但し書きのない魔王軍の文字を見て、少し憂鬱になる。
(もう魔王軍なんだなぁ・・・)
コーベルはまだ宣言していないうちにこちらへと移動したいと思っていた。
仕方ないよねぇ・・・と軽く眼を閉じ頭を左右にふらふらと振って気持ちを整理する。
(うん・・・。まずは冒険者ギルド。そっからそっから。)
思考を一旦止めてしまって、やる事のみに意識を絞る。
歩みの遅くなっていた足を急かしながら歩みを進めて行った。
冒険者ギルドには多様な種族が見られる。とはいえ此処で最も多いのはやはりゴブリン達。ただしその体格はマチマチだ。70cm前後ぐらいから3mを越える者までいる。
元々は体格は1mを越えるものが少ないぐらいのゴブリン達だが、試練の塔の中層を越える頃にはホブゴブリンとして、上層に入る頃にはゴブリンエリートとしてその体格を大きくすると言われていた。
だが、普通の種族間繁殖以外の方法が知られてからは混血は増えている。その為体格で判断は出来なくなってきている。
第六軍団軍団長のボルグもまたその一人である。彼は故あって未だ試練の塔に望めていない。だが同時にゴブリンとして生きる事に強く思いを持っており、塔に挑むのは彼にとっては大事な事の1つでもあった。