影は立ち止まる爪先から伸びる。(また影なき足元も無し。)
今回の件。ゲンゾウにとっては不満もあった。
ひとつは、流れに乗って対戦を興じてしまい、結果として経験値を狩る事がなかった事。
ひとつは、落とし所の差であった。それは第八軍団のみが打撃を受けたという結果だ。
行動を起こしたそれぞれが恐れを抱いてくれたのなら幸いではあるが、第八軍団を除いた他が無傷だという点。これが悩ましかった。
最も先に言っていた世界征服を進めるのであればどちらの不満も結果的には解決しそうなのが(別の意味で)より悩ましい点ではあったのだが。
ゲンゾウの立場。即ち魔王である事。
そして尽くし従ってくれるもの達の姿が身近な者程異形である事。
それは自身の心に対する情報収集の難易度を高めていた。勿論単純な情報としては神さんがくれる情報は確かに膨大ではあった。だが、それは膨大すぎた。加えて言うなら水もの過ぎた。
チラシ裏まで追うのであれば、ある程度情報の取捨選択が大事になる。
そしてまだこの世界の人間と接していない点が大きかった。
ゲンゾウ自身はひとつの人生を確かに生ききって全うしていた。
死して尚残る無念はなかったのだ。死して後に生まれた未練があるだけで。
そしてゲンゾウは今自分が何処に立っているのかがわからなかった。
何故、自分が此処にいるのか。
ひ孫に対する気持ちをどうしたいのか。
それが見えてこなかった。
どういう理論で転生したのかだったり、この世界の常識がどうなっているのかだったり、自分以外にこういうケースがあるのかだったり、そもそも何で爺さんのままなんだ?だったり、以前の記憶があるのかだったり・・・あげればキリがないこれ等全ては気にはなるが、それ自体が気になっているのではないのだろう。
喩えとして表現するには正負が間逆になっている表現ではあるのだが、自分にとって好きで仕方ない伴侶の何を一体自分が好きなのかを悩むかのような。答えが出ずとも前には進めてしまう。何なら良く生きてしまえるような。
そんな感覚のシコリがゲンゾウにあった。
先に述べた二つの不満も、そんなシコリの残った想いから生えた枝葉だったのであろう。
ゲンゾウは特に魔王としてではなく、単純に世界征服してみる事で知り得るものが自分のわからない事を知るきっかけになるのではないか。そう漠然と思っていた。
魔王領内におけるイザコザは結果として、今期の魔王の個人戦闘力示すにとどまった。
地図が書き変わるでも大きな損耗を生むでも(第八軍団は大きな打撃を受けているが)なく、一枚岩ではない事をさらりと教える旨味の少ない結果である。
世界的には混乱を呼ぶ要素が少ない。ただそれだけの話だったのであろう。
それは相も変わらず、人々にとって魔王は魔王だと思わざる負えないというだけの話なのだった。




