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激昂の炎は闇に包まれて

((許さん!許さんぞ!この人間風情がっ!!!!))


闇の中で我は吠えた。声の限り。魂から。

だが違和感を感じた。

確かに先程我は慟哭をあげた。それと重なるように全く同じ慟哭を聞いたのだ。

正確には同じではない。音も韻も違うそれは別物とも言える。

しかし我には同じとしか捉えようがなかった。

ならば、同じなのだろう。

この自らすら見えぬ暗闇の中で、その憎悪こそが灯火なのだ。

同じく闇に堕ちる者で同じく憎悪を焦がしている者に興味が湧く。


「其は何ぞ?」「お前は誰じゃ?」


言葉は同時だった。

それ以上に聞こえた場所と言葉の放たれた場所も同じであった。

闇・・・否。混沌においては一だと気付き。

我は明瞭に希望を抱いてしまった。

「そうか。汝は我か。ふふふふ。よかろう!ならば後は託す!存分に力を使え!」

奮うもよし。蓄えるもまたよしだ。憎しみ、怒り、嘆き、妬み、望みの絶えた中で空虚になり、頭を冷やし静かに次を練る。

綿々と続くそれこそが希望と言うなの輝かしさでもある。

欲し奪う為の力を望むのも、囲い守る為の力を欲するのも大差はないのだ。

「我は次代の魔王を歓迎しよう。」



ワシは言葉を返す間もなかった。

脳裏にはゆずの姿が焼き付いている。右も左も近くも見えぬこの暗闇の中では想像力が存分に仕事をしてしまう。

その為恨みは増していくばかり。消えぬ炎が沸き立ち続ける。

その炎に油を注ぐように身のうちより更に炎が増していくのを感じる。そこで気付く。自らの体すら見えぬ闇の中で透けた体ですらなく未だ身を成さぬ何かのような感覚に。

そしてどうでも良かった。ここにゆずはいない。その失意が闇を深くする。そして深い闇はゆずの姿をまた脳裏に見せる。

そうしてワシは形を成すまで闇に抱かれていた。





幾度、幾十度、幾百度繰り返した後。

「ワシは許さん!!!」

闇を弾き飛ばしながら、ワシの声は初めて響き渡った。

ワシの目には闇と共に弾き飛ばされた何かの姿と、呆然と立ち尽くす人形。平伏するローブ姿の者と・・・何やら見かけぬ者ばかりと赤い絨毯を挟んで石柱の並ぶゆずと遊んだゲームぐらいでしか見たことのない景色が広がっていた。




「お目覚め喜ばしく魔王様。」

頭を下げて礼を尽くすローブ姿の者が声をかける。飛ばされていた者を筆頭に動ける者から順にローブ姿の後ろに控え頭を下げて膝をついていく。

「まて。ワシが魔王とな?」

左手でローブ姿を制するように手を伸ばし、こめかみを抑えながらそう答えてしまう。

「勿論です。魔王様。」

頭を下げたまま答えるローブ姿。

「・・・すまんが話しにくい。顔をあげてくれ。後ろのものも頼む。」

「有り難きお言葉。しかしながら・・・」

「しかしは無しじゃ。煩わしい。」

不快感を顕にして言い切ってしまっておく。その方が顔をあげてくれやすいじゃろ。

「では、恐れながら失礼させて頂きます。」

そのローブ姿の者は顔にあたる部分に仮面が浮いていた。

「・・・」

抑えたままのこめかみを揉んでしまう。

「すまん・・・すまんが聞きたい事だらけで何から聞けば良いのかわからん。」

正直お手上げじゃ。そんなワシに更に追い討ちをかけるようにその者は告げた。

「でしたら、『神さん』に聞けばよろしいかと。」

「・・・・はっ?かみさんじゃと?」

何故そこで妻が出てくる?うちの婆さんは何を知っとるというんだ???

「はっはい。えぇーと。共通魔法『神さん』をお使い頂けますと有り難いのですが・・・」




そこからの話は長かった。あまりに長かった為途中で中断し、食卓の間に移って食べつつ、更に話を伺った。


要約すると。

ここは魔王の住む城でワシが魔王だそうだ。

何故ならワシのステータス画面にそう書いてあるからじゃ。

そうステータス画面じゃ。奇しくもゆずとのゲームで指差しながら教えてもらったステータス画面じゃった。幸いSTRでなく力と表記されてる。ほっ。


名前:ゲンゾウ=タケナカ

職業:魔王

レベル:49

力 :36(+20)

器用:41(+15)

敏捷:42(+20)

知力:55(+15)

体力:27(+20)

運 : 6(+5)

※増減分反映済み

称号:魔王・復讐者・全うせし者


そしてもう1つ魔王と呼ばれる所以があった。

それが共通魔法『神さん』じゃ。

共通魔法『神さん』は平たく言えば解説であり知恵袋であった。

例えば、ワシの事を『神さん』に聞くと


・魔王ゲンゾウ

現魔王。現時点での詳細は不明。(神さん)


と透明の吹き出しが浮かんでくる。この吹き出しを『チラシ』と呼ぶそうじゃ。

そして勿論チラシには裏がある。

ひっくり返すと


魔王マジパネェ!!俺寝起きに吹っ飛ばされたし!!迫力パネェ!!!(ID:dm1122780015)

魔王様サイコー!!!魔王軍最強!!!(ID:dm1120623728)


など書かれていた。


もう少し分かりやすい例をあげるとする。


・薬草

体力(生命力)を回復する源となる。(神さん)


裏は・・・


最近狩りが辛すぎて毎食薬草だよ・・・。(ID:ft6635194452)

煎じて煮出して飲むと以外とイケるよっ!(ID:ar4946325189)

等々。


情報が手軽に得られ、かつ交流が交わせるらしいのじゃ。

ステータスは基本的には本人にしか見れず、チラシは誰にでも見る事が出来る。この誰にでも見れるというのが曲者だ。

そしてこのIDと神さんもまた曲者なのじゃった。

なんとこの神さん情報。世間の認知度や本人の行ってきた行動等によって変化する。

ある男が人を殺害した場合。チラシにはきちんと殺人と書かれたりする。

そして、IDの方だがなんと一個体ごとに振り分けられ2度と別の数字や文字に変わることはないそうじゃ。

亡くなった人と同じIDになる事は稀にあるらしい。というより確認出来たケースが稀にしかないとも言うのじゃ。

個人情報もへったくれもない魔法じゃが、その為か書き込みも割りと慎重に行われる。

何故ならこのIDを公的な機関などは本人確認にも利用する為である。

例えば、冒険者ギルドに登録する時などは記入する申請書に対して神さんに問い、その申請書のチラシを出し、そのチラシ裏に「冒険者ギルドに登録します。」と記入させるのだ。するとその申請書には記入者のサインそのものの他に本人の『神さん』上のIDまで情報として残る訳である。

・・・住基番号の使い回しみたいで若干怖いのじゃが、神さん以外の他の誰もが番号を弄れず騙れないのが大きなポイントになっておるのじゃろう。

神さんはこの世界を支える大きな存在である。そう世界のあらゆるものは神さんの尻に敷かれているのじゃ。

神さんについて長くなってしまったが、それだけ世界に当たり前のように浸透しているこの神さん。

その神さんに魔王の烙印を押されてしまったのじゃ。これは中々にどうしようもない。

まぁ神さんについて語るのはこの辺りで置いておこう。



城内を軽く案内されつつ魔王の私室とされている部屋へと通される。

聞いた事をまだまだ整理しきれていないのじゃが・・・。

兎に角疲れた・・・。

豪華な天蓋を尻目に華美に彩られた椅子へと向かう。どちらも落ち着きはしないのじゃが一番無難な物を選んだつもりじゃ。

腰をかけ目を閉じる。

(ワシは・・・何をしてるんじゃろうな・・・)

ワシは確かに死んだし、確かにあの世界を離れた。それは解る。

闇の中。おそらく魂のままで喋ったのであろう相手。あれこそが魔王だった。それも何となくわかる。

そして、『神さん』の示すたくさんの情報。それも理解わかる。

細かい疑問をあげればキリがないのじゃが、恐らく聞けば理解わかる事ばかりなのじゃろう。

それが納得がいかない。納得出来てしまうその気持ちに対して納得がいかない。

(どれもこれもワシが理解わかるのはゆずのおかげではないか!)

両の手で頭を抱え込む。その手に力が加わり、自然と口が涙腺が開いていく。漏れる嗚咽。

柚美が源蔵に薦めてまた共に遊んだゲームや本達。その知識がその経験がワシの戸惑いや驚愕を緩和しているのがわかる。

何処までも助けられている。その事に己の無力さを思い出す。鮮明に浮かぶ姿を糧に当て所のない憎悪が燃える。

「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっ!!!!!」

叫びと共に腹の底から指先にかけて力がこもる。体の内側から大気の外へと出ようとする力を皮膚が押し止めるかのように全身がひりつく。ひりつき浮き上がる血管をとがめずに叫ぶ。

やがて身の内にて燃え上がるものが外へ広がっていくのを感じ、意識は空白となった。


そして気付いた時。部屋には空間を仕切る壁以外の機能はなかった。

窓も枠のみ。扉もそこにあったであろうふちのみ。石壁を残して机も椅子もベットも鏡も何も残らぬ部屋くうかんが残り、ただ何も見せぬくうかんに包まれていた。



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