コーベル=ビアン
受け取った指令書のチラシ裏にサインをし、本人確認を済ませた後。
『国境大森林を越えて・・・しろ。』
素早く目を通して後、指令書に火を放つ。
既に字が燃え消え始めているそれを眺めながら考える。
国境大森林を越える。
それは魔王領に入る事を示す。
「重い任務だが、頼んだぞ。」
「あぁ承知してる。」
会話は短く、そこに二人の人物がいた事は燃えた指令書と共に見えなくなっていった。
そんな会話を交わしたのはつい先日の事である。
森を抜ける為に私はエルフの協力の下多くの積み荷を運んでもらっている。
国境大森林の物流はエルフの協力が欠かせない。余程規模の大きい商隊や軍隊でなければ大なり小なり頼るのが普通であろう。
飲み水や食糧に武具積み荷を持ったまま整備されてない森を食糧持参で抜けるのは過酷である。
森のものを食べる事が出来る者に手伝って貰い、その分の荷を持ってもらうのが無難だ。
私もそんな中の一人だ。
一人だと言っても私一人が渡っている訳でもない。私と旅商人、旅商人の護衛が二人だ。
町や国レベルでの交易はなくとも、種族の差で直接迫害に繋がるケースは今はほとんど無い。
過去に魔法の扱いに関する一部の知識を独占してあげた利益を妬んで、ある国が率先して精霊族を迫害した事もあるが、今は存在力の混じり合った種族が多すぎて、気にする方が少数派である。
種族で軍を分けた先代魔王の方がある意味ではその少数派だったのかも知れない。
森をかきわけながらエルフ達に先導してもらって歩く。
肌の露出を避けた服装の上からもその細い手足は目立つ。口元を覆った布のせいで正直ちょっと息苦しい。
まぁ・・・しょうがないんだけどさ。
コーベル=ビアン
・冒険者。ギルドランクはC。(神さん)
うん。相変わらずシンプルなチラシ。その事に私はちょっと満足に思う。
ちょっと何かがあると定着させようとしてなのか、余計な事をチラシに乗せたがる神さんはたまに・・・いや、結構・・・常に、って程ではないよね?面倒な存在だなぁとも思う。
目立つと途端に囃し立てるそれが神さんクォリティー。
ほんと、お願いだからおとなしくしてて下さいね。神さん。
神さん頼み。神さん頼み。
森を抜けるにあたって、特に騒動に巻き込まれる事のなかったコーベルはそんな事を思いながらコルトディンに到着したのであった。




