繋ぎ目
国境大森林を越えての遠征。それは多くの魔王が挑み、また魔王を滅ぼすべく幾多の勇者達も挑んできた難所である。
国境大森林は森と共に生きる事を選ばぬものにとっては不毛の大地、荒れ果てた荒野とその意味は大差がなくなる。
エスベルツ教、聖地エスベルツは国ではない。確かに森に人は住み、原住民として暮らしてはいる。暮らしてはいるが互いにその干渉はない。手を出す事の不毛さが大きいのだ。
切り拓いても蘇るその森は常に行軍速度を落とし、戦場を分断する。どのように線や面で繋いできてもこの森で分断されるのだ。森の中での戦場は常に点であった。
国境大森林近郊には森の内と外の中間で暮らす人も少なくない。
しかし、必要な資源、物資、食糧、飲用水ですら森に住むのでない限りは森から頂く訳にはいかないのだ。
森のものを頂く事は聖地エスベルツをその身に受け入れる事であるのだから。
略奪行為が意味をなさない。この一点は両軍にとって大きかった。
無論、他の地域でも行う事の愚はあるのだが、それ以上に聖地エスベルツにおいては愚であった。
魔王の遠征後の敗走においても、勇者たちの遠征後の敗走においても、
両軍共に森に属して故郷に帰らぬ殿となった死兵は多くいる。
しかし、森の中に常駐する事。すなわち拠点化する事は困難であった。森はその形を戻そうとする為である。
森の外部から持ち込めば一定の体裁は作り上げる事が出来るのだが、月日を重ねるに従い、建材やナイフ、着て来た衣類でさえ森の資源へと変化していく。
何かを奪い取ったとしても、奪った物は森に取り返され、奪い奪われた互いの感情だけが残る不毛さがあるのだ。
魔王軍第四、第六軍団のヒューリフィス、ボルグの両名はそんな国境大森林ににらみを利かせる軍団長である。
先代、ゲオルグの勢いが無くなった後。国境大森林を越えてきた連合軍に対して、ボルグは魔王領側に拠点を作らせなかった功績が、ヒューリフィスには連合軍側のエルフ達に向けての牽制と連合側の砦アレスへの侵攻戦による魔王領側に侵攻していた部隊の撤退を促した功績がある。
連合軍側のエルフと称したが、国境大森林に帰らぬ兵として生きる者も両軍共にいる。
国境大森林はゲリラ戦地区でもあった。
過去の戦を紐解くなら森を一直線に焼き払い進んで、電光戦を行ったものもいる。
しかし森の修復速度に飲み込まれ、後続が続かず補給線を断たれてしまったケースであった。
可能であるのなら森そのものを迂回する事を選びたい所ではある。
選びたい所ではあるのだが、魔王領のある大陸と連合国のある大陸を結ぶ地域こそが国境大森林であった。
国境大森林、海域デリタ、魔狭トルナオトを繋ぎ目として魔王領と世界は繋がっている。
『はるか昔、今よりかの世界に魔力という概念が薄かった頃。その存在力は物質に強く宿っていた。
当時世界は聖地を中心に球形をしていたと言われている。
ある日空に浮かぶ太陽がより強く輝きそのまま失われた。その輝きは強く世界もまた一度失われた。
多くの物質に宿っていた存在力は、世界と共に壊れた物質達を離れ、上空と地下の間に多量に解き放たれた。
解き放たれた存在力は、元取っていた球形の惰性により世界を回り続け、徐々に世界を回していた軸の両端へと偏っていった。
その存在力は一方はオブバース、他方はリブバースと呼ばれる世界を産み出した。
そして世界の回る中心であった聖地の残滓は回転のもっとも外側に偏っていった存在力を糧に蘇った。
その存在を3つに分ける事によって。』
これがこの世界の成り立ちと言われてる。口伝で各地に伝わっていた世界創生の話を神さんと共通魔法『神さん』を生み出しし魔法使いが共同編纂したのが上記の説と言われている。
つまり、魔王領と連合国やその他の国々は国境大森林、海域デリタ、魔狭トルナオトを繋ぎ目に繋がっているのであった。




